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本編
知らないうちにパートナー!?(1)
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パタンとドアが閉まり、ハンナがいなくなった部屋にぎこちない静寂が下りる。
イライアスは、感情の読めない顔つきで、ベッドで上半身を起こしているジェシカを見下ろした。
「調子はどうだ?」
「見ての通り、最悪よ。で、なに? 私に何の用?」
喧嘩腰のジェシカの一言にも、イライアスの嫌味なほどに整った顔貌には何の変化も見られない。
ジェシカは内心むくれた。イライアスが自分に冷たいのは、自分が嫌われているからだということくらい分かっている。しかし、ここまであからさまに冷たい態度をとる必要もないはずだ。
しばらく黙っていると、イライアスの視線はジェシカから机の上のハンナの書いた紹介状に移る。
「……ふうん、なるほど。これから紹介機関でパートナーを探そうとしているわけか」
「そうよ。よくわかんないけど、抑制剤に頼るのはよくないらしいから」
「当然だ。抑制剤は便利だが、副作用も強い。連用すると最悪で、船酔いしたみたいに立てなくなる」
イライアスも抑制剤を使った経験があるらしい。名門ローデ家の嫡男であれば、肩書だけでプレイ相手なら選び放題のはずだ。
ジェシカは意外に思ったものの、今はそれどころではない。
「そんな話、どうだっていいわ。それより、私がSubだったってことは、みんなには黙ってなさいよね」
「ジェシカは、騎士団のみんなにSubであることを隠すつもりなのか?」
「当たり前じゃない! 私は第一騎士団のイノシシ娘、ジェシカ・ウォグホーンよ。Subだって思われたくないもの。言いふらしたらただじゃおかないから!」
「別に言いふらしたりはしない。その必要性を感じないから」
どこまでも冷めた口調で返されて、ジェシカはムッとする。
(いつもこう。私が突っかかっても、イライアスは適当にあしらうだけ)
まるで、ジェシカなど相手にする価値もない存在だ、と言わんばかりの態度だ。それがますます癪に障る。
どうせ、いつまで経ってもつっかかってくる子供っぽい幼なじみに嫌気がさしているのだろう。分かっているのに、ジェシカはイライアスと顔を合わせるとつい憎まれ口を叩いてしまう。
「あっそう。で、ハンナを追い出しといて話はそれだけ? 疲れたから、ちょっと休みたいんですけど。別に私がSubだったからって、イライアスには関係ない話だし」
「関係ある。というか、俺がジェシカを支配すると言ったはずだが、聞いていなかったのか?」
「あ、あんな馬鹿げたこと、私は同意してないわよ! イライアスに支配されるとか、絶対イヤ!」
ジェシカは勢いよく首を振る。
確かに、パートナーとダイナミクスの欲求を解消しなければ、Subは著しく健康を損ねることになるため、もちろんパートナーはそのうち見つける気でいる。しかし、相手がイライアスとなれば話は違う。
断固拒否の構えを見せたジェシカに、イライアスの眼がスッと細くなる。
「……ふぅん。じゃあ気が変わった。明日の朝、騎士団のメンバー全員にジェシカがSubだと公表しよう」
「はぁ!?」
とんでもないことを言い出すイライアスに、ジェシカは目を見開いた。
「やめてよ、それだけは絶対ダメ!」
「だが、パートナーを持たないSubは不安定になりやすい。この前みたいに任務中に倒れたら周りに迷惑がかかる。皆に周知することは大事だろう?」
薄い唇に冷たい笑みを浮かべるイライアスに、ジェシカは口をパクパクさせる。
「さっきと言ってることが百八十度違うじゃない! アンタ、そんなに卑怯なヤツだった?」
「卑怯でもなんでもない。必要性があるから、そうするだけだ」
「言ってることめちゃくちゃよ!」
あまりにも身勝手すぎる内容に、ジェシカは噛みつくように叫ぶ。そんなジェシカを、イライアスの冷たい目がひたとジェシカを見据えた。
その瞬間、背中あたりにゾクゾクとした甘ったるい感覚が走る。
「ひゃっ……♡」
身体中がじわじわと火照り出す。この感覚は、間違いなく先日の異常事態の時と全く同じ症状だ。恐らく、ジェシカのダイナミクスのせいだろう。
「はぁ……っ、よりにもよって、こんな時に……」
