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いくら仲良しでも適度な距離は必要です。

番外編 幼なじみ観察日記 (少女A視点)

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あたしの名前はA子。
名前くらいちゃんとあるけど、あたしの名前なんか特に興味がないだろうから仮でA子としておく。

趣味は人間観察。もちろん興味がある人限定だけど悪質なストーカーとかじゃないからね。


あたしの通う高校では、目立つイケメンが1人いる。

2年3組、神山晴人。
入学式で初めて彼を見た時、眩しいって思うほどのイケメンぶりだったせいで目眩がしたのをよく覚えてる。

天は二物を与えないとかよく言うけど、神山晴人に関しては二物も三物も与えたんじゃないかってくらい完璧。

容姿端麗、運動も勉強も出来る。
人種が違うって言葉がピッタリ。

きっと今まで何でも上手くいって、挫折なんかもなくて人生楽しいんだろうなって思うのはあたしの思想が歪んでるのかしらね。

こういう人は実は性格が高飛車とかだったら納得もいくんだけど、廊下を走ってた男子に衝突してあたしが持っていた大量のプリントをぶちまかして半泣きだった時、たまたま通りかかった神山晴人が全部拾い終わるまで手伝ってくれた。

クールに見えるけど気取ってなくて性格も良いとか悔しいくらいモテ要素満載でしかなかった。

あと、隣にはよくちっちゃいお友達がいる。
どうやら幼なじみらしい。

神山晴人は1年の女子達の間でももちろん人気。
3年のおねぇ様方にもよく言い寄られてる。

まぁ見た目が良いんだから女には困ってないんだろうと思ってたんだけど。

たまたま校舎裏で告られてる所を目撃しちゃったんだよね。

その時、断った台詞が

「俺、好きな人いるから」

彼女いるからじゃなくて好きな人いるから。
って事は、片想いでもしてるのだろうか。
あんなに顔がいいのに?何かの間違いでしょ。

あんなイケメンに片想いされる女の子なんて相当可愛いか性格がいいのか…。
なんて羨ましい…いや、あたしには関係ないけど。

今日も彼は幼なじみと2人で下校している。
だからきっと彼女はいない。解せないけど。


神山晴人は顔だけではなく頭もいい。
しかも運動も出来るのに部活には入っていないようだ。

帰宅部の彼はいつも定時に帰る。
塾にでも行ってるのかと思ったけれど、帰りに寄り道してる姿もよく見かける。

大人数で遊びに行く事もあるけど、大抵遅くならないうちに帰路につくらしい。
門限を守るイケメンとかいるんだ。

隣にはいつもの幼なじみ。
家が近くていつも必ず送ってもらえるらしい。
そのポジション譲ってもらえないかしら、と時々思ってる事は内緒。

しかし神山晴人は頭がいいのに、何故うちの高校を受験したのか謎だ。

きっと彼ならあと2ランクは上の高校でも受かったはずだし、うちの高校は普通よりちょっと頭がいいくらいのレベルなのに、よっぽどこの高校に入りたい理由でもあったのだろうか。

制服も平凡、普通の高校だと思うのだけど。


神山晴人はあまり笑わない。
それなのにたまにすごく笑ってる時がある。

笑ってる時と笑ってない時の差が激しい。
もしかして二重人格なのかなとも思ったけど、そんなドラマみたいな事があるわけもない。

よく見ていたらその差に気がついた。
彼は幼なじみといる時だけよく笑うのだ。

あとは興味がないのか割といつも動じなくて、喜怒哀楽が乏しいみたい。

幼なじみといる時だけ気を許してるといった感じだ。あの幼なじみはいったいどんな魔法を使ってるのだろうかと本気で思った。

そう言えば今日もぼーっと外を見てる神山晴人を見かけたけど、視線の先には幼なじみが楽しそうに他の友達と戯れていた。

いつも幼なじみを見てる時は大抵笑ってる神山晴人が、ひどく面白く無さそうな顔をしていた。

その後もよく幼なじみを遠くから見つけては笑ってる神山晴人をよく見かけた。
よっぽど幼なじみが好きらしい。

そうか、そうなのか。
神山晴人はわかりやすい性格だった。
そっちの趣味があるのかとも思ったけど、他の男といても全く変わらない。
だからこそ、幼なじみがどれだけ特別な存在なのかわかる。

