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いくら仲良しでも適度な距離は必要です。
【番外編】嘘をついてはいけません③
しおりを挟む「悠太、奥まで行ったら戻って来るの大変だぞ」
「でも奥まで行かないと、見られないし」
昔の記憶を辿って園内をずっと進むと、奥の開けた場所に目的の場所があった。
「うわぁ。久しぶりに見れた!」
下から見上げると高い位置にある長い首。
つぶらな瞳でマイペースに柵の中を歩いてる。
「おい、首痛くなるからあんまり見上げるなって」
俺は昔からキリンが大好きで、保育園の時もこの場所からなかなか動かずに飽きもせず眺めていたらしい。
「なんでそんなにキリンが好きなんだ?」
「なんでって…癒されるっていうか。可愛いんだもん」
俺が柵にかじりついてキリンを眺めてると、晴人は後ろで多分俺に聞こえない様に小さくため息をついた。
「晴人、なんの動物好きだったっけ?」
「ペンギン」
「そうそう、思い出した。小さい時もペンギンめっちゃ見てたよね」
「うん。だってペンギンって悠太に似てるからな」
「………え?どこが?」
「背が低くて足が短いとこ」
「……………」
「いや、冗談だぞ。本気にするな」
嘘だ。きっと割と本気でそう思ったくせに。
俺ってやっぱり背が低いのかな。
晴人がデカいだけなんだと納得してて自分は普通だと思ってたけど、やっぱり一般的に男が背が低いって言われると気分は良くない。
「……もうちょっと上に行ってくる」
「おい、そこで見えるだろ?」
丸く囲ってある柵の上の方に行くとより近くから首より上の顔が見られそうだから、俺は晴人を置いて歩き始める。
ここまで結構歩いたし、この動物園は小さな山の麓から作られてて奥に行くほど山に登ってるみたいな傾斜になっているから、急に身体がしんどくなって来て柵を掴んだ。
「悠太、さっきから少し雨雲が流れてるから。…おい、悠太?」
さっきから薬が切れたのかまた具合が悪くなってきてて、俺は少し歩いた所でしゃがんで息を整えようと何度も息を吸った。
すぐそばに晴人が来て、優しく背中をさすってくれる。
「ほら、無理するから…吐きそうか?」
「は、吐かないよ、なんともないって」
「馬鹿。何年一緒にいると思ってんだよ。お前が風邪引きなのも、蕎麦を無理やり食べたせいで吐きそうなのもわかってる。なんでちゃんと本当の事言わない?」
やっぱりバレてたんだ…。
でも、どうして容認したの?
晴人と付き合い始めて、俺は前とは変わってしまった。
晴人がどんなに俺を好きだと態度に表してくれても、いつも不安が何処かにあるんだ。
晴人が俺と付き合っていると噂になっても晴人が告白される頻度はあまり減らないし、周りにはすぐに別れるに違いないって思われてるんじゃないかとか考えてしまう。
そしてやっぱり「どうして俺なの?」って気持ちがなかなか消えてくれないんだ。
ため息をついた晴人が俺を支えて立たせて、近くのベンチまで引っ張ってって座らせる。
薄手のジャンバーを上まできっちりファスナーを上げて、フードを被せて俺の頰に手を当てた。
「お前が随分と動物園に行くのを楽しみにしてたの知ってたから目を瞑ってた。でも、さっきからもう顔青くなってきてる」
「……ごめんなさい。」
こうやって不安になってる事も、頭で考えてる事も、何だか出来れば知られたくなくて、前みたいに全部言葉にする事が出来なくて俺は俯いた。
もう太陽も隠れてしまって下がって来た気温に俺は身震いする。
「歩ける様になるまでここで座って休んでろ。傘、雨降る前にさっき通った売店で買ってくるから。ここから動くなよ?」
晴人が小走りで下の方に駆けていくのを目で追いながら、俺は辺りを見渡して息を吐いた。
……晴人、多分ちょっと怒ってた。
俺って自分が思ってるよりずっと、我儘で自分勝手なんだと思えてきて落ち込んでしまう。
晴人は優しいから俺の我儘を聞いてくれてるけど、全然上手くいってる気がしない時がある。
晴人が俺を好きな気持ちって、どのくらいなのかな。俺の好きと、同じくらい?
俺と晴人はお互いを、同じ位の情熱でちゃんと想えてるのかな。
ふと通りかかった保育園くらいの男の子と女の子を見て、自分達が男同士なんだとまた思った。
ずっとそばにいたいだけなら、幼なじみのままの方が良かったんじゃないかな。
俺がもし女の子だったら、こんな事は悩まなかったのにな…。
手を繋いでてなんだか微笑ましい小さなカップルを見てると、ふと昔の記憶が頭をよぎった。
そう言えば…この動物園に昔来た時、晴人と俺もこんな風に手を繋いだ事がなかったっけ?
奥の小さな茂みに目をやって、晴人の行った方角をもう一度見て、俺は立ち上がった。
確かこの奥の池の辺りでなんか…約束とかした様な気がする。
記憶にモヤがかかった様な感覚が嫌で、ちょっとだけ奥に行ったら思い出しそうでつい、俺はそこを離れてしまった。
晴人にそこを動くなよって言われてたのに。
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