朝起きたらベットで男に抱きしめられて裸で寝てたけど全く記憶がない俺の話。

蒼乃 奏

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俺達のその後。

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「おーーーっ!?みなっち!久しぶりじゃん」

同じ学部の佐藤が向こうから嬉しそうに走り寄って来た。

誕生日の飲み会に来てたメンバーも後ろにちらほら見える中で、俺は瞬時に幼なじみの姿を探す。

………うん、いない。良かった。

「風邪治ったか?みんな心配してたんだぞ」

「こないだ、誕生日祝いありがとな。なのにあんな酔っ払っちゃって、本当ごめん…」

「いいんだけどずっと大学休んでるから、みんな心配してたんだぞ!賢太に聞いても、なんかあんまり病状知らないって言うからさぁ。珍しいじゃん、賢太がみなっちの事わからないとか言うの」

賢太ってワードに異常に心臓が反応して、気づかれないように無理矢理笑顔を貼り付けた。

「俺もう、授業終わったし帰る」

「えぇ?まだ具合悪いの?」

「んー、本調子じゃないっていうか、無理するなって兄ちゃんに言われてて」

まだ調子悪い風を装って、そそくさとその場を後にした。

今日は上手い事賢太に会わずに1日を過ごせた。

何故か帰りはまな兄が迎えに行くとうるさかったので、仕事帰りに拾うからと言われてる時間まで暇を潰さなきゃいけない。

お気に入りのカフェに足早に滑り込んで、いつもの窓際が空いてるか確認すると、今日は塞がっているのかコーヒーカップが置いてあった。

がっかりして違う席を確保して上着を脱いで座ると、ほっと息を吐いた。

無意識に腕をさすってる自分に気づいて顔を赤らめる。

……まだ残ってる赤い跡を見る度に、赤くなったり青くなったりで情緒不安定だった俺は、ようやく少し落ち着いて考えられるようになって来た。

それでもあの時の幸せな記憶は薄れる事がなくて、それを思い出しては夜、我慢出来なくて何度も自分で慰めては虚しくなった。

あの出来事が夢ではなかった。

その現実は、ずっと賢太に片想いしていて、しかもほぼ諦めていた自分には、どう考えても身が重かった。


「窓際の席、今日は座らないのか」


いつも悩んでも頼む物は同じなのに、ぼーっとメニューを眺めてる俺に上から声が聞こえた。

「せっかく席、取っておいたんだから、こっちおいで」

恐る恐る顔をゆっくりと上げると、賢太がいた。
さっきの窓際の席のコーヒーカップが賢太のだった事にようやく気がついた。

もしかして俺が賢太を見つけて逃げないように、わざと席を外したのかもと思った。

油断した。
いるわけないと思ってたから結びつかなかった。

「湊」

優しい声色で俺の手を握る。
思わずその手がびくっと震えると、賢太がその手に力を込めた。

「ちゃんと話そう?」

ひどく優しく降ってくる言葉に、俺は泣きたくなって俯いてから小さくうなづいた。

俺の手を引いて立ち上がらせると、ちょうど店員さんが俺の水を運んできてた所で、賢太が「連れです」と言って窓際に移動した。

いつもの席に座らされて、俺を真正面から見つめる視線だけ感じる沈黙が続いて、安心どころか一気に緊張する俺は所在なく水の入ったコップを握った。

予想外でフリーズしたように黙る俺に、賢太は俺がいつも飲むホットチョコレートを注文してくれて、すでに飲んでいたブラックのおかわりをした。


「………身体、大丈夫か?」

「ん、もう大丈夫……」

「熱は?下がった?」

「もう、平熱」

「そっか」

恐ろしく短い会話を交わした後、流れる沈黙に俺は怖くなった。

呆れられてないだろうか。
夢だって思わなければあんなに醜態を晒さなかったのに、夢だと思って言わなくていい事も全部言ってしまった記憶しかない。

「湊、あのさ」

「うん」

「まだ夢だと思ってたりする?」

少し不安そうに問いかける声に思わず顔を上げると、俺を見つめる賢太の瞳がひどく揺れていたから。

「思ってない!!」

ちょっと食い気味に即答する俺は、言った後恥ずかしくなって顔が赤くなったのがわかった。

賢太は驚いて周りを見渡した後、すごくおかしそうに笑ってる。

「そ…っか、それは良かった。うん」

「な、なんだよ。そんなに笑うなよ」

「いや、笑うだろ…?あんなに夢だと思い込んでたのに、今の顔見たらそうじゃないってわかった」

「どんな顔だよ…」

「茹で蛸みたい」

「馬鹿にしてんの?」

賢太の笑い顔がすごく優しくて、でも可愛くてますます見ていられなくて、熱い頬を抑えて俯く。

「あー……そういう顔、反則」

俺の手を握って立ち上がらせると、何故か化粧室のドアまで歩いて行って連れ込まれる。

「え?え?ちょ、俺、別にトイレに用事ないけど!?」

「ん、俺もしたいわけじゃないけどな」

トイレは誰もいなくて、個室にぐいっと押し込まれて後ろ手で鍵を閉めると、賢太は俺を抱きしめた。

「ごめん、ちょっと黙ってて」

賢太は俺の頭の後ろに手を差し入れて固定して、物理的に俺を黙らせた。

「…んんっ!?」

唇が重なってる事に気づいて固まる俺の唇を何度も優しく塞いで、その合間に俺の名前を呼んだ。

「……湊」

この間ベットで何度もしたはずのキスなのに初めてみたいに固まる俺の唇を、何度か舐めてノックしてくれる賢太に陥落して、唇を開くのに時間はかからなかった。

「湊……可愛い」

「んぁ、う……んっ」

可愛いとかびっくりするくらい甘い言い方するから、恥ずかしいのと嬉しいのとで頭がごちゃごちゃする。

舌を絡ませる音が室内に響いて、その音が卑猥で興奮を抑えられない。

それは賢太も同じようで、俺の唇を何度も貪り執拗に舌を絡ませて俺の身体を熱くさせた。

やっと身体を離してくれて目を開けると、すごく安心した表情で笑いながら聞いた。

「聞いてもいい?」

「……な、にを……?」

「俺の事、どう思ってる?」

え?知ってるじゃん。
好きに決まってるし、わざわざここで言うの?

「え、ここで言うの」

「うん。ちゃんと言って」

いつ誰かがここに入ってくるかわからないし、俺は焦って小さな声で呟く。

「それは…………その、わかるだろ」

「うん」

「決まってるだろ、その、こんな事するくらいなんだし」

「そうだな」

嬉しそうに笑う賢太は言うまで離さないらしい。

何度も頬を掠めるキスに観念して、小さく呟いた。

「……………中2の時からずっと賢太だけ好きだ」

「…うん、俺も好きだよ」

「う、うん。そっか」

熱くなる頬を愛おしそうに撫でて、賢太は笑った。

「付き合ってくれる?」

「え、付き合ってないの?俺達」

「あ、そんな記憶ある?付き合ってって多分言ってないんだけど」

「言わないで俺達、あんな事したのか…」

「ごめん」

俺の首あたりのアザを見つけて、賢太はそこにもちゅっとキスをした。

「このキスマーク消える前に、また湊の事抱いてもいい?」

その言葉に俺から賢太に、肯定の意味を込めて唇を重ねた。

「あ、でも」

俺はこの所賢太を思い出す時、気になってた事を切り出した。

「賢太、今彼女いるんじゃ… 」

「いや、マジでどこ情報?こないだも言ってたけど本当に誤解だからな」

優樹菜ちゃんとのキスシーンは誤解だった事、ベットの中でも賢太が言ってた記憶はちょっと曖昧で安心して脱力した。

賢太は俺の事ずっと好きだったと言ってくれた。
だからそれを俺は信じるだけだ。

「ごめんな、湊」

「ん?」

「告白するの、トイレはないよな……」

「ほんとだよ……一生忘れないけどな」

そんなつもりじゃなかったんだけど、って気まずそうに言う賢太に俺も笑って、手を繋いで個室から出た。

もう、さっきまでの気まずさは薄らいで、いつも通りの2人に戻れたのが嬉しかった。






賢太にまな兄から鬼電が来るまでは、だけど。

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