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君がこの手に堕ちるまで。
気遣いと寝たふり。3日目、深夜。②
しおりを挟む風呂から上がってソファーに寝たままの颯太を確認して、俺は冷蔵庫からビールの缶を取り出して開けた。
そういえば颯太が来てからお酒は飲んでなかったな、と無意識にしろ自分の理性の保ち方に感心した。
お酒が入ると手を出さないでいられるかわからないという自覚がどうやらあったらしく、一滴も飲んでいなかった。
でも颯太が寝入ってしまえば多少気が緩んで、飲みながら明日の仕事を確認する為にパソコンを開く。
実を言うと俺は日月が定期の休みで、月曜日は出社してもしなくてもいい事になっている。
いつもは気になる案件があれば出社していたけど、颯太の風邪が心配だったから休もうかと思っていた。
でもだいぶ颯太も具合が良くなったみたいだし、数時間抜けようかどうしようか少し迷っていた。
お酒を飲むと煙草を吸いたくなるけど颯太が側にいるから、我慢して缶ビールを飲み干した。
ベランダに出て一服しながら空を見上げると、満月に近い月が綺麗だった。
あぁ、そうだ。昨日は颯太の淹れてくれたコーヒーを飲めなかったな。
明日は、絶対に淹れてもらおう。
颯太の淹れてくれるコーヒーは何故か本当に美味しいから。
そろそろ颯太をベットに寝かせようと抱き上げると、本当に軽くてちゃんとご飯食べてんのかと心配になる。
いや、でも颯太は身体は小さいのによく食べる。
美味しそうに沢山食べる姿は本当に気持ちいいし、見ていて嬉しくなる。
今日の鍋も本当に美味しそうに食べてくれたし、〆をうどんにするかおじやにするかで少し揉めたっけ。
ベットに寝かせると、颯太は毎回枕に顔を埋めて気持ち良さそうに足をばたつかせるんだよな、子供だから。
それなのに颯太はベットに降ろしてもいつも通りにそれをやらなかった。
「………おい、颯太。お前起きてるな?」
ビクッと身体が反応して、颯太は頰を赤らめながら気まずそうに目を開けた。
「ちょっと…何でわかるんですか。秒でバレるとか恥ずかし過ぎて死ねます…」
「寝たふりするとかいい度胸だな。お前がソファーに寝ても俺がベットに運んでる事くらいわかってた事だろ」
「だって、どうしたら遼介さん、ベットで寝てくれるんです?せめて交代にしません?家主を差し置いてベットを使う重圧に耐えられません」
「おかしなプレッシャーに負けるんじゃない。気にしないで俺のベットだ、くらいに思え」
ベットに起き上がってあぐらをかいて、颯太は口を尖らせて文句を言う。
「うーーん、じゃあせめて、じゃんけんしませんか?」
「時間の無駄。颯太じゃんけん弱いんだよ」
「やってみなきゃわかんないじゃないですか!でも3回勝負でお願いしたいけど!」
そう息巻いた颯太と3回勝負をしたけど、結果はやっぱり気持ち良く俺の勝ち。
「くっそ…俺って本番に弱過ぎ…」
「よし。じゃあ、おやすみ……っておい、こら」
撃沈して突っ伏した颯太をベットに残して立ち去ろうとすると、右手を引っ張られてバランスを崩した。
ベットに尻もちをついてしまって振り返ると、颯太の顔が思ったよりずっと近くにあって思わず目を逸らす。
「じゃあ明日は?明日はベットに寝てくれるって約束してください!」
「おい、離せって。明日もじゃんけんすればいいだろう?そしてお前が勝てばいいじゃないか」
「絶対負けますもん…じゃんけんへの自信粉々にしたの遼介さんじゃん…」
颯太は酔いが回って少し距離感がバグってるのか感情の浮き沈みが激しくて、また泣くかと焦って頭を撫でる。
「決めた。俺…もう明日、出て行きます」
「な、何でだよ。別にそんなベットとソファーどっちに寝るかなんて重要な事じゃないだろ」
まだ風邪も治りきってないし、アイスだって一個も食べてないじゃないか。
「遼介さんがベットに寝てくれないと俺はここにお世話になってる事が重荷になります。もう少しここにいたかったけど仕方ないです…」
最初は冗談かと思ったけど、ここであしらえば颯太は多分本気で明日になったらいなくなるような気がした。
「待て待て。落ち着け。料理のリベンジはどうしたんだ?それに俺は明日、お前の淹れてくれたコーヒーが飲みたい」
なだめるように顔を覗き込むと、颯太は少し言いづらそうに口を開いた。
「……じゃあ、お互い妥協しませんか…?」
「ん?うん、わかった。俺も多少折れる」
えーと、何をだ?とは思ったけど、ついそう返事してしまう。
「簡単です。難しく考えないで一緒に寝たらいいんです、ベットに」
にっこり笑ってそう言った颯太に、俺は軽く殺意を覚えた。
「おい…。だからってなんで、今日からなんだよ」
「いいじゃないですか、男同士だし何も問題ないでしょ?」
「お前、俺と寝るの無理だって最初言ったじゃないか!忘れたのか?」
「俺、寝汚くてきっと遼介さんの事蹴っ飛ばすと思ったから無理って言ったんです。でも、遼介さんちのベットめっちゃ広いから端と端に寝たら問題ないと思って」
問題大ありなんだよな…これは俺にとって拷問でしかない。
断り切れなかった俺は、ベットの端で颯太に背中を向けて本気で羊を数える事にした。
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