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 救護室で足の手当をしてもらった。咄嗟に着いた嘘は現実だっらしい。靴擦れを起こしていた。
「珍しいことがあるねぇ」
 救護担当のおばさんが呟いた。
「え?」
「いや、ルーク王子が使用人を心配してここまでわざわざ運んでくるだなんて珍しいこともあるもんだと思ってさ。ラッキーだったね、あんた」
 おばさんはニヤリと笑った。
「ところであんた見ない顔だね。私、この城に仕えている使用人の顔はだいたい覚えているんだけど…名前教えてくれるかい?お嬢さん」
「はい、リリー・ホワイトです」
「まあ!あんた、『子豚ちゃん』なのかい?!」
「『子豚ちゃん』…?」
「おっと、すまないねぇ。あんた、使用人の間でそう呼ばれてたんだよ。それが癖になっちゃってねぇ。悪気はないんだよ」
 驚愕の事実を知ってちょっと動揺した。なんつーあだ名をつけられてるんだよ。
「そうだったんですか…あははは…」
「でも、あんたすごい変わりようだね!どこからか迷い込んだプリンセスかと思ったよ!冗談抜きで!」
「はあ、そうですか…」
 ダイエットは成功したようだ。プリンセスだって!!私!!プリンセス!!パパママ見てるー??
「それにしてもあんたが履いてる靴も私が履いてる靴も動きづらいったらありゃしないね。ヒールがついててオシャレだけど作業をするのには向いてないよ」
「あー、私同じことをルーク王子に言ったんですよ。作業着が実用的じゃないって」
「えー!?ルーク王子に意見を言うだなんてあんた大した度胸をしてるね!!びっくりだよ!」
「えっ、だって使用人の労働環境を改善するために意見を聞いてるって言ってたし」
「そんな話初耳だよ!」
「えっ?えっ?えっ?」
 じゃああれは嘘だったってこと?どういうこと?
「怪我人を安心させるためのジョークだったのかもしれないね、よし!リリー、歩けるかい?」
「はい!おかげさまで!ありがとうございました!」
 私は救護室を出て仕事を再開した。
 ここで私は大きな過ちをしたと思う。私はあくまでも主人公のヘルプをする存在であってメインキャラクターとの接触を極力しないようにしなければいけない。しかしガッツリ今さっき接触してしまった。まだ主人公がやってくるまで期間があるし、ストーリーに大幅に影響は与えないと思うが…。

「仕事をサボってどこに行っていたのかしら?」
仕事場に戻るとそうそう詰められた。
「ゴミを処理場へ運んだだけですけど…?」
「ここから処理上までそんなに時間がかからないはずよ?ホントのことを言いなさい!」
「靴擦れを起こして、その…ルーク王子に救護室まで運ばれまして…それで…手当を…」
「はぁー!?!?」
 一同驚愕である。
「あなた、自分が何したかわかってるの!?ルーク王子って…!」
「ありえないわ!冷酷なルーク王子がわざわざ怪我人を救護室まで運ぶだなんておかしい!」
「何かずるしたんじゃないでしょうね!?」
「まさか!私は何もしてません!ほんとです!」
「…まあいいわ、偶然ってことよ。みんな仕事に戻ってちょうだい」
 険悪なムードが漂う中仕事を行った。
 昼休憩になると私はその空気に耐えられなくて人通りの少ない庭園へ逃げた。
 手当された足はどこかぎこちな昼休憩は着かない。庭園の空気は城内と違って洗練されている。居心地が良い。本館の雑用係の休憩時間は長いため、少し昼寝をすることにした。

 「んーっ、よく寝たー!」
気持ちの良い起床。絶好のお昼寝日和だった。
「そこにいたのか」
「えっ!?」
目の前にはルーク王子がいた。
「王子!どうしてここに!?」
「散歩」
「あー、散歩ですか…。さ、先程はお世話になりました!本当にありがとうございます!」
「気にするな。ところで、足は大丈夫か?」
「はい、お陰様で。大した怪我じゃなかったらしくて…すぐに治ります」
 ルーク王子は私の座っている横に腰を下ろした。
「そうか、それは良かった。ああ、作業着のことなんだが、父上に提案したところすぐに対応してくれるそうだ」
「本当ですか!良かったー!」
 「……ところで君、ここに仕えて何年になる?」
「えーっと…5年ですかね」
「5年?おかしいな、5年の間、君を見たことは無いぞ?」
「あー...。私半年前まですっごく太っててオマケに別館で働いていたものですから、王子がそうなってしまうのも無理は無いです。私、『子豚ちゃん』ってみんなから言われていたのですが…」
「リリー…だったか?君の名前は…」
「よくご存知で」
「そうだ、君は使用人の間にとどまらず我々にも『子豚ちゃん』というあだ名で知れ渡っていたぞ」
「わー、すごーい(棒)」
「しかし今の君は…そうだな…『白鳥』のようだ」
「王子…口説いてます?」
「まさか、ホントのことを言ったまでだ。それに僕は女性を口説くような趣味はない、兄上のようにな」
 ルーク王子の兄にあたるオスカー王子は女たらしとして有名だ。ゲーム内でも主人公をしょっちゅう口説いていたのを思い出した。
「さて、僕はもう行くとするよ。足、お大事に」
「は、はぁ…」
 不思議な一日だった。これは異常だ。このままでは面倒事に巻き込まれてしまう。平穏に、そう、平穏にかつ充実した人生を送るという目標を忘れては行けない!
 午後の仕事も終わり自由時間、私は興味本位で本館を探索していた。探索と言っても王族の方たちの部屋付近ではなく、雑用係が生活する寮周辺である。
「長年別館にいたから気づかなかったけどほんとにここは綺麗に整備されてるなー。毎日清掃しなくてもいいくらい…」
「そうかい?ここは整備されすぎて僕には窮屈に見えるが」
「ひっ!?オスカー王子…!?」
「こんばんは、『子豚ちゃん』」
「…よくわかりましたね。オスカー王子が初ですよ私が誰だか当てれたの」
「そりゃ光栄だな。実は元から君のことは知っていたんだ。もうひとつの別館へ行く時によく見かけていてね。日に日に美しくなってるもんだからびっくりしたよ」
「そうだったんですか」
「弟が世話になったね。しかし僕もびっくりしたよ。あの冷酷野郎が人助けをするだなんてね」
「はい、作業着を改善してくれると仰っていましたどうもこれは動きづらくて」
「それは良かった」
 オスカー王子の瞳が月明かりを浴びて光る。女たらしのオスカー王子は、疲れるほどテンションがいつも高いと小耳に挟んでいたが今日はそういう気分では無いのだろうか。
 少し雑談をした後、オスカー王子は別館へ向かった。

「ねぇ、リリー。あなたもうすぐこの作業着が新しいデザインになるって噂知ってるかしら?」
早朝の仕事中雑用係チームのボスであり、私を散々いじってくるメリーが言ってきた。
「どんな素敵なものになるのかしら!これ以上素敵なものになると私達も使用人じゃなくて、どこかのご令嬢に見間違われちゃうわよ!」
 ああ、この人たち何も知らないのか…作業着が素敵になるのではなく、地味になるってのを。
「メリーさん、残念ですけど新しい作業着は実用性を重視してあります。きっと今のよりも地味になっていると思いますよ」
「まあ!夢のないことを言うわねー」
「いや、ホントのことですし…」
「でも実際に見ないと分からないでしょ!」
「た、確かに」
 ルーク王子は動きやすいように改善してくれるって仰っていたけれどホントのところは分からない。もしかすると私の意見を全く採り入れてないことだってありうる。

 国王様やお妃様、5人の王子様は必ず8時には食堂に集まり朝食を食べる。雑用係の仕事は食べ終わって、下げられた食器を洗うこと。よっぽどの限りのことがない限りこういった時には雑用係は彼らとの接触は制限されている。日によるが食べ残しがあった場合、手をつけていないものは我々の昼食の一部として回される。自我が戻る(前世の記憶が戻ってきた時)前までは、それにいち早くがっついていた私だが、もう元には戻りたくないし、せっかく本館勤務になったのだから控えめにいただく。
 皿洗いが終わると、城内の掃除に再度取り掛かる。箒を持って私は空き部屋の掃除をしに向かった。
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