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本編
異変(1)
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身体の頑丈さだけはよく褒められるジェシカがなにかおかしいと自覚するようになったのは、ここ一週間ほどのことだ。
最初はたちの悪い夏風邪でもひいたのかと思ったのだが、症状は悪化する一方で、ちっとも治らない。
その上、ゆっくり休もうとベッドに横たわっても、ろくに眠れもしないため、疲労ばかりが蓄積していく。
化粧っ気のないジェシカの眼の下に黒々としたクマがうっすらと浮かんでいるのを認め、ダンは心配そうに眉を顰めた。
「体調が悪いなら、今日くらい馬車の見張りに回って休んでも良かったんじゃないか? 任務が終わったら早めに帰って休めよ」
「はぁい」
襲ってくる睡魔と戦いながら、ジェシカは両手を空に突き出して大きく伸びをする。隣に立つダンも、ジェシカにつられて大あくびをした。
「ふぁーあ、俺も眠いぜ。昨日酒場で出会ったSubの子がなかなかよくてさぁ……。俺のDomとしての本能をいい感じに満たしてくれたんだ。相性も良かったし、なんとかパートナーになってくれないかなぁ」
「あー、はいはい」
やに下がった顔をするダンに、ジェシカは「また始まったわよ」と呆れた顔をする。
この世界には、ダイナミクスという男女の性とは異なる性がある。
ダイナミクスは、第二次性徴が起こるころに発現する「第二の性」と呼ばれるもので、Dom、Sub、そしてどちらでもないNormalの三つに分類される。人口の比率としては、DomとSubが1割ずつ、Normalが8割程度だ。
Domの人々は誰かを支配したい、守りたい、甘やかしたいという強い欲求を持つ。対して、Subの人々は、Domと反対に支配されたい、守られたい、従属したいという欲求を持つ。
第一騎士団は王族を護るために組織されたエリート集団だ。騎士たちは家柄に関係なく、厳しい選抜試験を潜り抜けた者だけが選ばれる。そして、第一騎士団の騎士たちはDomの比率が高い。Domの「守りたい」という欲求が、騎士に求められる資質に合致するからだろう。
そのため、騎士団ではダイナミクス関係の話がしょっちゅう話題に上がる。
一方、ジェシカは人口のほとんどを占めるNormalだ。この手の話題にはとことん疎い。当然、相槌も適当になるのが常だった。
「おいおーい、興味なしってか? ちょっとは俺の話に付き合えよぉ。本当に昨日のプレイが快くってさぁ……」
「アンタの夜の事情なんて知ったこっちゃないわよ!」
ジェシカはダンの脇腹に容赦ない肘鉄を食らわす。
DomとSubはプレイと呼ばれる行為で、お互いの欲求を満たしあう。そうしないと、深刻な体調不良に陥ってしまうらしい。そのプレイはしばしば性的な行為も含まれることくらい、いくらジェシカでも知っている。この手の話題は慣れているものの、できれば聞きたくないというのが本音だった。
最初はたちの悪い夏風邪でもひいたのかと思ったのだが、症状は悪化する一方で、ちっとも治らない。
その上、ゆっくり休もうとベッドに横たわっても、ろくに眠れもしないため、疲労ばかりが蓄積していく。
化粧っ気のないジェシカの眼の下に黒々としたクマがうっすらと浮かんでいるのを認め、ダンは心配そうに眉を顰めた。
「体調が悪いなら、今日くらい馬車の見張りに回って休んでも良かったんじゃないか? 任務が終わったら早めに帰って休めよ」
「はぁい」
襲ってくる睡魔と戦いながら、ジェシカは両手を空に突き出して大きく伸びをする。隣に立つダンも、ジェシカにつられて大あくびをした。
「ふぁーあ、俺も眠いぜ。昨日酒場で出会ったSubの子がなかなかよくてさぁ……。俺のDomとしての本能をいい感じに満たしてくれたんだ。相性も良かったし、なんとかパートナーになってくれないかなぁ」
「あー、はいはい」
やに下がった顔をするダンに、ジェシカは「また始まったわよ」と呆れた顔をする。
この世界には、ダイナミクスという男女の性とは異なる性がある。
ダイナミクスは、第二次性徴が起こるころに発現する「第二の性」と呼ばれるもので、Dom、Sub、そしてどちらでもないNormalの三つに分類される。人口の比率としては、DomとSubが1割ずつ、Normalが8割程度だ。
Domの人々は誰かを支配したい、守りたい、甘やかしたいという強い欲求を持つ。対して、Subの人々は、Domと反対に支配されたい、守られたい、従属したいという欲求を持つ。
第一騎士団は王族を護るために組織されたエリート集団だ。騎士たちは家柄に関係なく、厳しい選抜試験を潜り抜けた者だけが選ばれる。そして、第一騎士団の騎士たちはDomの比率が高い。Domの「守りたい」という欲求が、騎士に求められる資質に合致するからだろう。
そのため、騎士団ではダイナミクス関係の話がしょっちゅう話題に上がる。
一方、ジェシカは人口のほとんどを占めるNormalだ。この手の話題にはとことん疎い。当然、相槌も適当になるのが常だった。
「おいおーい、興味なしってか? ちょっとは俺の話に付き合えよぉ。本当に昨日のプレイが快くってさぁ……」
「アンタの夜の事情なんて知ったこっちゃないわよ!」
ジェシカはダンの脇腹に容赦ない肘鉄を食らわす。
DomとSubはプレイと呼ばれる行為で、お互いの欲求を満たしあう。そうしないと、深刻な体調不良に陥ってしまうらしい。そのプレイはしばしば性的な行為も含まれることくらい、いくらジェシカでも知っている。この手の話題は慣れているものの、できれば聞きたくないというのが本音だった。
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