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君がこの手に堕ちるまで。
気遣いと寝たふり。3日目、深夜。①
しおりを挟む「嘘!遼介さんて社長さんなの!?」
「まぁ社長って言われればそうなるけど。自分で起こした会社だからな。全然小さい会社だよ」
鍋をつつきながら2人で色んな話をしてて、仕事の事を興味深そうに聞いてくるからそう説明すると颯太は予想以上に驚いたようで口が開いてる。
うん、やっぱり可愛い。
「すげー…25歳でしゃっちょーさんなんて…」
興奮した様子で間抜けな顔をして俺を見つめる颯太の目は、真っ直ぐで純粋で眩しいし、やっぱり犬だ。
「変なアクセントつけんな。社長とか呼んだらキレるぞ」
「でもあの、もしかして……そんなに儲かってないんですか?」
「なんだと?そこそこ業績いいんだぞ」
俺がムッとして言い返すと、颯太は言いづらそうに部屋を見渡した。
「あ、ごめんなさい。でも、社長さんならもっとこう、おっきな家に住むんじゃないのかなぁって。ほら、タワマンとか…イメージが」
「んなとこ住むわけないだろ。儲かってても寝に帰る時間くらいしかない家にそんな金使う方が無駄なんだよ」
「そ、そんなもんですか?」
「それに俺はここが気に入って長く住んでるんだ。一人でも狭くなく広くなくて、不自由ないの。そして贅沢に興味もないんだよ、余計なお世話だ」
広い家に一人だと寂しいもんなんだよ、とは言わなかった。
オレンジジュースを一口飲んで、うんうんと頷いた颯太は、ふにゃっと笑ってる。
「ん?何だよ」
「いや、遼介さんらしくてなんかいいです。謙虚でカッコ良くて裏表ないし、俺、めっちゃ尊敬します。それに…」
「……それに?」
「俺もこの家、居心地良くて好きです、すごく」
言葉選びがいつもより大胆で颯太らしくないような気がして、からかわれてるのかと思ったけどよく見ると颯太の顔がさっきより赤い。
「わっ、もーまた!冷えピタ剥がす時手加減してくださいよぉ」
また熱が上がったのかと慌てて冷えピタを剥がしておでこを触るとちょっと熱かった。
「お前、また熱が……?」
「え?大丈夫ですよぉ?もう元気ですし、鍋食べてるから、体温上がってるんじゃないです?」
大丈夫じゃないだろと立ち上がろうとして、颯太が持ってる缶ジュースがオレンジジュースじゃない事に気がついた。
「……は!?お前っ何でそんなん飲んでるんだよ!」
「これ?遼介さんがオレンジジュース買ってきたから飲めよって言ったんじゃないですか。オレンジジュースですよ?ほら、果汁しぼり、だって。美味いです」
颯太が持ってるのはオレンジジュースじゃなくてアルコール入りのカクテルだった。
そういえばだいぶ前に弟が泊まった時、成人したからってお祝いにアルコールを大量に買わされて宅飲みさせられた日があった事を思い出す。その残りだ。
「あーもう!ちゃんとラベル読めよ、リキュール入りだって書いてあるだろう!?」
「ええ~?リキュールってなんですか?」
「酒だよ馬鹿!そこよりここ!日本語読んでみろ!」
「『これはお酒です』うわぁ、本当だ。俺、日本語読めませんでしたぁ」
アルコールは微々たる量しか入ってないけど、酒に弱い颯太は普通以上に酔ってる。
取り上げて俺が買ってきた本物のオレンジジュースと取り替えたけど、もう酔いが回ってきたみたいで颯太は上機嫌になった。
「俺はぁ、遼介さんの役に立ちたいです。だから、明日こそ料理のリベンジしまっす!」
だんだん呂律が怪しくなってきた颯太をなだめて寝かそうとしたけど、颯太は風呂に入ると言い張った。
「おい、絶対風呂入ったまま寝るなよ?溺れるぞ?」
「わかってますって……。風呂入ったら、目が覚めると思うんですよねぇ。あ、いっその事一緒に入りますぅ?」
「黙れ、酔っ払いめ…」
「えー、遼介さんが冷たい!兄ちゃんは洗ってくれるのに!」
一緒に入って洗ってやりたい気持ちはあるけど、それは俺にとって拷問でしかない。
颯太と一緒に風呂に入って裸を見て、言い方がおかしいけど勃起しないでいられる自信がないからだ。
颯太にとっては男同士で、兄弟や友達と入るのと何も変わらないんだろうけど、俺にとってはそうではない。
せっかく一線を置いたのに、颯太がどんどん俺と距離を縮めたがってるのか踏み込んでくるから、正直言えば参ってしまう。
だからどんなに心配でも、リビングで出てくるのを黙って待つしかなかった。
「颯太?出たか?」
物音がしたから振り返ると、なんとか自力で風呂を済ませてスウェットを着た颯太が俯いたままふらふらとソファーに倒れ込んだ。
「おい、髪の毛乾かしてないだろ?それに寝るならベットに…」
「もう動けません…。だから今日は俺がソファーで寝ます…」
こいつ………わかったぞ、俺を騙しやがったな。
おかしいと思ったんだ、お酒だってもしかしたらわかってて飲んだんじゃないのか?
ソファーで寝て、今夜こそ俺を強制的にベットに寝かせる為にってとこだろ。
そんな事しても俺が眠った颯太を抱き上げてベットに寝かせるから意味がないのに。
俺は色々と残念な颯太に笑いを堪えながら、うつ伏せで寝たふりをしてしまった颯太の髪をドライヤーで乾かした。
猫っ毛の颯太の髪は気持ち良くて、起きないように出来るだけ静かに弱でゆっくり乾かしてあげるうちに、颯太は本当に寝てしまったようだ。
「後でベットに運んでやるからな」
耳元でそう囁いて、俺も寝る前にシャワーを浴びようとリビングの照明をおとして脱衣所に向かった。
その時、本当は颯太が起きてる事には気づかなかった。
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