上 下
21 / 32
いくら仲良しでも適度な距離は必要です。

いくら長い付き合いでも知らなかった顔があります③

しおりを挟む

明確に晴人を好きだって気付いたのは身体を重ね合わせてる最中だったなんて、どうにも言い出しづらい上に晴人が信じてくれるのか不安でしかなかった。

『ゆっくり俺の事を好きになって』って言う晴人の台詞は色んな意味に捉えられて混乱する。

晴人の事を今は好きじゃなくてもいいって意味?
今は返事はいらないって意味?

そして、晴人は俺が晴人を意識し始めたばかりで、晴人の事を今はそれほど好きではないって思ってるって事だ。

そもそも晴人は、いつだって俺が嫌がればやめるって何度も俺に選択権を与えてくれた。

晴人が俺を何故かものすごく大事に思っていてくれたのは繋がってみて泣けるほど伝わってきたのに、晴人にはどうやら俺の気持ちは少しも伝わってないみたい。

最後までしたがったのは俺の方なのに。

俺がだと思ってるんだ。

俺が言葉に詰まってると、ちょっと困ったようにまたさっきみたいに後ろから抱きしめてくれる。

「…そんな顔するなよ、もう今日はこれ以上何もしないから」

なんで俺なの?
なんで俺の事なんて好きなの?

俺の事可愛いとか言うのは真由香姉ちゃんくらいだし、誰にも好きになってもらった事もないのに。

他に晴人の事を想ってくれる人もたくさんいるのに、それに俺、そもそも男だけどいいの?

「なんで……?」

「ん?」

「なんで俺なの…?晴人の事、好きな人他にもいっぱいいるじゃん。俺じゃなくても…」

晴人は俺がやっと喋った事に少し安心したのか、お腹に回した手を少し緩めてくれる。

「うーん、悠太が少し自己肯定力が低めなのはわかってたけど、俺のせいかも知れないから謝らなきゃな」

「な、なんで晴人が謝るの?」

「お前がぜんっぜんモテないと思ってるのは勘違いだ。俺がお前に近づく奴は全部潰してたっていうか…誰も近づけさせなかったからだし」

……え、何かちょっと怖い事言ってないか?晴人。

「は?それってどういう…」

「そのままの意味だよ。それより悠太は俺と、こうなった事をやっぱり後悔してるのか?」

ぶんぶんと顔を横に振って、ちゃんと話そうとごそごそと晴人の方に向き合う。

照明を落とした部屋で、狭いシングルベッドで男2人が向き合ってる姿はどうなんだろうと思いつつ晴人のシャツの裾を心細くて握る。

「…俺はもうずっと悠太だけが恋愛対象なんだよ。他はどうでもいい」

晴人の表情は眼鏡がないからよくわからないけど、優しい声が俺を安心させるように鼓膜に響いた。

「…って、なんで泣くの」

暗いのに晴人には俺が泣いてるのが見えるみたいで、焦った声が聞こえる。

言わなきゃ。ちゃんと言葉にしなきゃ何も伝わらないから。

「晴人、俺と一緒にいたら一生独身だよ?いいの?」

「…唐突だな。うん、そうなるけど」

「お、俺…子供産めないし」

「俺も産めないからおあいこだろ」

「外で手も、堂々と繋げないよ?変な目で見られるかも知れないよ?それに…っ、晴人の親にも、晴人の子供見せてあげられない…だから、だから俺じゃだめなんだって…ずっとどこかで思ってて」

「……そのネガティブな情報言いそうな人物に心当たりあるわ。誰かに吹き込まれたろ?」

少し怒ったような声でため息をつかれて、晴人の胸に引き寄せられて顔を埋められる。

「俺はお前がいいんだ。好きになったのがたまたま同性だっただけ。おかしい事だとも恥ずかしい事だとも一度も思った事はないよ」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃな俺の顔をベッドサイドのテッシュで拭いてくれて、晴人は笑いながら俺をまた抱きしめた。

「……う、止まんな…い、晴人、鼻水シャツについちゃう…」

「好きな人の鼻水だから別につけられてもいいって。思う存分つけろよ」

「俺は…っ、好きな人に鼻水なんて、つけたくない…」

「………今、なんて言った?」

声色が急に変わって、ちょっと焦ったように身体を離される。

「だから、えっと…信じないかも知れないけど、俺も晴人を、好き…って思う」

晴人は驚いたように固まって、しばらくその意味を考えてるのか変な沈黙が続いて。

その後嬉しそうに唇を重ねてきた。

「は、はると…?もう何もしないって…んん、いったろ…!!」

晴人は名残惜しそうに唇を離してくれて、正面から抱きしめながらああ、ごめんって笑って、嬉しそうに耳元で囁いた。

「…信じるよ。お前は俺に嘘つくのすごい下手くそだから」





晴人のぬくもりがあったかくてすごく幸せで、目を瞑ったら急に眠くなって、身体が疲れてるから意識が遠のくのがわかる。

すぐに眠ってしまった俺は、忘れてたずっと昔の夢を見た。

俺のファーストキス、ちゃんと晴人だった。

まだ晴人と結婚出来ると思ってた5歳の時、お泊まりした夜に。

『ゆうた、おれといつかけっこんしよ』

『けっこん?いいよ。じゃあはるとと、ずーーーっといっしょにいられるね』

2人で一緒のベッドに仲良く寝ながら、誰にも見つからないように布団の中でこっそり内緒でキスしたんだ。

晴人は、覚えてないかも知れないけど。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

オメガ王子はごろつきアルファに密やかに愛される

須宮りんこ
BL
 二十三歳のフォルカはルミナス王国の第三王子。十五歳の時「淫魔の呪い」として忌み嫌われるオメガと診断されてから王宮を追い出され、現在は隣国で暮らしている。  ある日、酒場で客に絡まれているとガイというアルファの男が助けてくれる。冗談か本気かわからないことばかり言う男の前でヒートになり、フォルカは男とセックスしてしまう。はじめは反発していたが、次第に優しいガイに惹かれていくが――。 ※この作品はエブリスタとムーンライトノベルズにも掲載しています。

俺の恋路を邪魔するなら死ね

ものくろぱんだ
BL
かつて両親は女神に抗い、自由を勝ち取った────。 生まれた時から、俺は異常だった。 両親に似ても似つかない色を持ち、母の『聖女』の力をそのまま受け継いで。 クソみてぇな世界の中で、家族だけが味方だった。 そんな幼少期を過して、大聖堂で神の子と崇められている現在。 姉から俺に明らかにおかしい『子育て』の依頼が舞い込んだ。 ・・・いくら姉の依頼だとしても、判断を誤ったと言わざるを得ない。 ──────お前俺の片割れだからって巫山戯んなよ!? ─────────────────────── 作者の別作品『お母様が私の恋路の邪魔をする』の番外編をこちらに持ってきました。 『お母様〜』の方を読んだ方がずっとわかりやすいです。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

処理中です...