[短編]白薔薇の女騎士は元騎士団長に愛を乞う

沖果南

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<おまけ>自白剤を飲む、ちょっと前の話 (ロゼッタ視点)

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「はぁ? 元団長がロゼッタと離婚したいって言ってた!? 嘘でしょ!?」
「声が大きいよ、デボラ」

 王宮騎士団の同僚の女騎士であるデボラ・ドリンストンのすっとんきょうな声に、デボラは落ち着いて指摘した。
 リンゼイ王国騎士団の本部の一角にある女騎士専用の更衣室は、任務を終えたばかりのデボラとロゼッタしかいない。

「そんなん、一発殴ればいいのよ。今だったらロゼッタの方が元団長より強いでしょ」

 魅惑的な甘い笑みを浮かべて、デボラはにっこりと笑いながらバキバキと指を鳴らした。確かに、かつて鬼神と呼ばれていた騎士団長時代のレンナートであれば難しかっただろうが、今は現役の騎士として体を鍛えているロゼッタのほうが強いだろう。その上、レンナートは片手を失っている。力の差で言うなら、分はロゼッタにある。
 しかし、ロゼッタは首を振った。

「暴力は何も解決しないよ、デボラ」
「ぐうの音も出ないくらいの正論を、そんな綺麗な目で言わないでよ……」

 苦笑したデボラは、美しい金髪をかきあげて首を傾げる。

「それで、元団長がロゼッタと離婚したい理由は何なの?」
「わからないから悩んでる」
「まあねー。ふたりが喧嘩するとは思えないし、国王陛下を守った時にもらった報奨金で、一生遊んでいけるだけのお金はあるでしょ」
「お酒を飲んで酔っ払うのはちょっとやめてほしいけど、レンナートさんを探し回ってる間も幸せだし、酔っぱらってるレンナートさんと一緒に家に帰れるのって、すごく心配だけど、実はデートしてるみたいですごくうれしかったりもするし」
「なんとも献身的な妻ね」
「でも、家事とかやってくれてるのはレンナートさんなんだよ。すごくご飯も美味しいし、家も常にピカピカだし」

 ロゼッタは頬に手を当てた。
 結婚して片腕を失ったレンナートを世話をするつもりで押しかけ妻になったロゼッタだったが、いまではすっかり片腕のレンナートに細々と世話をされている。出される食事はすべて栄養があるもので、常にロゼッタのことを気遣っていると思わせるものばかりだ。心の底から大事にされていると感じる。だからこそ、ロゼッタはよけい混乱する。

 デボラは呆れた顔をした。
 
「分かんないんだったら、私じゃなくて、直接本人に聞いてみなさいよ」
「でも、レンナートさんの前だと、私は喋れなくなっちゃうから……」
「はぁ? アンタはまだレンナートさんとうまく喋れないの!? 夫婦になったから多少はマシになってると思ってた」
「だ、だって、結婚したらますますかっこいいんだもん」

 うら若き乙女のように頬を染め、いじいじと自分の指を絡めるロゼッタ。先程強盗のアジトに乗り込み、軽々と三人とっちめたばかりとは思えない。
 デボラは腕を組んだ。
 
「物好きねえ。あんな枯れた男より、体力がある若い男のほうがいいわよ?  私がアンタの顔だったら、間違いなくそこらへんのイケメンをちょちょっと2、3人誑かして、一晩中好き放題やるのになぁ」

 肩をすくめてかなり危ない発言をするデボラだったが、真剣に悩んでいるロゼッタの耳には幸いにも届いていないようだった。「うー」とも「えー」ともとれる唸り声をあげながら、必死で考えている。

「せめて、うまくお喋りできたらいいのにな」
「あー、じゃあ自白剤でも飲んでみればいいんじゃない? あれ飲めば一発で考えてることペラペラ喋っちゃうんだからさ」

 もはやこの話題に飽きてきたデボラは、適当なアドバイスをした。そして、そのアドバイスを、馬鹿真面目なロゼッタは至極真面目に受け止めた。

「それも確かにそうね。私、自白剤飲んでレンナートさんに色々聞いてみる! ありがとう、デボラ!」
「あっ、ちょっと待――。ヤバ、あの子行ったわ。マジで自白剤飲む気だわ」

 デボラはしまった、という顔をしたものの、すぐにいつも通りの艶やかな笑みを浮かべた。

「ま、いっか。元団長なら何とかするでしょ。あの二人、どうせ相思相愛なんだし。明日ロゼッタをからかうのが楽しみだわ~」
 
 ――翌日、予想通りロゼッタが半泣きになりながらデボラに泣きついたのは、言うまでもない。
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