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本編
女騎士、屈する(2)
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「商館を出発して大通りに向かう途中に、……野盗に襲われたの。その男たちを、早く憲兵に引き渡して……」
なけなしの力を振り絞ってそう吐き捨て、ジェシカはよろよろと立ち上がる。イライアスにだけは弱っているところを見られたくない一心だ。相変わらずひどい眩暈がする。
ジェシカは荒い息を吐きながら、近くの壁にもたれかかった。胃がむかむかして、喉の奥に何とも言えない不快感がこみあげる。
「さ、最悪……。なんでよりにもよって、……はぁ、アンタに、こんなところ、見られるのよっ……」
イライアスは困惑した顔をしている。先ほどまで元気だったジェシカが苦しそうにゼエゼエと肩で息をしているのだから、無理もない。
「ダンとか、……憲兵を探して! 近くにいるはずだから……」
「……ジェシカ」
「なに、ぼさっとしてるのよっ! さっさと、どっか、……行って! イライアスなんかの、……手は借りないから!」
「だが、どう見ても今のお前は……」
「いいからっ! ……早く、行ってよっ!」
そう怒鳴った瞬間、自分の声がくわんくわんと頭に響き、視界が回り始めた。足がもつれ、前のめりに身体が倒れていく。
ジェシカは咄嗟に受身を取ろうとするが、身体が動かない。堅い地面にぶつかる衝撃を覚悟したその時、イライアスがその身体を抱きとめた。
犬猿の仲であるはずのイライアスの腕の中に、ジェシカはすっぽり収まってしまう。
「無理をするな。頼むから……」
耳元で囁かれた声が、妙に熱っぽくて掠れている。
(……なんで、こんなことにっ……!)
因縁のライバルに弱り切った自分を見せてしまったことが、恥ずかしくて仕方がなかった。かといって、これ以上抵抗する力も残っていない。
彼が着ている制服の肩口に顔を埋める形になり、服越しに白檀のような涼やかで甘い匂いが鼻腔をくすぐった。いつまでも包まれていたくなるような、不思議と惹かれる香りだ。なにより腕の中は温かくて、心地が良い。どういうわけか振りほどくことなどできなかった。イライアスもまた、ジェシカを離そうとしない。
やがて、複数の憲兵たちを連れたダンが戻ってきた。
「おーい、憲兵連れて来たぞ! ……って、なんだこの状況!?」
ダンは驚いた声を上げた。
先ほどまで元気に毒づいていた野盗達はリーダー格の男が気絶し、さらにジェシカはイライアスの腕のなかでぐったりしている。驚くのも当然だ。
イライアスはジェシカを抱いたまま、淡々と説明した。
「ジェシカが野盗に襲われたため、やむを得ず制圧した。ジェシカは大きな怪我はないが、俺が運ぶ。ダン、お前はフロイトル卿を馬車までお連れしろ。こんな治安の悪い場所に、護衛対象者をいつまでも留ませるな」
「わ、わかった!」
命令されたダンは、慌ててオリヴェルを連れ、馬車の停めてある大通りに向かった。駆けつけた憲兵たちにも同様の説明をして、野盗たちを引き渡す。ライバルながら、仕事の要領の良さに感心してしまう。さすが同期の中で一番優秀なだけある。
「ジェシカ、移動するぞ。野次馬が集まり始めているから、人目のつかない場所に移動する」
そう言って、イライアスはジェシカを軽々と横抱きにする。ジェシカは弱々しく抗議の声を上げたが、あっけなく無視された。
なけなしの力を振り絞ってそう吐き捨て、ジェシカはよろよろと立ち上がる。イライアスにだけは弱っているところを見られたくない一心だ。相変わらずひどい眩暈がする。
ジェシカは荒い息を吐きながら、近くの壁にもたれかかった。胃がむかむかして、喉の奥に何とも言えない不快感がこみあげる。
「さ、最悪……。なんでよりにもよって、……はぁ、アンタに、こんなところ、見られるのよっ……」
イライアスは困惑した顔をしている。先ほどまで元気だったジェシカが苦しそうにゼエゼエと肩で息をしているのだから、無理もない。
「ダンとか、……憲兵を探して! 近くにいるはずだから……」
「……ジェシカ」
「なに、ぼさっとしてるのよっ! さっさと、どっか、……行って! イライアスなんかの、……手は借りないから!」
「だが、どう見ても今のお前は……」
「いいからっ! ……早く、行ってよっ!」
そう怒鳴った瞬間、自分の声がくわんくわんと頭に響き、視界が回り始めた。足がもつれ、前のめりに身体が倒れていく。
ジェシカは咄嗟に受身を取ろうとするが、身体が動かない。堅い地面にぶつかる衝撃を覚悟したその時、イライアスがその身体を抱きとめた。
犬猿の仲であるはずのイライアスの腕の中に、ジェシカはすっぽり収まってしまう。
「無理をするな。頼むから……」
耳元で囁かれた声が、妙に熱っぽくて掠れている。
(……なんで、こんなことにっ……!)
因縁のライバルに弱り切った自分を見せてしまったことが、恥ずかしくて仕方がなかった。かといって、これ以上抵抗する力も残っていない。
彼が着ている制服の肩口に顔を埋める形になり、服越しに白檀のような涼やかで甘い匂いが鼻腔をくすぐった。いつまでも包まれていたくなるような、不思議と惹かれる香りだ。なにより腕の中は温かくて、心地が良い。どういうわけか振りほどくことなどできなかった。イライアスもまた、ジェシカを離そうとしない。
やがて、複数の憲兵たちを連れたダンが戻ってきた。
「おーい、憲兵連れて来たぞ! ……って、なんだこの状況!?」
ダンは驚いた声を上げた。
先ほどまで元気に毒づいていた野盗達はリーダー格の男が気絶し、さらにジェシカはイライアスの腕のなかでぐったりしている。驚くのも当然だ。
イライアスはジェシカを抱いたまま、淡々と説明した。
「ジェシカが野盗に襲われたため、やむを得ず制圧した。ジェシカは大きな怪我はないが、俺が運ぶ。ダン、お前はフロイトル卿を馬車までお連れしろ。こんな治安の悪い場所に、護衛対象者をいつまでも留ませるな」
「わ、わかった!」
命令されたダンは、慌ててオリヴェルを連れ、馬車の停めてある大通りに向かった。駆けつけた憲兵たちにも同様の説明をして、野盗たちを引き渡す。ライバルながら、仕事の要領の良さに感心してしまう。さすが同期の中で一番優秀なだけある。
「ジェシカ、移動するぞ。野次馬が集まり始めているから、人目のつかない場所に移動する」
そう言って、イライアスはジェシカを軽々と横抱きにする。ジェシカは弱々しく抗議の声を上げたが、あっけなく無視された。
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