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本編
相応しくない私(4)
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声の主は、イライアスだった。パーティー会場の階段の手すりに手を置き、こちらを見下ろしている。
「イライアス、なんでここに!?」
「パーティー会場から庭を見ていたら、見慣れた姿を見つけたから出てきたんだ。それより、なんでそんなところに一人でいるんだ?」
階段から庭に下りたイライアスは、ジェシカの前に立つ。正装のイライアスは、近くで見ると普段よりずっと大人びて見えた。知らない紳士を前にしているような気がして、ジェシカは落ち着きなく視線を泳がせる。
「あっ、その……、人混みに酔っちゃったから、庭の警備に回ったのよ」
「一人でいると危ない。ここは王宮だぞ。最近は貴族令嬢が失踪する事件も相次いでいるんだ」
イライアスの一言に、ジェシカはムッとした顔をした。
「なに言ってるのよ。私は第一騎士団のイノシシ娘よ。そこらへんの男たちの数倍は強いわ。心配ご無用よ」
「ジェシカは確かに腕が立つ騎士だが、心配くらいさせてくれ。それに、さっきはオリヴェル・フロイトルに話しかけられていただろう? 何かされなかったか?」
「えっ、別に……。この前は大丈夫だったかって聞かれただけよ」
「はあ……。俺のパートナーは放っておくとすぐに悪い虫に好かれるな。本当に、いくら心配しても足りない」
「な、なにが俺のパートナーよ! さっき、私のこと無視したくせに。しかもすっごい綺麗な女の子と一緒にいたし!」
ジェシカの口から、思わず棘のある言葉が口から飛び出す。そんなことを言ったとしても、イライアスを困らせてしまうだけだと分かっているのに、どうしても言わずにはいられなかった。
案の定、イライアスは一瞬驚いた顔をしたあと、「あー」とばつが悪そうに髪をかいた。
「あの場でお前に話しかけて、万が一でもレオに見られたら大変なことになる。レオは、役に立つと思った人物は片っ端から手駒にする男だからな。それは避けたかった」
「えっ、レオって誰?」
訝しげな顔をしてジェシカが質問したその時、階段の方から若い男の声がした。
「なんだ、イライアス。どうかしたのか?」
「まずい、レオが来た……!」
怪訝な顔をするジェシカを、イライアスは広い背中で隠そうとしたが、精巧な刺繍飾りのマントを翻した金髪の人物が階段を下りてくるほうが早かった。
現れたのは澄んだヘーゼル色の瞳をした青年で、プラチナブロンドの巻き毛は無造作に後ろに流してある。顔には笑みを浮かべているものの、どこか人を寄せ付けないオーラを纏っていた。年は、ジェシカやイライアスと同じくらいだろう。
どこかで見たことがある気がして、ジェシカは一瞬目を眇めたものの、すぐに思い至った。
「だ、第二王子、レオナルド殿下にご挨拶を申し上げます!」
ジェシカは慌てて踵を鳴らし、敬礼をする。イライアスは手を額に当てて大きなため息をつく。
イライアスとジェシカの前に現れたのは、キラヤ王国の第二王子レオナルドだった。イベントの護衛をしている時に遠巻きから見たことは何度かあるが、こんなに近くで見たのは初めてだ。
(ってことは、イライアスがさっきから『レオ』って呼んでるのはレオナルド殿下のことだったの!?)
イライアスが第二王子と親しくしているというのは噂には聞いていたものの、あだ名で呼ぶほど親しくしているとは思っていなかった。
当のレオナルドはジェシカを見た途端、大げさなほどに目を見開く。
「おお、夕陽のように輝く赤髪に、エメラルドの瞳! 君が噂のジェシカ・ウォグホーン嬢か!」
「殿下、彼女はただの同僚で……」
あくまで白を切ろうとするイライアスだったが、素直なジェシカは目を丸くしてしまう。
「ええ!? なんで私の名前をご存じなんですか? 私、デビュタントすらしてないのに」
「なんでってそりゃあ、イライアスに昔から耳にタコができるくらい話を聞かされていたからね。イライアスは俺の遊び相手だったんだが、とにかく無口でつまらない奴だった。それでも、君の話だけはペラペラとよくしゃべるんだ。君がSubだと分かった時のイライアスのはしゃぎようと言ったら――」
「レオナルド殿下!」
イライアスは焦った顔をして、レオナルドの口を抑えようとする。しかし、レオナルドのほうが反応が一足早く、笑いながらするりとイライアスの手を逃げた。そこで、ジェシカはようやくレオナルドの後ろに小柄な令嬢が立っていたことに気づく。
先ほどイライアスがエスコートしていた美しい令嬢だ。
「あ、あの、その方は……?」
「ああ、紹介が遅れたな。ジェシカ嬢に紹介する。彼女はリーデ・ソニエール。俺の婚約者であり、パートナーだ」
レオナルドはリーデの腰をさりげなく抱き、ジェシカに紹介する。よくよく見れば、リーデの首元にはフリルでできた可愛らしい薄桃色のカラーが巻かれている。ジェシカはすぐにピンときた。