机の上の抑制剤に、ジェシカは手を伸ばす。しかし、その手は空をかいた。イライアスが抑制剤を掴んで部屋の隅に転がしたからだ。ゴン、と鈍い音を立てて、薬瓶が床を転がっていく。
イライアスは、感情の読めない顔つきで、ベッドで上半身を起こしているジェシカを見下ろした。
「調子はどうだ?」
「見ての通り、最悪よ。で、なに? 私に何の用?」
喧嘩腰のジェシカの一言にも、イライアスの嫌味なほどに整った顔貌には何の変化も見られない。
ジェシカは内心むくれた。イライアスが自分に冷たいのは、自分が嫌われているからだということくらい分かっている。しかし、ここまであからさまに冷たい態度をとる必要もないはずだ。
しばらく黙っていると、イライアスの視線はジェシカから机の上のハンナの書いた紹介状に移る。
「……ふうん、なるほど。これから紹介機関でパートナーを探そうとしているわけか」
「そうよ。よくわかんないけど、抑制剤に頼るのはよくないらしいから」
「当然だ。抑制剤は便利だが、副作用も強い。連用すると最悪で、船酔いしたみたいに立てなくなる」
イライアスも抑制剤を使った経験があるらしい。名門ローデ家の嫡男であれば、肩書だけでプレイ相手なら選び放題のはずだ。
ジェシカは意外に思ったものの、今はそれどころではない。
「そんな話、どうだっていいわ。それより、私がSubだったってことは、みんなには黙ってなさいよね」
「ジェシカは、騎士団のみんなにSubであることを隠すつもりなのか?」
「当たり前じゃない! 私は第一騎士団のイノシシ娘、ジェシカ・ウォグホーンよ。Subだって思われたくないもの。言いふらしたらただじゃおかないから!」
「別に言いふらしたりはしない。その必要性を感じないから」
どこまでも冷めた口調で返されて、ジェシカはムッとする。
(いつもこう。私が突っかかっても、イライアスは適当にあしらうだけ)
まるで、ジェシカなど相手にする価値もない存在だ、と言わんばかりの態度だ。それがますます癪に障る。
どうせ、いつまで経ってもつっかかってくる子供っぽい幼なじみに嫌気がさしているのだろう。分かっているのに、ジェシカはイライアスと顔を合わせるとつい憎まれ口を叩いてしまう。
「あっそう。で、ハンナを追い出しといて話はそれだけ? 疲れたから、ちょっと休みたいんですけど。別に私がSubだったからって、イライアスには関係ない話だし」
「関係ある。というか、俺がジェシカを支配すると言ったはずだが、聞いていなかったのか?」
「あ、あんな馬鹿げたこと、私は同意してないわよ! イライアスに支配されるとか、絶対イヤ!」
ジェシカは勢いよく首を振る。
確かに、パートナーとダイナミクスの欲求を解消しなければ、Subは著しく健康を損ねることになるため、もちろんパートナーはそのうち見つける気でいる。しかし、相手がイライアスとなれば話は違う。
断固拒否の構えを見せたジェシカに、イライアスの眼がスッと細くなる。
「……ふぅん。じゃあ気が変わった。明日の朝、騎士団のメンバー全員にジェシカがSubだと公表しよう」
「はぁ!?」
とんでもないことを言い出すイライアスに、ジェシカは目を見開いた。
「やめてよ、それだけは絶対ダメ!」
「だが、パートナーを持たないSubは不安定になりやすい。この前みたいに任務中に倒れたら周りに迷惑がかかる。皆に周知することは大事だろう?」
薄い唇に冷たい笑みを浮かべるイライアスに、ジェシカは口をパクパクさせる。
「さっきと言ってることが百八十度違うじゃない! アンタ、そんなに卑怯なヤツだった?」
「卑怯でもなんでもない。必要性があるから、そうするだけだ」
「言ってることめちゃくちゃよ!」
あまりにも身勝手すぎる内容に、ジェシカは噛みつくように叫ぶ。そんなジェシカを、イライアスの冷たい目がひたとジェシカを見据えた。
その瞬間、背中あたりにゾクゾクとした甘ったるい感覚が走る。
「ひゃっ……♡」
身体中がじわじわと火照り出す。この感覚は、間違いなく先日の異常事態の時と全く同じ症状だ。恐らく、ジェシカのダイナミクスのせいだろう。
「はぁ……っ、よりにもよって、こんな時に……」
机の上の抑制剤に、ジェシカは手を伸ばす。しかし、その手は空をかいた。イライアスが抑制剤を掴んで部屋の隅に転がしたからだ。ゴン、と鈍い音を立てて、薬瓶が床を転がっていく。
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