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本編
セーフワードって何ですか?(5)
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ぴたりと動きを止めたジェシカに、イライアスは目線を合わせる。群青色の瞳が、心配そうにこちらを見ている。
「……嫌だったら、セーフワードを言え。無理強いするつもりはない」
「そ、それは、いやっ……」
セーフワードを言ってしまえば、このプレイは終わってしまう。そう思ったジェシカは、必死で頭を振った。散々甘やかされ、十分に満たされている気がするのに、まだ、もっとしてほしい。
『DomとSubのパートナーは、割り切った関係っていうじゃない』
ハンナにかつて言われた言葉が耳の奥に響く。ジェシカにとって、その一言は恐ろしく都合がいい言い訳になる。
(そうよ、割り切った関係なんだもの……)
恥ずかしさを押し殺して、ジェシカは膝立ちになり、ぎゅっと目をつぶった後、震える唇をイライアスの唇に押し当てた。ただ唇同士をくっつけただけの幼稚なキスだ。
羞恥に打ち勝ってコマンドに従うと、甘く、苦しくなるようなむず痒い快感が全身を襲う。羞恥すらも、快感になる瞬間があるのだと、ジェシカは初めて知った。
ジェシカがおずおずと目を開くと、イライアスは動揺した様子で瞳を揺らした後、左手で口元を隠した。
「ダメ、だった……?」
目の前のDomを満足させられなかったという恐怖に、ジェシカの瞳にじわりと涙が浮かぶ。色気の欠片もないキスをしてしまった自覚はある。
しかし、返ってきたのは予想だにしない一言だった。
「あ、いや……、まさか唇にしてくれるとは思わなくて……」
「あっ……」
ジェシカは未だにイライアスの唇の感触が淡く残る己の唇に、指先で触れた。
確かに、イライアスは「キスして」とコマンドで伝えたものの、「どこに」キスをするかまでは命令していない。キスをする場所は、手の甲や、頬でも良かったはずだ。それなのに、ジェシカは唇を選んだ。
「わ、私ったらなにを……っ! ご、ごめん、拭くからっ!」
そういって、ジェシカは人差し指でイライアスの口を拭こうとする。しかし、伸ばした手はイライアスの腕に絡めとられた。いつも鍛えているジェシカの腕よりも、さらに逞しい腕だ。
抵抗する間もなく、ジェシカはイライアスの膝の上に乗せられる。
「イライアス?」
「ああ、本当に……、ここまでする気はなかったのに!」
そう言うと、イライアスはジェシカの唇に噛みつくようなキスをした。どことなく性急て熱っぽい口づけは、ジェシカがした拙いキスとまったく違う。熱い舌に唇を割られ、咥内を蹂躙される。
息継ぎもままならず、空気を求めて口を開ければさらに噛みつくように深く口づけられた。
(これも、プレイなの……?)
DomやSubの事情に疎いジェシカは、まったくわからない。
ちょんちょん、と舌の先で促され、おずおずと舌を絡ませると、激しく舌を吸われた。
ちゅくちゅくと水音を立てて互いの舌が絡まるたび、腰の付け根あたりからゾクゾクとした感覚が這いあがる。初めてのキスに夢中になるジェシカの両手はいつのまにかイライアスの首に縋りついていた。
「んっ、ぁ……っ、ん、んぅ……っ♡」
何度も角度を変えて唇を重ねる。キスの息継ぎの仕方がわからず、頭がくらくらする。イライアスの手が、まるでひとつになろうとするようにジェシカを強く抱きしめる。
イライアスが唇を離す頃には、ジェシカは荒い息をつき、くったりとイライアスの体にもたれかかっていた。
頭にもやがかかってしまったかのように、うまく回らない。
身体中にふわふわと悦楽と安心感が溢れるようで、まったく身体に力が入らない。未だに強く抱きしめる腕の熱が、ひたすらに心地よかった。浴槽にたっぷり張ったぬるま湯に浸って、ぼんやりしている時のような心地よさだ。
(しあわせで、うれしくて、すごく気持ちよかった……)
今後、イライアスとこんなことを何度もするのかと思うと、不思議な気持ちになる。普段は顔合わせればすぐに喧嘩する仲だというのに。
「……ジェシカ」
イライアスが耳元で優しく名前を呼ぶ。その吐息の感触にさえも、体がひくりと反応してしまう。
「うん……?」
「すまない。少し、やりすぎてしまって……」
低い声に、後悔と焦りが滲んでいた。ジェシカはゆっくりと首を振る。
「イライアスだったら、いいわ……」
ジェシカはとろりとした表情のまま、素直に答える。頭上で、小さく息を呑むような音が聞こえた。イライアスの手が、優しくジェシカの頭を撫でる。
(あたたかい……)
こうして誰かに甘やかしてもらうのは、とても久しぶりな気がした。まるで小さい頃に戻ったようだ。
ジェシカは子猫が母猫にするように、イライアスの胸に頭を擦りつける。イライアスの体が一瞬強張った気がしたが、すぐにまた優しく抱きしめてくれた。彼の体温が、今は心地よい。
「イライアス、眠い、かも……」
そうポツリと呟くと、意識が急激に遠くなっていく。どうやら、一方的な強い刺激を与えられて、限界を迎えてしまったらしい。
