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本編
知らないうちにパートナー!?(4)
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気が付けば、先ほどまでの倦怠感や眩暈は消え、頭はスッキリしている。
「……落ち着いたようだな」
先ほどの優しい声は、いつもの冷たい声に変わっていた。見上げれば、いつものイライアスの顔がすぐそばにある。冷血騎士というあだ名に相応しい、鉄仮面のような無表情が。
ジェシカは転がるようにイライアスの腕の中から抜け出した。背中に嫌な汗がどばどば流れていく。
「うわぁああああ! 騎士の恥! ウォグホーン家のご先祖様ごめんなさい! 私の馬鹿!」
ジェシカはポカポカと自分の頭を殴ったものの、そんなことをしても時間が戻るわけでも、ジェシカの記憶が抹消されるわけでもない。
急に錯乱してジタバタし始めるジェシカを見て、イライアスは呆れた顔をした。
「別に、恥ずかしいことではないだろう。ジェシカはSubなんだから」
「ひ、卑怯よ! 私がSubだからって、それに漬け込んで!」
「弱ったジェシカに漬け込むような真似をしたのは確かだが、ジェシカだってたまたまそこにいた俺を利用して欲求を満たしただろう」
ぐうの音もでない反論にジェシカは黙るしかない。
確かに、イライアスのケアで身体が劇的に軽くなった。おそらく、この状態がダイナミクスの欲求を満たした状態なのだろう。
しかし、だからといってジェシカの羞恥心が収まるわけがなかった。イライアスに寄りかかってわんわん泣くという醜態を晒してしまった自分が、ただただ恥ずかしい。
イライアスは立ち上がり、さっと衣類の乱れを直した。役目は終えたと言わんばかりの背中を、ジェシカはジトっとした目で見る。あんなに恥ずかしいことを散々言っておいて、よくもこんなに平気な顔でいられるものだ。
ジェシカの視線に気づいたのか、イライアスは振り返った。本心の分からない瞳が、まっすぐにジェシカを見つめる。
「あ、そうだジェシカ。お前は今日から俺のパートナーだから、そのつもりで」
世間話より何気なく言い放たれた一言に、ジェシカは目を剥いた。
「……は?」
「ジェシカが眠っている間に、パートナー登録は済ませている。これが証明書だ」
そういって、イライアスはポケットから折り畳まれた紙を取り出した。そこにはイライアスとジェシカの名前とともに「パートナーと認める」といった内容の文章が書いてある。
「えっ、えっ、えっ、待って!? どういうこと!? 私は同意した覚えがないけど!?」
「別にジェシカの同意は必要ない。師匠……いや、ウォグホーン子爵には許可を取ったからな」
「お父さーん!?」
キラヤ王国は伝統的な家長制が色濃く残る国だ。しばしば、公的な書類は本人ではなく当主のサインだけで承認されてしまうものもある。どうやら、パートナー登録もその類のものだったらしく、ジェシカが眠っている間に、当主であるウォグホーン子爵がサインしたようだ。
ウォグホーン家が治める領地まで、馬で飛ばしても半日はかかる。ジェシカが眠っていたのが二日とすると、かなり急いで行って帰ってきたようだ。
「お、お父さんがそんな馬鹿げた話を了承するはずが……」
「状況を説明したら、師匠は泣いて喜んでいたぞ」
忘れていた。イライアスはジェシカの父を剣の師匠として敬愛している。ジェシカの父も、イライアスを実の息子のように可愛がっていた。
だからこそ、イライアスとジェシカがパートナーになると言われても、ジェシカの父はさして反対もしなかったのだろう。
「私と、イライアスが……パートナー……」
寝ている間に、大変なことになってしまった。由々しき事態だ。
「……落ち着いたようだな」
先ほどの優しい声は、いつもの冷たい声に変わっていた。見上げれば、いつものイライアスの顔がすぐそばにある。冷血騎士というあだ名に相応しい、鉄仮面のような無表情が。
ジェシカは転がるようにイライアスの腕の中から抜け出した。背中に嫌な汗がどばどば流れていく。
「うわぁああああ! 騎士の恥! ウォグホーン家のご先祖様ごめんなさい! 私の馬鹿!」
ジェシカはポカポカと自分の頭を殴ったものの、そんなことをしても時間が戻るわけでも、ジェシカの記憶が抹消されるわけでもない。
急に錯乱してジタバタし始めるジェシカを見て、イライアスは呆れた顔をした。
「別に、恥ずかしいことではないだろう。ジェシカはSubなんだから」
「ひ、卑怯よ! 私がSubだからって、それに漬け込んで!」
「弱ったジェシカに漬け込むような真似をしたのは確かだが、ジェシカだってたまたまそこにいた俺を利用して欲求を満たしただろう」
ぐうの音もでない反論にジェシカは黙るしかない。
確かに、イライアスのケアで身体が劇的に軽くなった。おそらく、この状態がダイナミクスの欲求を満たした状態なのだろう。
しかし、だからといってジェシカの羞恥心が収まるわけがなかった。イライアスに寄りかかってわんわん泣くという醜態を晒してしまった自分が、ただただ恥ずかしい。
イライアスは立ち上がり、さっと衣類の乱れを直した。役目は終えたと言わんばかりの背中を、ジェシカはジトっとした目で見る。あんなに恥ずかしいことを散々言っておいて、よくもこんなに平気な顔でいられるものだ。
ジェシカの視線に気づいたのか、イライアスは振り返った。本心の分からない瞳が、まっすぐにジェシカを見つめる。
「あ、そうだジェシカ。お前は今日から俺のパートナーだから、そのつもりで」
世間話より何気なく言い放たれた一言に、ジェシカは目を剥いた。
「……は?」
「ジェシカが眠っている間に、パートナー登録は済ませている。これが証明書だ」
そういって、イライアスはポケットから折り畳まれた紙を取り出した。そこにはイライアスとジェシカの名前とともに「パートナーと認める」といった内容の文章が書いてある。
「えっ、えっ、えっ、待って!? どういうこと!? 私は同意した覚えがないけど!?」
「別にジェシカの同意は必要ない。師匠……いや、ウォグホーン子爵には許可を取ったからな」
「お父さーん!?」
キラヤ王国は伝統的な家長制が色濃く残る国だ。しばしば、公的な書類は本人ではなく当主のサインだけで承認されてしまうものもある。どうやら、パートナー登録もその類のものだったらしく、ジェシカが眠っている間に、当主であるウォグホーン子爵がサインしたようだ。
ウォグホーン家が治める領地まで、馬で飛ばしても半日はかかる。ジェシカが眠っていたのが二日とすると、かなり急いで行って帰ってきたようだ。
「お、お父さんがそんな馬鹿げた話を了承するはずが……」
「状況を説明したら、師匠は泣いて喜んでいたぞ」
忘れていた。イライアスはジェシカの父を剣の師匠として敬愛している。ジェシカの父も、イライアスを実の息子のように可愛がっていた。
だからこそ、イライアスとジェシカがパートナーになると言われても、ジェシカの父はさして反対もしなかったのだろう。
「私と、イライアスが……パートナー……」
寝ている間に、大変なことになってしまった。由々しき事態だ。
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