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これからも続いてく、幸せな夢。
しおりを挟む………あれ?ここどこだっけ?
微睡む俺は暖かい感触に身を委ねながら、回らない頭で考える。
後ろから抱きしめられた状態で、少しずつ覚醒していく俺の耳元で聞こえる微かな寝息にひどく安心して、また目を瞑った。
夢を見たんだ。
ずっと叶わないと思ってた夢。
諦めたつもりで諦めきれてなかった、都合よく幸せな夢だった。
でもその夢の先は、ちゃんとその後も現実として続いている。
俺を包み込むように抱きしめてる腕は、俺が不自然に痛むような姿勢ではないけど、賢太の腕はいつも俺の下にあるから心配になる。
「賢太の腕、痺れたりしないんかな…」
小さな声で呟くと、何故か嬉しそうに笑った声が耳元で聞こえた。
「ふっ、お前軽いから、そんなでもないぞ」
起きてた。狸寝入りとかやめて欲しい…。
「湊、もうそろそろ起きるか」
夢の中と一緒の、甘い甘い幼なじみの声。
「今日、出掛ける約束したよな?」
「………っ、そうだった!」
俺が飛び起きようとしても、ガッチリ抱きしめられてる手は緩まなくて、起きるかって聞いといて何やってんのかと不満を口にしようとする俺に、優しい声が降って来た。
「おはよう」
後ろを見上げると超絶整った幼なじみの顔が映って、しかも俺は服を着てるのに何故お前は裸なんだよって心の中でツッコミを入れた。
「……………ん、おはよ…」
ぶわっと頬が熱くなるのは仕方ないと思うんだ。
朝からずっと片想いしてた相手に、幸せオーラ全開で微笑まれてみろよ。瞬殺だ。
いつまで経っても俺達が付き合ってるって現実をなかなか受け止められない俺には、とてもじゃないけど眩しくて直視出来ない。
確実に事後みたいな雰囲気を醸し出してるけど、実を言うと昨日はしてはいないけどな。
………それどころか、付き合った日以降、手を出されていない。
「ごめん、昨日……賢太帰ってくる前に俺、寝ちゃった?」
賢太は生活費の援助が実家から出てないから、バイトを掛け持ちしてて俺が思ったよりずっと忙しい。
「うん?あーいいよ。俺がバイト終わるの待ってたら、湊が寝不足になるだろ」
そもそも、賢太はなんで実家から大学通えるのに一人暮らししてるんだろう。
賢太の両親の反対を押し切っての事らしいから、出来れば家に戻って来て欲しくて、だから多分生活費の援助が貰えないんだろうと思う。
だってあの家に子供は賢太1人だもんな。
俺達がちゃんと付き合うまで、賢太がこんなにバイトしてる事を俺はあんまり知らなかった。
だから少しでも役に立ちたくて、家の鍵をもらった俺は慣れない家事をしにここに来るんだ。
昨日は晩ご飯作って待ってたのに。
「ご飯…」
「ん、美味しかった。湊、料理上手いんだな。知らなかった」
「ごめん。一緒に食べようと思ってたのに」
「湊、食べないで寝ちゃうのは身体に良くない。これからは先に食べてていいからな」
あっためて朝飯にしよっかって頭を撫でてくれる賢太に、待っててでも一緒に食べたい俺の気持ちはどうなるんだよって心の中で突っ込んだ。
今度は寝ないように、昼寝してから来るか、暇つぶしになるものを持って来よう。
お酒……はだめだ、記憶が飛ぶ………。
…………頑張って起きて待ってたら、またそういう雰囲気になって抱いてくれるかなぁ。
「なー、賢太。こんなバイトばっかりで大学もあるのに大変じゃない?」
「ん?別に大丈夫だけど。俺、若いし」
俺も同い年だけど。
「実家に戻れば楽なのに…」
「いいんだよ。俺は俺の為に一人暮らししてるんだから」
よくわからなくて眉間に皺を寄せて考えてると、前髪辺りに唇の感触がした。
