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君がこの手に堕ちるまで。

拾い物。①

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拾い物って言ったら普通、知らない誰かが落とした物だと思う。

明らかに誰かの大事な物だったなら、例えば鍵とか財布とかなら交番に届ければ済んだ話だし、そんなよくある落とし物だったら俺だってもっとずっと気が楽だった。

でも今、俺が拾ってしまったのはそうそう簡単に道には落ちてない物に違いなかった。

それに拾っていい物かどうかよく考えれば、絶対拾っちゃ駄目な部類に入る事も間違いないんだ。

俺にだって冷静に考える時間があったなら、もちろん拾ったりなんかしない自信があった。

「ちっこい癖に…重てぇな、クソガキ…」

俺の背中に乗っかってるのは、クソガキと言ったって5歳児とかそんな可愛らしいものじゃない。

軽そうに見えて重たいと感じるのはこいつの意識がないからだろう。

俺の肩からだらんとぶら下がる腕が油断するとずり下がりそうで、俺はおぶってる男を何度か落としそうになりながらやっとの思いでマンションの部屋に辿り着き鍵を開けた。

「ただいま…」

ただいまと言ったって誰もいない一人暮らしの部屋だけど、律儀にそう呟いて玄関の灯りのスイッチを押してため息をついた。

そのまま玄関の硬い床にその担いでた男を放り出したい気持ちを抑えて、顔を覗き込む。

と言ったって体勢的に見れるはずもなく、苦しそうな息遣いが変わらないのを確かめる。

「はぁっ、…おい、着いたぞ?トイレ行くか?」

俺自身の体力の限界を感じつつ、寝室まで行くかトイレに行くか迷いながら靴を脱いだ。

「………うっ、だめ…も、吐く…」

「あぁ!?待て待て待て!ここまで耐えたんだからもうちょい我慢しろ、なっ!?」

担いでる間にも何度か吐きそうになって真っ青になっていた顔を思い出す。

降ろして道端に吐かせようとしても嫌がるから、仕方なく家まで連れて来た俺の努力が全く無駄になる。

死にそうな声で呟く男をトイレの前で下ろしてドアを開けると、最後の気力を振り絞ってトイレの蓋を開けた男はそのままリバースしているようだった。

背中を何度か摩ってやると寒いのか苦しいのか震えてて、そのまま楽になるまでしばらくの間黙って摩ってやる事にする。

「大丈夫か?」

「…………っ、まだ、気持ち悪い…」

「全部出したら楽になるから全部出せ。すぐ暖房入れるから、今は寒いけどすぐあったまるからな」

小さな背中はそれは苦しそうに上下してて、こいつの事を何も知らないのに何故か少し悲しくなった。

多分高校生くらいだと思うのにこんなに飲むほど何か辛い事でもあったんだろうか。

目の前で吐いてる様子を見られてるのは本人も嫌だろうとそのままそこに置いて、急いで部屋に入ってクローゼットから黒いパーカーを持って来ると背中に掛けた。

「楽になったら部屋に来いよ?」

なんにせよ、このまま背中で吐かれるより俺にとってもずっとマシな結果になって良かった。

スーツの上着を乱暴に脱いでネクタイを緩めると、流石に疲労感が増してソファーに座り込んで汗を拭った。

目を閉じるとさっきまでこいつが苦しそうに泣いてた声を思い出してしまって胸が痛んだ。

泣くほど辛い事があったのか、全く事情は知らないんだけど。

……これって交番に届けるべきなのか?
犯罪になったりしないだろうか。





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