(ああ、レオナルド殿下はDomで、リーデ様はSubなんだ……)
「イライアス、なんでここに!?」
「パーティー会場から庭を見ていたら、見慣れた姿を見つけたから出てきたんだ。それより、なんでそんなところに一人でいるんだ?」
階段から庭に下りたイライアスは、ジェシカの前に立つ。正装のイライアスは、近くで見ると普段よりずっと大人びて見えた。知らない紳士を前にしているような気がして、ジェシカは落ち着きなく視線を泳がせる。
「あっ、その……、人混みに酔っちゃったから、庭の警備に回ったのよ」
「一人でいると危ない。ここは王宮だぞ。最近は貴族令嬢が失踪する事件も相次いでいるんだ」
イライアスの一言に、ジェシカはムッとした顔をした。
「なに言ってるのよ。私は第一騎士団のイノシシ娘よ。そこらへんの男たちの数倍は強いわ。心配ご無用よ」
「ジェシカは確かに腕が立つ騎士だが、心配くらいさせてくれ。それに、さっきはオリヴェル・フロイトルに話しかけられていただろう? 何かされなかったか?」
「えっ、別に……。この前は大丈夫だったかって聞かれただけよ」
「はあ……。俺のパートナーは放っておくとすぐに悪い虫に好かれるな。本当に、いくら心配しても足りない」
「な、なにが俺のパートナーよ! さっき、私のこと無視したくせに。しかもすっごい綺麗な女の子と一緒にいたし!」
ジェシカの口から、思わず棘のある言葉が口から飛び出す。そんなことを言ったとしても、イライアスを困らせてしまうだけだと分かっているのに、どうしても言わずにはいられなかった。
案の定、イライアスは一瞬驚いた顔をしたあと、「あー」とばつが悪そうに髪をかいた。
「あの場でお前に話しかけて、万が一でもレオに見られたら大変なことになる。レオは、役に立つと思った人物は片っ端から手駒にする男だからな。それは避けたかった」
「えっ、レオって誰?」
訝しげな顔をしてジェシカが質問したその時、階段の方から若い男の声がした。
「なんだ、イライアス。どうかしたのか?」
「まずい、レオが来た……!」
怪訝な顔をするジェシカを、イライアスは広い背中で隠そうとしたが、精巧な刺繍飾りのマントを翻した金髪の人物が階段を下りてくるほうが早かった。
現れたのは澄んだヘーゼル色の瞳をした青年で、プラチナブロンドの巻き毛は無造作に後ろに流してある。顔には笑みを浮かべているものの、どこか人を寄せ付けないオーラを纏っていた。年は、ジェシカやイライアスと同じくらいだろう。
どこかで見たことがある気がして、ジェシカは一瞬目を眇めたものの、すぐに思い至った。
「だ、第二王子、レオナルド殿下にご挨拶を申し上げます!」
ジェシカは慌てて踵を鳴らし、敬礼をする。イライアスは手を額に当てて大きなため息をつく。
イライアスとジェシカの前に現れたのは、キラヤ王国の第二王子レオナルドだった。イベントの護衛をしている時に遠巻きから見たことは何度かあるが、こんなに近くで見たのは初めてだ。
(ってことは、イライアスがさっきから『レオ』って呼んでるのはレオナルド殿下のことだったの!?)
イライアスが第二王子と親しくしているというのは噂には聞いていたものの、あだ名で呼ぶほど親しくしているとは思っていなかった。
当のレオナルドはジェシカを見た途端、大げさなほどに目を見開く。
「おお、夕陽のように輝く赤髪に、エメラルドの瞳! 君が噂のジェシカ・ウォグホーン嬢か!」
「殿下、彼女はただの同僚で……」
あくまで白を切ろうとするイライアスだったが、素直なジェシカは目を丸くしてしまう。
「ええ!? なんで私の名前をご存じなんですか? 私、デビュタントすらしてないのに」
「なんでってそりゃあ、イライアスに昔から耳にタコができるくらい話を聞かされていたからね。イライアスは俺の遊び相手だったんだが、とにかく無口でつまらない奴だった。それでも、君の話だけはペラペラとよくしゃべるんだ。君がSubだと分かった時のイライアスのはしゃぎようと言ったら――」
「レオナルド殿下!」
イライアスは焦った顔をして、レオナルドの口を抑えようとする。しかし、レオナルドのほうが反応が一足早く、笑いながらするりとイライアスの手を逃げた。そこで、ジェシカはようやくレオナルドの後ろに小柄な令嬢が立っていたことに気づく。
先ほどイライアスがエスコートしていた美しい令嬢だ。
「あ、あの、その方は……?」
「ああ、紹介が遅れたな。ジェシカ嬢に紹介する。彼女はリーデ・ソニエール。俺の婚約者であり、パートナーだ」
レオナルドはリーデの腰をさりげなく抱き、ジェシカに紹介する。よくよく見れば、リーデの首元にはフリルでできた可愛らしい薄桃色のカラーが巻かれている。ジェシカはすぐにピンときた。
(ああ、レオナルド殿下はDomで、リーデ様はSubなんだ……)
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