9 / 96
本編
女騎士、屈する(2)
しおりを挟む
「商館を出発して大通りに向かう途中に、……野盗に襲われたの。その男たちを、早く憲兵に引き渡して……」
なけなしの力を振り絞ってそう吐き捨て、ジェシカはよろよろと立ち上がる。イライアスにだけは弱っているところを見られたくない一心だ。相変わらずひどい眩暈がする。
ジェシカは荒い息を吐きながら、近くの壁にもたれかかった。胃がむかむかして、喉の奥に何とも言えない不快感がこみあげる。
「さ、最悪……。なんでよりにもよって、……はぁ、アンタに、こんなところ、見られるのよっ……」
イライアスは困惑した顔をしている。先ほどまで元気だったジェシカが苦しそうにゼエゼエと肩で息をしているのだから、無理もない。
「ダンとか、……憲兵を探して! 近くにいるはずだから……」
「……ジェシカ」
「なに、ぼさっとしてるのよっ! さっさと、どっか、……行って! イライアスなんかの、……手は借りないから!」
「だが、どう見ても今のお前は……」
「いいからっ! ……早く、行ってよっ!」
そう怒鳴った瞬間、自分の声がくわんくわんと頭に響き、視界が回り始めた。足がもつれ、前のめりに身体が倒れていく。
ジェシカは咄嗟に受身を取ろうとするが、身体が動かない。堅い地面にぶつかる衝撃を覚悟したその時、イライアスがその身体を抱きとめた。
犬猿の仲であるはずのイライアスの腕の中に、ジェシカはすっぽり収まってしまう。
「無理をするな。頼むから……」
耳元で囁かれた声が、妙に熱っぽくて掠れている。
(……なんで、こんなことにっ……!)
因縁のライバルに弱り切った自分を見せてしまったことが、恥ずかしくて仕方がなかった。かといって、これ以上抵抗する力も残っていない。
彼が着ている制服の肩口に顔を埋める形になり、服越しに白檀のような涼やかで甘い匂いが鼻腔をくすぐった。いつまでも包まれていたくなるような、不思議と惹かれる香りだ。なにより腕の中は温かくて、心地が良い。どういうわけか振りほどくことなどできなかった。イライアスもまた、ジェシカを離そうとしない。
やがて、複数の憲兵たちを連れたダンが戻ってきた。
「おーい、憲兵連れて来たぞ! ……って、なんだこの状況!?」
ダンは驚いた声を上げた。
先ほどまで元気に毒づいていた野盗達はリーダー格の男が気絶し、さらにジェシカはイライアスの腕のなかでぐったりしている。驚くのも当然だ。
イライアスはジェシカを抱いたまま、淡々と説明した。
「ジェシカが野盗に襲われたため、やむを得ず制圧した。ジェシカは大きな怪我はないが、俺が運ぶ。ダン、お前はフロイトル卿を馬車までお連れしろ。こんな治安の悪い場所に、護衛対象者をいつまでも留ませるな」
「わ、わかった!」
命令されたダンは、慌ててオリヴェルを連れ、馬車の停めてある大通りに向かった。駆けつけた憲兵たちにも同様の説明をして、野盗たちを引き渡す。ライバルながら、仕事の要領の良さに感心してしまう。さすが同期の中で一番優秀なだけある。
「ジェシカ、移動するぞ。野次馬が集まり始めているから、人目のつかない場所に移動する」
そう言って、イライアスはジェシカを軽々と横抱きにする。ジェシカは弱々しく抗議の声を上げたが、あっけなく無視された。
なけなしの力を振り絞ってそう吐き捨て、ジェシカはよろよろと立ち上がる。イライアスにだけは弱っているところを見られたくない一心だ。相変わらずひどい眩暈がする。
ジェシカは荒い息を吐きながら、近くの壁にもたれかかった。胃がむかむかして、喉の奥に何とも言えない不快感がこみあげる。
「さ、最悪……。なんでよりにもよって、……はぁ、アンタに、こんなところ、見られるのよっ……」
イライアスは困惑した顔をしている。先ほどまで元気だったジェシカが苦しそうにゼエゼエと肩で息をしているのだから、無理もない。
「ダンとか、……憲兵を探して! 近くにいるはずだから……」
「……ジェシカ」
「なに、ぼさっとしてるのよっ! さっさと、どっか、……行って! イライアスなんかの、……手は借りないから!」
「だが、どう見ても今のお前は……」
「いいからっ! ……早く、行ってよっ!」
そう怒鳴った瞬間、自分の声がくわんくわんと頭に響き、視界が回り始めた。足がもつれ、前のめりに身体が倒れていく。
ジェシカは咄嗟に受身を取ろうとするが、身体が動かない。堅い地面にぶつかる衝撃を覚悟したその時、イライアスがその身体を抱きとめた。
犬猿の仲であるはずのイライアスの腕の中に、ジェシカはすっぽり収まってしまう。
「無理をするな。頼むから……」
耳元で囁かれた声が、妙に熱っぽくて掠れている。
(……なんで、こんなことにっ……!)
因縁のライバルに弱り切った自分を見せてしまったことが、恥ずかしくて仕方がなかった。かといって、これ以上抵抗する力も残っていない。
彼が着ている制服の肩口に顔を埋める形になり、服越しに白檀のような涼やかで甘い匂いが鼻腔をくすぐった。いつまでも包まれていたくなるような、不思議と惹かれる香りだ。なにより腕の中は温かくて、心地が良い。どういうわけか振りほどくことなどできなかった。イライアスもまた、ジェシカを離そうとしない。
やがて、複数の憲兵たちを連れたダンが戻ってきた。
「おーい、憲兵連れて来たぞ! ……って、なんだこの状況!?」
ダンは驚いた声を上げた。
先ほどまで元気に毒づいていた野盗達はリーダー格の男が気絶し、さらにジェシカはイライアスの腕のなかでぐったりしている。驚くのも当然だ。
イライアスはジェシカを抱いたまま、淡々と説明した。
「ジェシカが野盗に襲われたため、やむを得ず制圧した。ジェシカは大きな怪我はないが、俺が運ぶ。ダン、お前はフロイトル卿を馬車までお連れしろ。こんな治安の悪い場所に、護衛対象者をいつまでも留ませるな」
「わ、わかった!」
命令されたダンは、慌ててオリヴェルを連れ、馬車の停めてある大通りに向かった。駆けつけた憲兵たちにも同様の説明をして、野盗たちを引き渡す。ライバルながら、仕事の要領の良さに感心してしまう。さすが同期の中で一番優秀なだけある。
「ジェシカ、移動するぞ。野次馬が集まり始めているから、人目のつかない場所に移動する」
そう言って、イライアスはジェシカを軽々と横抱きにする。ジェシカは弱々しく抗議の声を上げたが、あっけなく無視された。
10
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説
【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。
※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。
※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
年上彼氏に気持ちよくなってほしいって 伝えたら実は絶倫で連続イキで泣いてもやめてもらえない話
ぴんく
恋愛
いつもえっちの時はイきすぎてバテちゃうのが密かな悩み。年上彼氏に思い切って、気持ちよくなって欲しいと伝えたら、実は絶倫で
泣いてもやめてくれなくて、連続イキ、潮吹き、クリ責め、が止まらなかったお話です。
愛菜まな
初めての相手は悠貴くん。付き合って一年の間にたくさん気持ちいい事を教わり、敏感な身体になってしまった。いつもイきすぎてバテちゃうのが悩み。
悠貴ゆうき
愛菜の事がだいすきで、どろどろに甘やかしたいと思う反面、愛菜の恥ずかしい事とか、イきすぎて泣いちゃう姿を見たいと思っている。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる