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目が覚めたらベットで男に抱きしめられてた。
しおりを挟む………あれ?ここどこだっけ?
心地良いシーツの感触に微睡む俺は、うっすら目を開けてあまりの身体のだるさに大きくため息をついた。
まだ暗い室内にほのかについた間接照明をぼうっとして眺めながら、ああ、ちょっと肌寒いなと思って暖かい温もりに手を伸ばして触れた。
ん?何であったかい…?
肌と肌が触れ合った感触に違和感を覚えながら、お腹に回った腕に手を伸ばすと、自分が何も着ていない事に気づいた。
「…………は?」
いやいや待て、落ち着け。うーん、そうだ。
これはきっと夢なんじゃないか?
俺、裸族じゃないから寝る時はスウェットちゃんと着るじゃん。
腹冷やしたらすぐ下るからスウェットのズボンに中のTシャツもインして完全防備で寝るじゃん。
でもTシャツも着てないしなんなら俺、パンツ履いてなくね?
それなのに腹壊してないのはきっと、これが夢だからなんだと思う。
でもこの夢の設定が全く理解出来なくて身動ぐと、横向きに寝てる俺は背中から回された両手にそれはもうしっかりと抱きしめられてる事に気づく。
それも女の子とかの柔らかい肌とかじゃなくて、ガッツリ筋張った腕の感触。
………うん、男だよな、これ。
まぁ、俺の性癖だと夢でもこうなるか。
俺って実は男にしか興味ないもんな…。
誰にも言ってないけどさ。
俺は確かに小柄だと思うけど170センチはあるし、それでも後ろから抱きしめられてる感触は俺より遥かに身体が大きく感じる。
足裏に当たる感じだと俺より背は高いし身体もすっぽり覆われてる気がした。
てか誰なんだよって思うより先に、身体が反応しちゃってる。
嗅ぎ慣れた匂い。
こんなにぎゅっと抱きしめられた事なんてないけど、わからないわけがない。
「…………賢太?」
問いかけてみたら少し身体が動いて、まるでいつもしてるみたいに自然に首元に顔を埋められて軽く啄むように唇を寄せられて、ちゅっと音がした。
は?え?何やってんの?お前。
今キスした?え?てか、何でお前も服着てないんだよ…。
あー、これって俺の願望が夢に出ちゃってるのか。
経験ないけど、男にめちゃくちゃに抱かれたいとかは絶対思ってたもんなぁ。
でもいくら夢でもこれは刺激が強過ぎる。
固まった俺の身体を抱きしめながら、ぴったりとくっついた身体に擦り寄ってくる男は。
間違いなく俺の同い年の幼なじみの江崎賢太だと思われる。
「………ん?目が冷めちゃったか…?まだ5時じゃん。もう少し寝とけ」
俺のお腹に回ってた手は大事そうに毛布を手繰り寄せてお腹を温めるように隠して、その手は俺の頭に登ってきて乱れた髪を優しく撫でた。
「…もうちょっと寝ないと回復しないだろ?ごめんな、無理させた。やっぱりスウェット持ってくる?冷やすとまた腹壊すからな…湊」
恐ろしくリアルな台詞を耳元で囁かれて変な声をあげそうになる。
無理させたって言った時のその、なんていうかふわっと実感がこもったような甘い声の感じ、なんなの?聞いた事ないぞ。
ちなみに湊ってのは俺の名前。
大野湊、20歳の大学生。
声を出そうとしたけど何を言っていいのかわからなくて黙ってると、賢太は俺の背中に抱きついたまま呟いた。
「……なんだ、寝ちゃったか?相変わらず寝るの秒だな」
寝てない。寝てないぞ賢太。
ええと、状況を整理してみよう。
こんな夢を見てるんだから普通に昨日何かあったはずなんだ。思い出せ、俺!!
そして最初に思い出した事は、昨日は俺の20歳の誕生日だったって事だ。
そうだ、俺の誕生日を大学の友達で集まって祝ってもらって…そして、初めて酒なんか飲まされて…自分がめちゃくちゃ酒に弱い事を知ったんだ。
って言ってもほんの少しで完全に酔っ払って、隣にいる賢太に絡んで、周りに迷惑かけて、それで、それで…?
