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いくら仲良しでも適度な距離は必要です。

いくら長い付き合いでも知らなかった顔があります③

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明確に晴人を好きだって気付いたのは身体を重ね合わせてる最中だったなんて、どうにも言い出しづらい上に晴人が信じてくれるのか不安でしかなかった。

『ゆっくり俺の事を好きになって』って言う晴人の台詞は色んな意味に捉えられて混乱する。

晴人の事を今は好きじゃなくてもいいって意味?
今は返事はいらないって意味?

そして、晴人は俺が晴人を意識し始めたばかりで、晴人の事を今はそれほど好きではないって思ってるって事だ。

そもそも晴人は、いつだって俺が嫌がればやめるって何度も俺に選択権を与えてくれた。

晴人が俺を何故かものすごく大事に思っていてくれたのは繋がってみて泣けるほど伝わってきたのに、晴人にはどうやら俺の気持ちは少しも伝わってないみたい。

最後までしたがったのは俺の方なのに。

俺がだと思ってるんだ。

俺が言葉に詰まってると、ちょっと困ったようにまたさっきみたいに後ろから抱きしめてくれる。

「…そんな顔するなよ、もう今日はこれ以上何もしないから」

なんで俺なの?
なんで俺の事なんて好きなの?

俺の事可愛いとか言うのは真由香姉ちゃんくらいだし、誰にも好きになってもらった事もないのに。

他に晴人の事を想ってくれる人もたくさんいるのに、それに俺、そもそも男だけどいいの?

「なんで……?」

「ん?」

「なんで俺なの…?晴人の事、好きな人他にもいっぱいいるじゃん。俺じゃなくても…」

晴人は俺がやっと喋った事に少し安心したのか、お腹に回した手を少し緩めてくれる。

「うーん、悠太が少し自己肯定力が低めなのはわかってたけど、俺のせいかも知れないから謝らなきゃな」

「な、なんで晴人が謝るの?」

「お前がぜんっぜんモテないと思ってるのは勘違いだ。俺がお前に近づく奴は全部潰してたっていうか…誰も近づけさせなかったからだし」

……え、何かちょっと怖い事言ってないか?晴人。

「は?それってどういう…」

「そのままの意味だよ。それより悠太は俺と、こうなった事をやっぱり後悔してるのか?」

ぶんぶんと顔を横に振って、ちゃんと話そうとごそごそと晴人の方に向き合う。

照明を落とした部屋で、狭いシングルベッドで男2人が向き合ってる姿はどうなんだろうと思いつつ晴人のシャツの裾を心細くて握る。

「…俺はもうずっと悠太だけが恋愛対象なんだよ。他はどうでもいい」

晴人の表情は眼鏡がないからよくわからないけど、優しい声が俺を安心させるように鼓膜に響いた。

「…って、なんで泣くの」

暗いのに晴人には俺が泣いてるのが見えるみたいで、焦った声が聞こえる。

言わなきゃ。ちゃんと言葉にしなきゃ何も伝わらないから。

「晴人、俺と一緒にいたら一生独身だよ?いいの?」

「…唐突だな。うん、そうなるけど」

「お、俺…子供産めないし」

「俺も産めないからおあいこだろ」

「外で手も、堂々と繋げないよ?変な目で見られるかも知れないよ?それに…っ、晴人の親にも、晴人の子供見せてあげられない…だから、だから俺じゃだめなんだって…ずっとどこかで思ってて」

「……そのネガティブな情報言いそうな人物に心当たりあるわ。誰かに吹き込まれたろ?」

少し怒ったような声でため息をつかれて、晴人の胸に引き寄せられて顔を埋められる。

「俺はお前がいいんだ。好きになったのがたまたま同性だっただけ。おかしい事だとも恥ずかしい事だとも一度も思った事はないよ」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃな俺の顔をベッドサイドのテッシュで拭いてくれて、晴人は笑いながら俺をまた抱きしめた。

「……う、止まんな…い、晴人、鼻水シャツについちゃう…」

「好きな人の鼻水だから別につけられてもいいって。思う存分つけろよ」

「俺は…っ、好きな人に鼻水なんて、つけたくない…」

「………今、なんて言った?」

声色が急に変わって、ちょっと焦ったように身体を離される。

「だから、えっと…信じないかも知れないけど、俺も晴人を、好き…って思う」

晴人は驚いたように固まって、しばらくその意味を考えてるのか変な沈黙が続いて。

その後嬉しそうに唇を重ねてきた。

「は、はると…?もう何もしないって…んん、いったろ…!!」

晴人は名残惜しそうに唇を離してくれて、正面から抱きしめながらああ、ごめんって笑って、嬉しそうに耳元で囁いた。

「…信じるよ。お前は俺に嘘つくのすごい下手くそだから」





晴人のぬくもりがあったかくてすごく幸せで、目を瞑ったら急に眠くなって、身体が疲れてるから意識が遠のくのがわかる。

すぐに眠ってしまった俺は、忘れてたずっと昔の夢を見た。

俺のファーストキス、ちゃんと晴人だった。

まだ晴人と結婚出来ると思ってた5歳の時、お泊まりした夜に。

『ゆうた、おれといつかけっこんしよ』

『けっこん?いいよ。じゃあはるとと、ずーーーっといっしょにいられるね』

2人で一緒のベッドに仲良く寝ながら、誰にも見つからないように布団の中でこっそり内緒でキスしたんだ。

晴人は、覚えてないかも知れないけど。






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