「……はー本当、鈍感で可愛い…」
「は?なんで貶されてんの?」
よくわからないけど、こうしてたまに賢太は俺を揶揄って楽しそうに笑うんだ。
それがひどく甘くて、平凡で最高に幸せな俺の日常。
「愛斗さんが電話で邪魔して来ないと、なんか地球滅ぶんじゃないかっていう気持ちになるな」
「せっかくのデートでまな兄の事言うの禁止」
「そろそろ許してあげたら?こないだ見かけた時尋常じゃなく痩せてた」
「わかってるよ、もう許してる。俺もあんな痩せるとは思わなくって。まな兄のメンタル大した事なかったなぁ」
2人並んで歩く時、賢太は絶対車道側で、自転車が来たりすると俺の手を引いて庇ったりしてくれる。
そんでもってこれは、付き合う前からそうだったのに俺が気づいてなかっただけみたい。
前と違うのは、その握った手を離さないでそのまま賢太のジャケットのポッケに入れられる事。
そしてポケットの中で恋人繋ぎをされる。
寒いのに頬だけは熱くなるのはお前のせいだぞ。
「……………本当に湊はわかりやす…」
「は?何が」
「いや、こっちの話。そのわかりやすいリアクションをずっと想像してたから、あの日夢だと思い込んでる湊はレアだったなぁって思っただけ」
「レア?」
「自分で服脱いだり、俺を煽ったりとか想定外だったんだよ」
「………だって、あれはお酒のせいもあって」
「そうだな、お酒は他の男の前で飲むの禁止」
「そんな事言ってたら、俺、社会人になった時飲み会どうすんの?」
「大学中は俺の前で飲めばいいし、そのうち強くもなるだろ。俺がいない時はジュース一択で」
「えぇ~!?つまんない」
俺がお酒を飲めばまた抱いてくれるだろうかってまた、変な方に思考がいくのを我慢する。
あの時つけられたキスマークはほとんど消えてしまった。
消える前にしてくれるんじゃなかったのかよ。
心の声に反応したように、立ち止まった賢太は横から俺の顔を覗き込んだ。
「……何そのエロい顔」
「な………っ!?え、声に出てた?俺」
「………いや、何も言ってないけど、何それ。俺期待してもいいのか、今夜あたり」
「…………こっちだって、何で賢太が手を出さないのかって……割と悩んでるっていうか」
「…………無自覚に煽るの上手いよな」
ため息をついた賢太は、俺の手をしっかり握ったまま呟いた。
「愛斗さんが言ってたろ?付き合ってから自然に段階を踏めって」
もしかして、まな兄の言ってた事気にしてんの?
「発情期の猿って言われたんだぞ。あながち間違ってもないから、それはそれでムカつく」
俺はしたいのに。
「……………ぐっ、」
あれ?賢太が変な声出してる。
「湊、今のは心の声、しっかり声に出てたぞ」
「…………」
「今日も家に泊まっていくよな?」
「え?いいの?昨日も泊まったのに」
賢太はちょっと怒ったように呟く。
「いや、俺が何であんな1人では広い部屋をわざわざ借りてるのか考えてみよっか、湊」
賢太の無駄に部屋数の多いアパートは、確かに1人で住むには不自然だと思ってた。
「いつでも越して来ていいからな」
え?そうなの?それが目的だったの?
「賢太って割と、計画的だったりする……?」
さあなって笑う賢太に引きずられるように歩く俺は、これから観に行く映画が頭に入るか不安になった。
それから2人であのアパートに暮らせるまで色々あるんだけど、それはまた別のお話。
※本編は終わりですが、もう一回続きます。
間がかなり開いてしまい、終わる終わる詐欺で本当にすみませんでした。
ちゃんとしたエッチをもう一回で書くだけですのでここで完結とします。
読んでいただきありがとうございました!
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