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君がこの手に堕ちるまで。
拾い物と1日目。② 颯太side
しおりを挟む目が覚めたら見た覚えがない天井と照明が目に入って、驚いてベットから落ちそうになった。
起き上がって見つめる広いベットは俺の部屋のベットじゃないし、そもそも俺のベットはシングルサイズだ。
狭い部屋のど真ん中にどーんとベットだけが占領してるただ寝る為だけの部屋みたいな雰囲気に呆気に取られて、俺はややしばらく固まってた。
「……ここどこ…?」
なんだか知らないけど頭が痛いのは、昨日お酒なんか飲んじゃったせいで、これが二日酔いってやつなんだろうかと思う。
ハッとして身体を見ると昨日着てた服のままでそれには安堵したけど、お気に入りのシャツがしわくちゃになってて萎えた。
胃の中が空っぽで喉がカラカラで、ベットサイドに置いてあったペットボトルの水に気がついて手を伸ばして勝手に飲んだ。
飲みながら物があまりない部屋を見渡して、監禁とか軟禁されてるみたいなちょっと物騒な考えは頭からとっぱらって考えると、自業自得な昨日の記憶だけが少しずつ浮かんできて少しむせた。
昨日…昨日俺、一体何やった?
なんで知らない人の家で我が物顔で寝てんの?
頼りにならない俺の曖昧な記憶を辿ろうとして、部屋の外に誰かの気配を感じて心臓が止まるかと思った。
少しだけ香る煙草とコーヒーの匂い。
耳を澄ませばカタカタとパソコンを打ってるような軽快な音と、紙の擦れたような音が響いた。
恐る恐るドアをちょっとだけ開けると、眼鏡をかけた男の人がパソコンに向かって何かを打ち込んでる姿が見える。
そして俺は昨日の醜態を全部、鮮明に思い出してしまった。
俺に気づいた男の人はかけてた黒縁眼鏡を片手で外してテーブルの上に置いて、少しだけ呆れたように笑って言った。
「おぅ、起きたか。もうすぐ昼だけど」
この人の声に聞き覚えがあって、低いのに透き通ったみたいな優しい声が心地良くてちょっと目眩がした。
だってこの人の声、大袈裟じゃなくアニメの声優さんみたいなすごく俺好みのいい声なんだ。
声帯取っ替えたいくらいに。無理だけど。
昨日と違ってスーツじゃなくて、紺色のセーターとデニムを履いてて、髪を下ろしてるからなんだかずっと若く見えて爽やかだなぁって思った。
整った顔立ちのすごくモテそうなオーラに圧倒されて何を言われてるかあんまりわかんなかったけど、どうやらお風呂に入るように促されたみたいで、いつの間にかシャワールームの前にいた。
「バスタオルはこれ使え。未使用だから吸水良くなかったらごめんな」
「すいません…何から何まで…あの、鷹宮さん?」
「いや、その呼び方やめてくれないか?お前みたいな若い子に名字呼びはますます歳を感じてへこむし」
いや、こんな目上のお兄さんを名字呼び以外どう呼んだらいいんだ?
「下の名前でいいよ。俺の名前言ったっけ?鷹宮遼介って言うんだけど。遼介でも、遼さんでもいいし」
「じゃあ、遼介さん…でいいですか?」
「ん。俺はお前より五つも歳上だから颯太の事呼び捨てでいいだろ?まぁ、覚えても呼ぶのは今日で終わりだろうけどな」
「い、五つ上…ですか?え?」
この人の歳を頭で計算出来なくて慌ててると、少し意地悪そうに遼介さんは笑った。
「お前、二十歳越えてるって昨日言ってたからな。そうなんだろ?」
ぐ、と詰まって俯くと頭をくしゃっと撫でられた。
「風呂沸かしたからゆっくり浸かっていいからな。ないとは思うけどのぼせるまで入ったり、寝てしまったりとか止めろよ。溺れるぞ?」
じゃあな、とあっさり脱衣所のドアから出て行く遼介さんの後ろ姿を見つめる。
遼介さんは25歳って事?思ってたよりずっと若いけど、髪を下ろしてるとそれくらいに見えなくもない。
思い出してしまった。
俺、この人に生まれて初めて一目惚れしたんだ。
正確には、この人の声に、かも知れない。
それなのに、この人は俺との縁を間違いなく今日限りで切る気満々なんだから絶望的だ。
遼介さんは俺の歳が二十歳じゃないって気づいてるけど、本当の歳だってそんな変わんないんだけど…いや、変わるか。
「8歳も上の大人なんて、絶対友達にすらなってもらえないよなぁ…」
俺はまだ17歳で、あの人から見たらずっとずっと子供過ぎて相手にされる気が全くしなかった。
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