「ジェシカ、ありがとう」
完全に眠りに落ちる寸前に耳元で囁かれた名前は、今までで一番甘い声をしていた。
「……嫌だったら、セーフワードを言え。無理強いするつもりはない」
「そ、それは、いやっ……」
セーフワードを言ってしまえば、このプレイは終わってしまう。そう思ったジェシカは、必死で頭を振った。散々甘やかされ、十分に満たされている気がするのに、まだ、もっとしてほしい。
『DomとSubのパートナーは、割り切った関係っていうじゃない』
ハンナにかつて言われた言葉が耳の奥に響く。ジェシカにとって、その一言は恐ろしく都合がいい言い訳になる。
(そうよ、割り切った関係なんだもの……)
恥ずかしさを押し殺して、ジェシカは膝立ちになり、ぎゅっと目をつぶった後、震える唇をイライアスの唇に押し当てた。ただ唇同士をくっつけただけの幼稚なキスだ。
羞恥に打ち勝ってコマンドに従うと、甘く、苦しくなるようなむず痒い快感が全身を襲う。羞恥すらも、快感になる瞬間があるのだと、ジェシカは初めて知った。
ジェシカがおずおずと目を開くと、イライアスは動揺した様子で瞳を揺らした後、左手で口元を隠した。
「ダメ、だった……?」
目の前のDomを満足させられなかったという恐怖に、ジェシカの瞳にじわりと涙が浮かぶ。色気の欠片もないキスをしてしまった自覚はある。
しかし、返ってきたのは予想だにしない一言だった。
「あ、いや……、まさか唇にしてくれるとは思わなくて……」
「あっ……」
ジェシカは未だにイライアスの唇の感触が淡く残る己の唇に、指先で触れた。
確かに、イライアスは「キスして」とコマンドで伝えたものの、「どこに」キスをするかまでは命令していない。キスをする場所は、手の甲や、頬でも良かったはずだ。それなのに、ジェシカは唇を選んだ。
「わ、私ったらなにを……っ! ご、ごめん、拭くからっ!」
そういって、ジェシカは人差し指でイライアスの口を拭こうとする。しかし、伸ばした手はイライアスの腕に絡めとられた。いつも鍛えているジェシカの腕よりも、さらに逞しい腕だ。
抵抗する間もなく、ジェシカはイライアスの膝の上に乗せられる。
「イライアス?」
「ああ、本当に……、ここまでする気はなかったのに!」
そう言うと、イライアスはジェシカの唇に噛みつくようなキスをした。どことなく性急て熱っぽい口づけは、ジェシカがした拙いキスとまったく違う。熱い舌に唇を割られ、咥内を蹂躙される。
息継ぎもままならず、空気を求めて口を開ければさらに噛みつくように深く口づけられた。
(これも、プレイなの……?)
DomやSubの事情に疎いジェシカは、まったくわからない。
ちょんちょん、と舌の先で促され、おずおずと舌を絡ませると、激しく舌を吸われた。
ちゅくちゅくと水音を立てて互いの舌が絡まるたび、腰の付け根あたりからゾクゾクとした感覚が這いあがる。初めてのキスに夢中になるジェシカの両手はいつのまにかイライアスの首に縋りついていた。
「んっ、ぁ……っ、ん、んぅ……っ♡」
何度も角度を変えて唇を重ねる。キスの息継ぎの仕方がわからず、頭がくらくらする。イライアスの手が、まるでひとつになろうとするようにジェシカを強く抱きしめる。
イライアスが唇を離す頃には、ジェシカは荒い息をつき、くったりとイライアスの体にもたれかかっていた。
頭にもやがかかってしまったかのように、うまく回らない。
身体中にふわふわと悦楽と安心感が溢れるようで、まったく身体に力が入らない。未だに強く抱きしめる腕の熱が、ひたすらに心地よかった。浴槽にたっぷり張ったぬるま湯に浸って、ぼんやりしている時のような心地よさだ。
(しあわせで、うれしくて、すごく気持ちよかった……)
今後、イライアスとこんなことを何度もするのかと思うと、不思議な気持ちになる。普段は顔合わせればすぐに喧嘩する仲だというのに。
「……ジェシカ」
イライアスが耳元で優しく名前を呼ぶ。その吐息の感触にさえも、体がひくりと反応してしまう。
「うん……?」
「すまない。少し、やりすぎてしまって……」
低い声に、後悔と焦りが滲んでいた。ジェシカはゆっくりと首を振る。
「イライアスだったら、いいわ……」
ジェシカはとろりとした表情のまま、素直に答える。頭上で、小さく息を呑むような音が聞こえた。イライアスの手が、優しくジェシカの頭を撫でる。
(あたたかい……)
こうして誰かに甘やかしてもらうのは、とても久しぶりな気がした。まるで小さい頃に戻ったようだ。
ジェシカは子猫が母猫にするように、イライアスの胸に頭を擦りつける。イライアスの体が一瞬強張った気がしたが、すぐにまた優しく抱きしめてくれた。彼の体温が、今は心地よい。
「イライアス、眠い、かも……」
そうポツリと呟くと、意識が急激に遠くなっていく。どうやら、一方的な強い刺激を与えられて、限界を迎えてしまったらしい。
「ジェシカ、ありがとう」
完全に眠りに落ちる寸前に耳元で囁かれた名前は、今までで一番甘い声をしていた。
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