16 / 96
本編
私がSubってマジですか(3)
しおりを挟む
イライアスの名前が出た瞬間、ジェシカは反射的に首を振った。
「な、なんでイライアスの名前が出てくるのよ! アイツだけは絶対イヤ!」
「どうして? イライアス様はジェシカの幼なじみなんでしょ」
「幼なじみでも、ダメなものはダメ。イライアスは、騎士団の仲間たちの中で『冷徹騎士』なんて呼ばれてるのよ! 本性はとんでもなく冷たくて薄情者なんだから」
「その噂はまあ知ってるけど、薄情者で冷たい人は、倒れた同僚をわざわざ部屋に運んで面倒を見たりしないと思うなぁ」
「ハンナはイライアスのことをよく知らないからそうやって言えるの! どうせ私の看病をしたのも、私の弱みを握るために決まってるわ」
「そうなのかしら。ちょっとぶっきらぼうな感じはするけど、良い人だと思うけど」
「良い人なわけないじゃない! 第一、イライアスみたいな名門貴族のDomはSubを何人も侍らせるのが当然らしいのよ? 私はそんなのイヤ! たった一人の運命の人から、身も心も愛されたいのよ!」
鼻息荒く力説するジェシカに、ハンナは盛大なため息をついた。
「19歳にもなって、夢見る乙女みたいなこと言うのは止めてもらっていい? まったく、そう難しく考えなくてもいいの。一時しのぎでイライアス様に頼んで、DomとSubのプレイがどんなもんか試しにやってもらうだけでもいいじゃない。ジェシカの言う通り、イライアスが複数のSubと付き合っている人なら、逆に後腐れなくてかえって良いと思うわよ」
「で、でもぉ……」
「ダイナミクスのパートナーシップと、結婚とか恋愛とかはまた別らしいじゃない。ダイナミクスによる欲求を解消するために、ちゃんと割り切っていかないと」
「急にそんなこと言われても……」
真面目な性格のジェシカは、これまで騎士団の仕事一筋で碌に恋愛をしてこなかった。
同僚の騎士たちはジェシカのことを真面目すぎるとよく笑うが、ジェシカにだって乙女な一面はあるのだ。それなりにロマンチックな恋愛に憧れもある。
(私だって人並みに普通の恋愛をしてみたかったのに、これからは欲求を解消するための相手が必要な体質になってしまうなんて……!)
あまりに前途多難だ。がっくりと肩を落とすジェシカに、ハンナは真面目な顔をした。
「難しいかもしれないけど、やるしかないの。ジェシカが抑制剤中毒になって、若くで死んじゃうのは嫌よ? 私は、ジェシカとおばあちゃんになるまでずっと仲良しでいたいの」
ハンナに「お願いよ」と懇願されると、いよいよジェシカも強く拒否できない。
ジェシカはしばらく考えた後、重々しく頷いた。
「……分かったわ。でも、イライアスに頼む案は却下。王国の紹介機関で、パートナーになってもらえそうな人を探すわ」
なんだかイライアスに「パートナーになってやる」と言われた気がするものの、気のせいだろうと思っておく。
ハンナは安堵の表情を浮かべ、胸をなで下ろした。
「そうこなくっちゃ。紹介状を書くから、ちょっと待ってて」
ハンナは懐から紹介状らしき紙とペンを引っ張り出すと、ペンを走らせる。
「ジェシカは紹介で出会った相性が良ければ、すぐにパートナー登録したほうがいいかもね。不特定多数の人と関係を持つのは嫌でしょ?」
「パートナー登録って、け、結婚ってこと?」
ぎょっとするジェシカに、ハンナは呆れた顔をする。
「ダイナミクスのパートナー登録はあくまでDomとSubの関係を縛るもので、結婚や恋愛とはまた別なの。パートナー登録をしてれば、パートナー以外のDomの支配を法的に拒否できて、意思に反するプレイをせずにすむのよ」
「知らなかった……」
「パートナー制度は立場の弱いSubを守るためにあるシステムよ。でも、逆に言うとパートナー登録していないSubは、どんなDomに支配されても文句が言えなくなっちゃうの。Domだらけの騎士団にいるジェシカは、早めにパートナーを見つけたほうがいいと思う」
「わ、分かったわ」
神妙な顔でジェシカが頷いたその時、扉がノックされた。返事をする前に、ガチャリと扉が開く。
「ジェシカは、目を覚ましたか?」
部屋に入ってきたのは、イライアスだった。急いで来たのか、わずかに息を弾ませている。
ハンナはにっこりと微笑む。
「ジェシカは無事目が覚めましたよ。身体も大丈夫そうです」
イライアスの冷たい瞳が、ベッドの上で半身を起こしたジェシカに向けられた。群青色の瞳が、安堵したように細められたように見えたが、すぐにいつもの冷たい表情に戻る。
イライアスはハンナに目を向ける。
「適切な処置、感謝する。少し席を外してもらっても? 今後の業務について、ジェシカと話したいことがある」
「分かりました。処置はもう終わりましたので、私は部屋を出ます。じゃあ、ジェシカ、なにかあったらすぐに言うのよ。それから、ちゃんといいパートナーを見つけること!」
ハンナはパチンとウィンクすると、大股で部屋を横切ってヒラヒラと手を振った。
「それじゃ、ごゆっくり」
「あっ、ちょっとハンナ!」
ジェシカが止める間もなく、ハンナはあっという間に部屋を飛び出していった。
