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本編
異変(3)
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剣戟の音さえ響かせず、勝負はあっという間についた。ジェシカの圧勝だ。
「はあ、デカい口叩く割には、大したことなかったわね」
ジェシカは、慣れた手つきで野盗たちを縛り上げていく。野盗たちは抵抗する素振りを見せたものの、ジェシカには手も足も出なかった。
「クソ、調子に乗るなよ、小娘が! 俺を誰だと思ってる! 俺はDomなんだぞ!」
「そうだそうだ! Dom様に逆らったら、どうなるかわかってるのか!? 兄貴は強いんだぞ!」
ジェシカはうんざりした。
(ああ、出た出た。Domだから無条件に偉いとか強いとか思ってるタイプ)
確かに、Domは一般的なイメージとして、屈強で男らしいというイメージが持たれやすい。
実際にDomは知能や身体能力が高いとされ、社会的にも成功しやすい。国の要職たちもDomだと出世しやすいらしいので、この王国でDom至上主義的な思想が根強いことは確かだ。
しかし、ただのゴロツキが、日々鍛錬している騎士に敵うはずがない。
「じゃあ、聞くけど」
ジェシカはDomだという男の胸倉を掴みながら、低い声で問いかけた。
「私みたいなNormalに、手も足も出ない気分はどう?」
「く、クソッ……! 馬鹿力女め……」
男はもごもごと文句を言ったが、ジェシカは全く相手にせず、男の胸倉をパッと手を離し、ダンの方を振り返った。
「ねえダン、イライアスは?」
「いや、まだ来てないな」
イライアスが待機する大通りの馬車までは少し距離があるため、彼が気付いていない可能性は十分にある。
「まあ、あんなヤツ待たずにさっさとこんなヤツら憲兵に引き渡そうか。オリヴェル様を待たせるわけにもいかないし」
「確かにそうだな。俺、憲兵を呼んでくる」
「じゃあ、私はここでろくでなし達を見張っておくわ」
「おう、頼んだぞ。すぐ戻ってくる」
軽く手をあげたダンは、大通りに向かって走っていく。憲兵たちは近くの派出所にいるはずだ。
(ふう、今日もいい仕事しちゃったわ)
ダンの後ろ姿を見送ったジェシカが軽く息を吐いた時、ふと強い眩暈を覚えた。ジェシカは眉間を抑える。いくら力量差があったとはいえ、一度に四人も相手をすると、寝不足の身体には流石に堪えたらしい。
いつの間にかジェシカの横に立っていたオリヴェルが、心配そうに顔を覗きこんできた。
「……大丈夫ですか。だいぶ顔色が悪いようですが」
「あっ、すみません。ご心配には及びませんので!」
ジェシカは安心させるようににっこりと笑う。騎士として、護衛対象に心配されるのはあまりよろしくない。しかし、オリヴェルは引き下がらず、なおも踏み込んでくる。
「ですが、貴女は……」
「おい、そこのオリヴェルとかいう男! お前、その顔立ちはどうせSubなんだろう!?」
「なっ……」
それまで口汚い言葉でジェシカを罵っていた男たちが、急にターゲットを変えた。
「はあ、デカい口叩く割には、大したことなかったわね」
ジェシカは、慣れた手つきで野盗たちを縛り上げていく。野盗たちは抵抗する素振りを見せたものの、ジェシカには手も足も出なかった。
「クソ、調子に乗るなよ、小娘が! 俺を誰だと思ってる! 俺はDomなんだぞ!」
「そうだそうだ! Dom様に逆らったら、どうなるかわかってるのか!? 兄貴は強いんだぞ!」
ジェシカはうんざりした。
(ああ、出た出た。Domだから無条件に偉いとか強いとか思ってるタイプ)
確かに、Domは一般的なイメージとして、屈強で男らしいというイメージが持たれやすい。
実際にDomは知能や身体能力が高いとされ、社会的にも成功しやすい。国の要職たちもDomだと出世しやすいらしいので、この王国でDom至上主義的な思想が根強いことは確かだ。
しかし、ただのゴロツキが、日々鍛錬している騎士に敵うはずがない。
「じゃあ、聞くけど」
ジェシカはDomだという男の胸倉を掴みながら、低い声で問いかけた。
「私みたいなNormalに、手も足も出ない気分はどう?」
「く、クソッ……! 馬鹿力女め……」
男はもごもごと文句を言ったが、ジェシカは全く相手にせず、男の胸倉をパッと手を離し、ダンの方を振り返った。
「ねえダン、イライアスは?」
「いや、まだ来てないな」
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「まあ、あんなヤツ待たずにさっさとこんなヤツら憲兵に引き渡そうか。オリヴェル様を待たせるわけにもいかないし」
「確かにそうだな。俺、憲兵を呼んでくる」
「じゃあ、私はここでろくでなし達を見張っておくわ」
「おう、頼んだぞ。すぐ戻ってくる」
軽く手をあげたダンは、大通りに向かって走っていく。憲兵たちは近くの派出所にいるはずだ。
(ふう、今日もいい仕事しちゃったわ)
ダンの後ろ姿を見送ったジェシカが軽く息を吐いた時、ふと強い眩暈を覚えた。ジェシカは眉間を抑える。いくら力量差があったとはいえ、一度に四人も相手をすると、寝不足の身体には流石に堪えたらしい。
いつの間にかジェシカの横に立っていたオリヴェルが、心配そうに顔を覗きこんできた。
「……大丈夫ですか。だいぶ顔色が悪いようですが」
「あっ、すみません。ご心配には及びませんので!」
ジェシカは安心させるようににっこりと笑う。騎士として、護衛対象に心配されるのはあまりよろしくない。しかし、オリヴェルは引き下がらず、なおも踏み込んでくる。
「ですが、貴女は……」
「おい、そこのオリヴェルとかいう男! お前、その顔立ちはどうせSubなんだろう!?」
「なっ……」
それまで口汚い言葉でジェシカを罵っていた男たちが、急にターゲットを変えた。
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