ふうん、幼なじみに恋してるなんて。
可愛いとこあるんじゃん。
まぁ、幼なじみは全く気付いてなさそう。
相当鈍いのかも知れない。


ある日幼なじみ君が3階の窓からグラウンドを見ていた。
視線の先にはサッカーをしている神山晴人。
珍しく熱中しているようで、ボールを取り合って足を引っ掛けられて転んだ。

心配そうに見ている幼なじみ君は、一緒に見ていた友達にひどく何かを訴えてる様子だった。
感じからして、相手が卑怯だったと怒ってるみたいな感じだろうか。

神山晴人はあまり気にした様子もなくて、幼なじみが見ている事に気付くと張り切り出した。
本当にわかりやすい。

あっという間にゴールを決めて、幼なじみ君が小さくガッツポーズしたのをあたしは見逃さなかった。

遠目で見ただけだけど、いつも地味だと思ってたのにあんなひまわりみたいにあったかくて柔らかい笑い方をするんだと思った。

眼鏡を掛けてるから地味に見えるだけで、眼鏡を外せばかなりイケメンなのではないだろうか。

神山晴人は好きな人の趣味もいいのか。
そして幼なじみ君も神山晴人をとても大事に思ってるのは間違いない。

人間観察が趣味のあたしの勘、割と当たるからね。


神山晴人が階段から落ちた。
正確に言うと幼なじみと一緒に落ちた。

どうして落ちたかは知らないが、あの神山晴人がキレたという噂でその日はもちきりだった。

きっと幼なじみ君を庇ったんだと思った。
好きな人を庇うとか少女漫画みたいでテンション上がっちゃって困った。
羨ましい。あたしも誰かに庇ってもらいたい。

結構なテンションでキレた事で相当数の女子が、もしかして神山晴人って佐藤悠太の事好きなんじゃないかって噂をしていた。

そうか、幼なじみ君は佐藤悠太という名前らしい。名前は平凡だけど、神山晴人に好かれる時点でもう平凡ではない、決して。

あたしが見て来たこの1年と4ヶ月の間だけでも、神山晴人の片想いはとてもじれったかった。

だからそろそろ幼なじみ…もとい、佐藤悠太に告白すればいいのにって思った。

だって、脈あるよ?佐藤悠太。
女の勘で、根拠は無いけどね。


次の月曜日の朝、神山晴人はいつも通り佐藤悠太と登校した。

でも少し、いやかなり機嫌が良くなかった。
何故なら、佐藤悠太が眼鏡を掛けてなかったから。

コンタクトを日曜にでも買いに行ったのだろう、眼鏡がない佐藤悠太は全然地味ではなかった。
むしろ…めちゃくちゃ目を引く可愛さだった。

ただ、歩き方が腰が痛そうだと思ったのは気のせいだろうか。
階段から落ちた時腰でも打ったのかも知れない。

その日は一緒に歩いてる時必ず神山晴人が庇うように寄り添っていたので、なかなか微笑ましかった。

その何日後かに、誰か知らないが女子が神山晴人に告った時、断り方が変わったと噂になった。

「俺、付き合ってる人いるから」

どうやら神山晴人には付き合ってる人が出来たらしい。

誰かと問えば、神山晴人はあっさりゲロった。

「佐藤悠太。言っとくけど、悠太に嫌がらせとかしたら社会的に抹殺するからその辺よく考えて手を出せよ」と物騒な事を言い放ったらしい。

ちなみに佐藤悠太は火曜日からまた眼鏡に戻っていた。

何となく神山晴人が言いくるめた気がしてならない。


どうやら2人は本当に付き合ってるらしい。

仲良く並んで帰る2人を見かけた時、距離がとても縮んでいたし、佐藤悠太が笑ってる顔は前よりずっと幸せそうだったからだ。

そして、それを見つめる神山晴人は言わずもがな。

でも、あたしみたいにどこからか2人をひっそり見てる人もいるかもしれないから、こっそり手を繋いでたりするのは気を付けた方がいいと思う。


幼なじみのハッピーエンドはそうそう転がってるもんじゃない。

でも、あたしも来世でいいからイケメンの幼なじみと結ばれてみたいものだと思うから、来世でいい思いが出来る様に今日から徳を積んでいこうと決心した。

あたしの観察日記はこれで終わり。
でも2人の事を見てるのはあたしの癒しだから、これからもひっそり見守ろうと思う。















※2人に苗字をつけてみました(笑)
もう少しお付き合いください。

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