「な、なんでイライアスの名前が出てくるのよ! アイツだけは絶対イヤ!」
「どうして? イライアス様はジェシカの幼なじみなんでしょ」
「幼なじみでも、ダメなものはダメ。イライアスは、騎士団の仲間たちの中で『冷徹騎士』なんて呼ばれてるのよ! 本性はとんでもなく冷たくて薄情者なんだから」
「その噂はまあ知ってるけど、薄情者で冷たい人は、倒れた同僚をわざわざ部屋に運んで面倒を見たりしないと思うなぁ」
「ハンナはイライアスのことをよく知らないからそうやって言えるの! どうせ私の看病をしたのも、私の弱みを握るために決まってるわ」
「そうなのかしら。ちょっとぶっきらぼうな感じはするけど、良い人だと思うけど」
「良い人なわけないじゃない! 第一、イライアスみたいな名門貴族のDomはSubを何人も侍らせるのが当然らしいのよ? 私はそんなのイヤ! たった一人の運命の人から、身も心も愛されたいのよ!」
鼻息荒く力説するジェシカに、ハンナは盛大なため息をついた。
「19歳にもなって、夢見る乙女みたいなこと言うのは止めてもらっていい? まったく、そう難しく考えなくてもいいの。一時しのぎでイライアス様に頼んで、DomとSubのプレイがどんなもんか試しにやってもらうだけでもいいじゃない。ジェシカの言う通り、イライアスが複数のSubと付き合っている人なら、逆に後腐れなくてかえって良いと思うわよ」
「で、でもぉ……」
「ダイナミクスのパートナーシップと、結婚とか恋愛とかはまた別らしいじゃない。ダイナミクスによる欲求を解消するために、ちゃんと割り切っていかないと」
「急にそんなこと言われても……」
真面目な性格のジェシカは、これまで騎士団の仕事一筋で碌に恋愛をしてこなかった。
同僚の騎士たちはジェシカのことを真面目すぎるとよく笑うが、ジェシカにだって乙女な一面はあるのだ。それなりにロマンチックな恋愛に憧れもある。
(私だって人並みに普通の恋愛をしてみたかったのに、これからは欲求を解消するための相手が必要な体質になってしまうなんて……!)
あまりに前途多難だ。がっくりと肩を落とすジェシカに、ハンナは真面目な顔をした。
「難しいかもしれないけど、やるしかないの。ジェシカが抑制剤中毒になって、若くで死んじゃうのは嫌よ? 私は、ジェシカとおばあちゃんになるまでずっと仲良しでいたいの」
ハンナに「お願いよ」と懇願されると、いよいよジェシカも強く拒否できない。
ジェシカはしばらく考えた後、重々しく頷いた。
「……分かったわ。でも、イライアスに頼む案は却下。王国の紹介機関で、パートナーになってもらえそうな人を探すわ」
なんだかイライアスに「パートナーになってやる」と言われた気がするものの、気のせいだろうと思っておく。
ハンナは安堵の表情を浮かべ、胸をなで下ろした。
「そうこなくっちゃ。紹介状を書くから、ちょっと待ってて」
ハンナは懐から紹介状らしき紙とペンを引っ張り出すと、ペンを走らせる。
「ジェシカは紹介で出会った相性が良ければ、すぐにパートナー登録したほうがいいかもね。不特定多数の人と関係を持つのは嫌でしょ?」
「パートナー登録って、け、結婚ってこと?」
ぎょっとするジェシカに、ハンナは呆れた顔をする。
「ダイナミクスのパートナー登録はあくまでDomとSubの関係を縛るもので、結婚や恋愛とはまた別なの。パートナー登録をしてれば、パートナー以外のDomの支配を法的に拒否できて、意思に反するプレイをせずにすむのよ」
「知らなかった……」
「パートナー制度は立場の弱いSubを守るためにあるシステムよ。でも、逆に言うとパートナー登録していないSubは、どんなDomに支配されても文句が言えなくなっちゃうの。Domだらけの騎士団にいるジェシカは、早めにパートナーを見つけたほうがいいと思う」
「わ、分かったわ」
神妙な顔でジェシカが頷いたその時、扉がノックされた。返事をする前に、ガチャリと扉が開く。
「ジェシカは、目を覚ましたか?」
部屋に入ってきたのは、イライアスだった。急いで来たのか、わずかに息を弾ませている。
ハンナはにっこりと微笑む。
「ジェシカは無事目が覚めましたよ。身体も大丈夫そうです」
イライアスの冷たい瞳が、ベッドの上で半身を起こしたジェシカに向けられた。群青色の瞳が、安堵したように細められたように見えたが、すぐにいつもの冷たい表情に戻る。
イライアスはハンナに目を向ける。
「適切な処置、感謝する。少し席を外してもらっても? 今後の業務について、ジェシカと話したいことがある」
「分かりました。処置はもう終わりましたので、私は部屋を出ます。じゃあ、ジェシカ、なにかあったらすぐに言うのよ。それから、ちゃんといいパートナーを見つけること!」
ハンナはパチンとウィンクすると、大股で部屋を横切ってヒラヒラと手を振った。
「それじゃ、ごゆっくり」
「あっ、ちょっとハンナ!」
ジェシカが止める間もなく、ハンナはあっという間に部屋を飛び出していった。
8
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる