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本編
知らないうちにパートナー!?(3)
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「誰にもその顔、見せてないよな?」
「うん、当たり前でしょ……」
どんな顔をしているかはわからないものの、おそらく締まりのない顔をしているのだろう。こんな姿、本当は誰にも見せたくない。
イライアスは心なしかほっとした顔をしながら、ジェシカの頬を撫でた。
「いい子だ。俺がジェシカがSubだと真っ先に気づけて良かった。ジェシカが受けた最初のコマンドが俺以外の野郎のものだったのは気に食わないが、これからいくらでも上書きできる」
耳に心地よい甘く低い声が鼓膜を揺らすたびに、身体中が歓喜に震える。
イライアスは相変わらずジェシカの頭を撫でている。逞しい胸に身体をもたせかけると、ますます撫でる手は優しくなった。こうして手放しに人に甘えるなんて、何年ぶりだろう。
「この前のジェシカは危なかったんだぞ。完全にサブドロップに陥っていた。あの状態で意識を保てるだけで、大したものだ」
「サブ、ドロップ……?」
首を傾げると、イライアスは教えさとすようにゆっくり言葉を紡いだ。
「Domに望まないプレイやコマンドを強いられたり、コマンドの後アフターケアもなく放置されたSubが陥る状況だ。あの時、ジェシカはあの男のコマンドに無理やり従わされた上に、アフターケアもろくにされず、苦しかっただろう。この間は俺がいたから良かったものの、あのまま放置されていたら今頃どうなっていたか」
ぼんやりとした頭であの時のことを考えると、さっと身体の芯が冷え、身体がガタガタと震え始める。
Domの怒りを買ってしまった恐怖は、ジェシカの精神を著しく蝕んでいた。いくらジェシカが勇敢な騎士であるとはいえ、ダイナミクスは本能に直結している。本来は従うはずのDomの命令に抗うだけで、Subは大きなストレスを感じるのだ。
「あの時、……すっごく、怖かった……」
本音を口にした瞬間、ぽろりと大粒の涙が溢れた。一度流れ出すと、それは次から次へとこぼれ落ちる。
優秀な騎士であるジェシカは、自分より背の高い男たちと対峙することがままある。剣の腕には自信があるし、たとえ相手が何人束になって襲いかかろうと、ジェシカが窮地に立たされるような事態は起こりえない。
だが、本当は心のどこかで常に怖いと感じていたのだ。それまでずっと、その恐怖感に蓋をして、意識の外に追いやっていただけで。
イライアスはジェシカの涙を指で拭うと、そっと抱きしめた。温かい腕の中で、ジェシカは声を上げて泣き始める。
子供のように泣くのはみっともないことだと分かっているのに、涙が止まらない。
自分がSubだと認められないまま、どうしようもなく本能だけが熱を帯びて暴走していく。
怖かった。本当は、誰かに守ってほしかった。すぐに抱きしめて、「大丈夫だよ」と慰めてほしかった。
「もう大丈夫だ。これからは俺がジェシカを守るから」
望んだ言葉を与えられて、再び涙が溢れ出す。
いつものジェシカなら「自分の身は自分で守る」と激怒してしまいそうな一言なのに、今は心の底から安心してしまうから不思議だ。胸の中に蟠っていた不安が、涙に溶けて次から次へと溢れ出る。
この腕の中では守られていて、絶対に安全だと、確信に満ちた暖かな感情が心になだれ込んでいく。
背中に回された手が、ジェシカをなだめるように優しく撫でる。その心地よさに、ジェシカは潤んだ目を細めた。
(なんだか、この感覚懐かしい……)
なぜか、昔イーライと呼んでいた少年がジェシカの胸の中に浮かぶ。
彼と一緒にいた時も、こういう感覚に陥ったことがある。ふわふわと暖かく、ずっとこうしていたくなるような。
イライアスは、余計なことを言わず、好きなだけジェシカを泣かせてくれた。いつの間にか、恐怖で強ばっていた身体から力が抜けている。
不思議な感覚に戸惑いながら、ジェシカはぼんやりと視線を彷徨わせた。
(ん、あれ……? 私ったら、なんでこんなにイライアスに甘えて……)
