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目が覚めたらやっぱりベットだったけど………。
しおりを挟む目が覚めた。
横向きに寝てた俺の前にはお気に入りのペンギンの抱き枕がある。
いつも通りの朝。
いつも通りの見慣れた風景。
いつも通りに抱き枕に抱きついて寝てた事に、何となく安心してほっと息をはいた。
朝…にしては暗いけど、陽が登るのが遅い季節だからまだ割と早めの時間なのかな。
二度寝出来るだろうか。
確か昨日は俺の誕生日祝いの飲み会で、記憶全然ないけどいつの間にか家に帰って来ていたみたいだった。
安心して抱き枕を堪能してると、少しずつ昨日の夢が蘇って来た。
…………待て待て。俺、すっごいエロい夢見てなかったか?
「うっわぁぁぁ……俺、なんちゅう夢を………!!」
夢なんて普通目が覚めたら忘れてるもんなんじゃないの!?なんで無駄にはっきり覚えてるんだよ…今回は忘れてても良かった。
次、賢太に会った時、絶対に目が合わせられなくて挙動不審になる案件だ!
ペンギンの腹に顔を埋めて声にならない声が漏れる。しばらくの間悶える俺は、なかなか顔をあげられなかった。
そうだよな…やっぱりあんな事現実なわけねぇ。
でもでも、ほんっと幸せな夢だったなぁ。
寝返りを打った俺は、枕元にあるスマホに手を伸ばす。
えーっと、今何時だ?
「………18時32分……って、え?夜?寝過ぎじゃね?」
今はどうやら朝じゃなくて夜らしい。
昨日、酔っ払ってからの記憶が曖昧で、うーんと唸りつつ身体を起こそうとして気づく。
「うぁ?……なんっでこんな身体痛いの?」
起き上がって痛む頭も気になったけど、身体が怠くて熱く感じて、スウェットの袖を肘まで捲り上げてある場所で視線が止まった。
不自然な柔肌の部分のアザ。
いつぶつけた?って首を傾げて見ても思い出せそうにない。
ちょっとあんまり出来た事がない、赤い跡。
既視感はあるけど、なんて言うんだっけ、こういうの。
その時ドアがノックもされずにガチャリと開いた。
「………湊!!やっと目が覚めたのか?」
入って来た男は持っていたお盆を俺の部屋のローテーブルに、乱暴にがちゃんと音を立てて置いて駆け寄って来た。
「まな兄、ノックって言葉知ってる?」
それにそんな乱暴にしたら、皿割れるよ。
そう口にしようとすると、まな兄は俺の身体をぎゅーーっと抱きしめた。
「寒くないか?怠くないか?お前熱があるんだぞ。なかなか目が覚めないから兄ちゃん心配で……っ!!ほら、ちゃんと横になってないと駄目だろ」
「え。そうなの?」
ベットに戻されてオデコに手を当てられると、自分が冷えピタを貼らされていた事にようやく気づいた。
持って来たのはどうやら卵粥みたいで、よく風邪を引いた時にまな兄が作ってくれるやつだと思ったら、急にお腹が空いてきた。
「まな兄、俺めっちゃお腹空いた。それ食べていい?」
「……っ、もちろん!兄ちゃんが食べさせてやるからな」
「え、自分で食べれるけど」
何故かとっても心配そうに甲斐甲斐しく俺の世話を焼く4個上の愛斗は、いわゆる弟大好きな困った人だったりする。
冷えピタを替えてくれて、持って来たポカリの入ったコップを手に握らせてくれる。
「ありがと、まな兄。誕生日の次の日に風邪で寝まくるなんて20歳早々、ついてないよね。俺、昨日どうやって帰って来たんだっけ?」
「………ほら、いいからまずちゃんと飲んで食って、体力回復させないとな?」
ポカリをゆっくり飲んで空っぽになったコップをローテーブルに戻したまな兄は、何故か俺の質問は無視して不自然な笑みでお粥を準備してくれた。
「そうだ、湊。昨日の誕生日まだ兄ちゃん、ちゃんと祝えなかったから、後でプレゼントあるぞ。あと、食えたらケーキもあるから。お前の好きなレアチーズケーキ買ってあるぞ。明日、兄ちゃん会社休んで病院に連れてくから一緒に行こうな」
「え、大袈裟だよ。寝てたら治るよ」
いいからいいからと連発するまな兄は、本当にお粥をひと匙すくってふーふーと冷ましてくれて、赤ちゃんに食べさせるみたいに口に突っ込んだ。
「…うま」
「そうか。湊、これ好きだもんな」
少し疲れた顔で笑うまな兄に甘やかされて、ちょっと嬉しくなってしまう俺も、ブラコンなんだろうなぁ。
「あの…さ、湊。これだけは聞いておきたいんだけど、アイツすぐ追い返したからちゃんと聞けてなくて、兄ちゃんめっちゃ心配なんだけども……」
「うん?何。」
それにアイツって、誰?
お粥を堪能しながらまな兄の顔を見つめると、気まずそうに言葉を選ぶように俺に言った。
「同意、あったんだよな?いや、きっとそうなんだろうとは思うんだけど。それにしたって意識なくなるまでとか鬼畜だろ?正直に言っていいんだぞ?無理矢理とかだったら兄ちゃん、もう2度とアイツとは会わせられないからな?」
俺、日本語こんなに理解出来なかったの多分初めてだ。
「……………どう、い」
「クソ真面目なアイツの性格は分かってたつもりだったが、約束をこんな長く守るとは思ってなかったんだ。正直、意地悪し過ぎたのは悪かったとは思ってる。でも約束は守っても、解禁された日にこれはないだろ」
「え。ごめん、まな兄が喋ってる事全然わかんないんだけど」
俺がそう言うと、まな兄はお粥の器をローテーブルに置いて、俺の腕を両手で握って袖を捲し上げた。
「………これ、ちゃんとお前の意思で関係持ったのかって……、そういう確認。兄ちゃんに、こんな事聞かれたくないだろうけど…見過ごせない。お前は俺のたった1人の大事な大事な弟だから」
「……………かんけい?」
さっきから壊れたオモチャみたいに時々カタコトで話す自分に頭が追いつかない。
「その、な。兄ちゃん、スウェットに着替えさせた時やっぱり、お前の身体中に跡が残ってるから……いや、アイツつけ過ぎだろ、何してくれてんじゃっつー気持ちになるわけだ。わかるな?」
わかんない。
身体中の跡って言葉だけに反応して、俺はのっそりと自分のスウェットの上を捲る。
あ、兄ちゃんちゃんとTシャツ、お腹冷えないようにインしてくれてるって思いながらTシャツを捲った。
「…………っ、ぎゃ、何これ」
お腹についた赤い跡の数の多さに内心動揺して、下のスウェットも震える手で脱ぐ。
太ももに付けられた赤い跡は、どうやって付けたのかってくらい際どい場所にもあって、そのひとつひとつをどう付けられたのかを思い出した。
「………待て湊、まさか同意ではないのか?アイツ……やっぱり…俺の手でブチ殺すしか…」
そして俺は唐突に理解した。
昨日夢だと思ってた事が夢ではなかった事。
俺がずっと好きだった人が俺を好きだって言って、大事に抱いてくれた事を。
……………っ、夢じゃなかった?
そう思った瞬間、俺の頬にぽたぽたと流れる涙を見たまな兄は、めちゃくちゃ焦って指で俺の涙を拭った。
「な、泣くな!大丈夫だぞ、湊!わかった、アイツは半径10メートル以内接近禁止してやる!こんな執着じみた跡を残す奴の事なんか、兄ちゃんがあっという間に忘れさせてやるからな!」
「やだっ、余計な事…しないでよ、ばかぁ」
俺が「めっちゃくちゃ同意あった」とまな兄にわかってもらえるまでずっと泣き続けた結果、また熱が上がって俺はベットから起き上がれなくなる。
だからそれから3日も賢太に会えなかった。
スマホに連絡は何度もあったけど、賢太に抱かれた時の記憶を思い出すたび、嬉しいのと恥ずかしいのとで頭が混乱して、返事もろくに出来なかった。
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