………だめだ、その先が全く思い出せない。
つーかめちゃくちゃ頭が重いし、倦怠感があるし、謎の身体の怠さに気がつく。
うーんでも、これって夢なんだし痛いって錯覚してるだけかもな。
俺は少しだけ思い出しそうな記憶に蓋をして、この夢を満喫しようと賢太の手に俺の手を乗せた。
いつか男の大きな腕に抱きしめられる日が来るなんて思ってなかったし、そういう場所で相手を探す勇気もなかった。
「……賢太?」
「なんだ、起きてるのか。声、掠れてるな…水飲むか?」
「う、うん。飲みたい」
元から優しいけど、いつもより三割増くらい優しい声を出す賢太に戸惑いながらそう答えると、ベットサイドに置いてあるミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばす。
少し離れた身体に寂しさを覚えながら後ろにいる賢太を盗み見ると、賢太はやっぱりマッパで心臓が跳ねる。
「起きれるか?」
そう言われて身体を起こそうとして、びっくりするくらい身体に力が入らない事に気がついた。
「……あ、あれ?力、入んねぇ…はは」
恥ずかしくなってへらっと笑うと、賢太はおもむろにペットボトルの蓋を外して口に含む。
「……んんんっ?!」
何故かその顔が俺に近づいてきて、反射的に目を閉じると唇が塞がれて液体が流れ込んでくる。
は?え?何これ。
もしかして口移しで水を飲ませられてるって夢?
うわぁ俺、こんな事したいって心の奥底で思ってんのかな。
口の中に入りこんだ水を、寝たままだから喉を伝ってあっと言う間に反射的に飲み込んでしまう。
身体に染み渡るように水を飲み込むと、またベットボトルを傾けた音がして何度かに分けて水を強制的に飲まされる。
「…っ、んーーーっ、け、賢太…もういいって…」
唇を離された瞬間に息も絶え絶えにそう告げると、賢太は楽しそうに笑って俺の頬に口付けた。
「ごめん湊。苦しかった?」
「あっ、当たり前だろ!?」
苦しいより何より、いきなりキスされて動揺が酷いのに、涼しい顔して唇に垂れた水を色っぽくぬぐう賢太を睨みつけた。
「はぁっ、はぁっ。マジで窒息すんだろ…?許可取ってやれよっ」
「…いちいちキスするのに許可いるんだ?可愛い事言うなぁ、俺の恋人は」
………嘘だろ、俺って夢の中で図々しくもコイツの恋人設定なのかよ…。
「昨日はキスしてもちゃんと息出来てたのに、寝たら忘れちゃったんだ?」
「……き、昨日?」
昨日どんな風に賢太とキスした夢を見てたのか知らないけど、昨日出来てたなら今日の俺にも出来るはずだ。
いや、夢だけどな。
「で、出来るよ。息ぐらい。水飲まされたからそれで、ほらっ、溺れそうだったんだよ!」
悔し紛れに呟くと、ふーん、と意地悪そうに笑った賢太の顔がまた近づいてきて唇を塞がれた。
何度もくっついては離れる軽いキスを繰り返されて、俺は変な気持ちになって来て無意識に賢太の首に手を伸ばしていた。
「んっ、ふ…あぁ…」
唇を割って入り込んで来た賢太の熱い舌に、自分の舌を戸惑いながらも絡めて、キスなんかした事もなかった癖に腰に来て少し自分のを押し当てて揺らしてしまった。
俺ってやっぱりムッツリだったんだと頭の片隅で思いながら賢太の首に縋りついて顔を傾けた。
ああ……どうしよう、めっちゃくちゃ気持ちいい…死ぬ。ほんと死ぬ。
口の中を這い回る舌の感触にみるみる俺の性器がむくむくと勃ち上がる。
「……朝から湊が可愛い事するから、勃った…」
賢太の聞いた事もない少し困った様な苦しそうな声に、抱きしめられた感触に無駄に心臓が跳ねるのを感じながらため息を漏らした。
いやいや、俺の方がよっぽど勃っててギンギンだし、これは完全に夢精コースだろうなと呑気に頭の片隅で思った。
夢でもいいからもっとちゃんと抱かれたかった。だってこういうのはきっと起きたら覚えてないんだろうしな…。
何度もキスをしながら正面から抱き合って、裸でもつれ合ってるのに興奮して俺はうっかり呟いた。
「えっろい夢……。俺…欲求不満だったんだな…」
その瞬間唇が離されて、目を開けると驚いた顔をした賢太の顔があった。
「……え?どした?賢太」
「夢…ってなんだよ。何言ってんの、湊」
「え?だって夢だろう?コレ。夢じゃなかったらお前とこんな事出来るわけないじゃん…」
「こんな事?」
目の前にある賢太の顔がみるみる険しくなっていくのを見て、夢の中で地雷を踏んだ様な気がした。
「夢でなかったら、俺とこんな事してなかったって言いたいんだ?」
いやいや、違う違う。
現実にお前に抱いてもらえる事なんてないのに、夢の中でこうなりたかったと思ってる自分を相当欲求不満なんだなって思ったって事なんだけど。
「残念だけど、これは夢じゃないよ、湊」
低く重く響く賢太の怒った声に、説明をしようとした声が出なくなった。
夢じゃなかったら、どうしてこんな事になってんだよ、俺達!?
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