そう思ったその瞬間、ジェシカはイライアスの胸の中で硬直する。ぎし、とベッドがひどく耳障りな音を立てた。
「うん、当たり前でしょ……」
どんな顔をしているかはわからないものの、おそらく締まりのない顔をしているのだろう。こんな姿、本当は誰にも見せたくない。
イライアスは心なしかほっとした顔をしながら、ジェシカの頬を撫でた。
「いい子だ。俺がジェシカがSubだと真っ先に気づけて良かった。ジェシカが受けた最初のコマンドが俺以外の野郎のものだったのは気に食わないが、これからいくらでも上書きできる」
耳に心地よい甘く低い声が鼓膜を揺らすたびに、身体中が歓喜に震える。
イライアスは相変わらずジェシカの頭を撫でている。逞しい胸に身体をもたせかけると、ますます撫でる手は優しくなった。こうして手放しに人に甘えるなんて、何年ぶりだろう。
「この前のジェシカは危なかったんだぞ。完全にサブドロップに陥っていた。あの状態で意識を保てるだけで、大したものだ」
「サブ、ドロップ……?」
首を傾げると、イライアスは教えさとすようにゆっくり言葉を紡いだ。
「Domに望まないプレイやコマンドを強いられたり、コマンドの後アフターケアもなく放置されたSubが陥る状況だ。あの時、ジェシカはあの男のコマンドに無理やり従わされた上に、アフターケアもろくにされず、苦しかっただろう。この間は俺がいたから良かったものの、あのまま放置されていたら今頃どうなっていたか」
ぼんやりとした頭であの時のことを考えると、さっと身体の芯が冷え、身体がガタガタと震え始める。
Domの怒りを買ってしまった恐怖は、ジェシカの精神を著しく蝕んでいた。いくらジェシカが勇敢な騎士であるとはいえ、ダイナミクスは本能に直結している。本来は従うはずのDomの命令に抗うだけで、Subは大きなストレスを感じるのだ。
「あの時、……すっごく、怖かった……」
本音を口にした瞬間、ぽろりと大粒の涙が溢れた。一度流れ出すと、それは次から次へとこぼれ落ちる。
優秀な騎士であるジェシカは、自分より背の高い男たちと対峙することがままある。剣の腕には自信があるし、たとえ相手が何人束になって襲いかかろうと、ジェシカが窮地に立たされるような事態は起こりえない。
だが、本当は心のどこかで常に怖いと感じていたのだ。それまでずっと、その恐怖感に蓋をして、意識の外に追いやっていただけで。
イライアスはジェシカの涙を指で拭うと、そっと抱きしめた。温かい腕の中で、ジェシカは声を上げて泣き始める。
子供のように泣くのはみっともないことだと分かっているのに、涙が止まらない。
自分がSubだと認められないまま、どうしようもなく本能だけが熱を帯びて暴走していく。
怖かった。本当は、誰かに守ってほしかった。すぐに抱きしめて、「大丈夫だよ」と慰めてほしかった。
「もう大丈夫だ。これからは俺がジェシカを守るから」
望んだ言葉を与えられて、再び涙が溢れ出す。
いつものジェシカなら「自分の身は自分で守る」と激怒してしまいそうな一言なのに、今は心の底から安心してしまうから不思議だ。胸の中に蟠っていた不安が、涙に溶けて次から次へと溢れ出る。
この腕の中では守られていて、絶対に安全だと、確信に満ちた暖かな感情が心になだれ込んでいく。
背中に回された手が、ジェシカをなだめるように優しく撫でる。その心地よさに、ジェシカは潤んだ目を細めた。
(なんだか、この感覚懐かしい……)
なぜか、昔イーライと呼んでいた少年がジェシカの胸の中に浮かぶ。
彼と一緒にいた時も、こういう感覚に陥ったことがある。ふわふわと暖かく、ずっとこうしていたくなるような。
イライアスは、余計なことを言わず、好きなだけジェシカを泣かせてくれた。いつの間にか、恐怖で強ばっていた身体から力が抜けている。
不思議な感覚に戸惑いながら、ジェシカはぼんやりと視線を彷徨わせた。
(ん、あれ……? 私ったら、なんでこんなにイライアスに甘えて……)
そう思ったその瞬間、ジェシカはイライアスの胸の中で硬直する。ぎし、とベッドがひどく耳障りな音を立てた。
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