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君がこの手に堕ちるまで。

聞きたい事。2日目、午後。②

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颯太がもし付き合ってる人がいるのかと聞いて来たら、俺は最初から『いる』と答えると決めていた。

「……ああ、いるよ」

それなのに変な間を開けてしまった。
俺はそう言うのが嫌だったのだと気づかれなかっただろうか。

「そ、そうですよねぇ…。遼介さん、モテそうですもんね」

「まぁ、この歳でいなかったら逆におかしいだろ」

嘘をつく事は気が進まないにしろ基本慣れているし、何とも思ってない相手になら罪悪感もそれほどない。

颯太に嘘をつくのは心が痛かった。
でもこの歳で付き合っている人がいない、と言ったら逆に気持ち悪く思われないだろうか。

彼女がいる事にしておけば何かと都合が良かったし、そう他人に一線を引くようにして自分の性の対象を隠して来た。

ゲイである事を人に自らカミングアウトしたのは人生でたったの一度だけだったし、そしてそれは最悪な結果を招いた記憶しかない。

颯太が何故そんな事を聞くのか問えば、そんな相手がいるのに自分がここに居てもいいのか心配だったからだと答えるんだろう。

今、付き合っている人なんていないし、彼女なんてなおさらいた事がない。

いや、はいた事がないけどならいた、というのが正しいか。

「あの…じゃあ、ここに長くいたら俺、邪魔ですよね」

戸惑ったような声でそう颯太が呟いたから、俺は嘘を重ねる。

「今更変な気を使わなくていい。滅多にここには来ないよ。遠距離だし」

「え?そうなんですか?」

「だってここ、どう見ても俺の物しか置いてないだろ」

「それはそうですけど…。あの、そんな付き合い方じゃ、寂しくないですか?」

「それは別に慣れてる。それよりお前はどうなんだ?彼女くらいいるだろ?」

今はいなさそうだと思うけど、好きな人ならいるかも知れない。

「へ?あ、俺ですか?俺にいるわけないじゃないですか。残念ですけど、こんなチビなんで、全然そういうのなくて」

「前は?」

「え?」

「前は、付き合ってる彼女いた事…あるのか?」

「は、はい。いた事ありますよ、彼女。すぐ、振られちゃったんですけど」

少し不自然な笑い方でまたソファーに戻っていった颯太は、毛布に包まって横になった。

彼女がいない事にはそれはそれでちょっとほっとしてるけど、だからって俺が手を出していい相手じゃない。

それに彼女がいたならやっぱりノンケ確定だな。

「寝るのか?」

「……はい、ちょっとだけ寝ますね」

急に話が弾まなくなってしまった事に後ろ髪を引かれながら、赤い夕焼けが差し込むベランダに出て、きっちりと窓を閉めて俺は大きくため息をついた。

「冷えてきたな…」

今日は数回しか吸わなかった煙草を咥えて、俺は颯太の事を考える。

俺に付き合ってる人がいると知ってどう思ったのか、少しはがっかりしてくれたんだろうか。

これで思い切り颯太に対して一線を引いてしまった。

律儀な颯太の性格を考えると、きっと彼女がいる俺の事を間違っても好きになる事はないだろうと思う。

それでいいし、高校生には手を出しちゃいけないし、俺なんかを好きになって『普通』じゃ無くなって欲しくないんだ。

そしてそれは、俺自身へのブレーキにもなると何度も言い聞かせる。

俺は嘘をついたけど、きっと颯太も嘘をついている。

颯太という名前だって合ってるとは限らないし、本当の名前も歳も知らないんだからお互い様だ。

颯太はそのまま寝てしまって、鍋が出来上がるまで起きる事はなかった。








「すげー、いい匂い……腹減りました」

「お?起きたのか、びっくりした」

鍋の煮える音が邪魔をして、颯太が起きた事に全く気がつかなかった。

「俺、夢の中に鍋出て来ました。もうお腹すき過ぎて気持ち悪くて目が覚めました」

ぺったんこのお腹をさすりながら、颯太は幾分顔色がマシになったようなスッキリした表情をしている。

「ぎゃっ、また遼介さん!冷えピタ思いっきり剥がすのやめて欲しい!痛い!」

冷えピタを思いっきり剥がしておでこに触れると明らかに熱が引いていて、少し良くなった実感が湧いて俺は安心して頭を撫ぜた。

「それだけ元気なら鍋食えるな。沢山食べて早く元気になれよ」

「…はい。あの、食事終わったら、風呂借りても良いですか?」

「風邪なのに大丈夫か?」

「昨日も入ってないんで、もう限界なんです。多分熱も下がって来てるんで、入りたいです、頭痒い…」

「ん。後で沸かしてやるから」

嬉しそうに笑う颯太は、元通り元気な颯太で俺は安心した。

俺に彼女がいようといまいと、関係ないだろ?
ここにいる間は可愛くて元気な颯太でいてくれたらいい。

「後で、アイス一個食べていいですか?」

アイスを食べ終わるくらいまではここにいていいと自分で言ったのに、胸の奥が少し傷んだ。













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