いとしの生徒会長さま

もりひろ

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挑発

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 次の日の朝、目が覚めると一番に見えたのは、維新の寝顔だった。

「うわあっ」

 思わず、寝ていた布団から勢いよく抜け出た。
 維新はまだ眠っている。
 その寝顔を眺めながら、俺は、農業部の寮に一緒に泊まったことを思い出した。
 同じ布団で寝ることになったいきさつも思い出して、慌てて近くに放ってあった携帯電話を取った。
 まだ六時前だ。
 きょうも普通に授業がある。
 鴨居に吊しておいた制服を取り、俺は素早く着替えた。借りたパジャマと、自分のほうの布団をたたみ、静かに部屋を出る。
 維新を起こそうかと思ったけど、気持ちよさそうに寝ていたから、なんだか忍びなかった。そのうち、ジョーさんたちも起きてきて、維新に声をかけてくれるだろう。
 洗面所へ寄って、俺は寮を出た。
 早朝のすがすがしい空気を久しぶりに吸い込む。明るさがもうちょっとの気もした。
 維新が持ってきてくれた自転車を探して辺りを見回す。前庭を挟んだ向こうに農具をしまっておく小屋があって、その入り口のそばにチャリは停まっていた。
 よし、と足を出そうとして、俺は動きを止めた。
 ミケの小屋の前にだれかがしゃがんでいる。
 じっと中を覗いていた。
 その背中には見覚えがあって、俺は記憶を探りながら近づいてみた。
 制服ではなく、その人は紺のジャージを着ている。やがて、俺の気配に気づいたのか、パッと振り返った。
 光洋さん──。

「いや、マキさん……ですよね?」

 しゃがんだままの格好で俺を見上げたその人は、バツの悪そうな顔をした。しかし、すぐに立ち上がり、坂のほうへと歩いていく。
 とにかく俺は引き止めたくて、いろいろ言いたいこともあって、その人を追いかけた。

「マキさん!」
「まーちゃん?」

 坂のほうから、いつものツナギ姿の奥芝さんがミケを連れて歩いてきた。

「シゲ……」

 やっぱりマキさんらしい。
 そのマキさんは、奥芝さんを見つけるや、ぴたっと足を止めた。
 堅い表情で対峙している二人。
 マキさんは拳を握りしめ、先にこの場を離れようとしたけれど、奥芝さんに腕を掴まれ、動きを封じられた。
 その力が強かったのか、マキさんは顔を歪めている。

「放せよ」
「いやだ。先輩に話があって来たんでしょ?」
「なにもない」
「……」
「お前も光洋も……みんな大嫌いだ!」

 マキさんの大声は、奥芝さんの手を緩めるには十分だった。
 がっくりと肩を落とし、奥芝さんはただ立ち尽くしている。その姿を睨み付け、マキさんは坂を駆け下りていった。
 なるほど。想像以上にガンコだ。
 いまのマキさんは、前にゴルフ部で会ったときとは印象が違って、まるでだだっ子みたいだった。
 これをどうにかするには、かなりのチカラがいる。
 もっと肩を落とした奥芝さんが、俺の前を横切って、とぼとぼと寮の中へ消えた。
 しばらく呆然としていたけれど、登校する前に寄るべきところがあるのを思い出して、急いで自転車に跨った。




「一体、どういう風の吹き回しだ?」

 風見館の応接室のドアを開けるなり、そう言った黒澤の目に、きょうは眼鏡はなかった。ソファーの俺を見下ろし、食事の途中だったと、あからさまに顔をしかめた。
 アポなしで来たことを、とりあえず謝罪して、俺はソファーから腰を上げた。こっちだって、朝飯抜きでやってきたんだ。さらに言うならば、生徒会のせいで、きのうはひどい目に遭った。

「それで? 話というのはなんだ?」

 黒澤は、制服じゃなく、デニムのポケットに手を突っ込んで、ソファーに腰かけた。

「もしかして、会長の件を承諾する気になったのか?」
「まあ……。ほんとはイヤだけど、あんたが困ってるみたいだしさ。それに、俺にはあのマキさんを説得できそうもないし」
「……」

 黒澤は険しい顔をして、急に押し黙った。
 喜ぶとまではいかなくても、あの嫌みな感じで、なにか言ってくれると思っていたから、俺は拍子抜けした。

「だんまりかよ」
「せっかくだが──」

 声の調子も表情も変えず、黒澤は俺を見やると、窓のほうへ移動した。

「ジョーさんから聞いたと思うが、お前を会長にしたいというのは、あくまでマキを揺さぶるためのものだ。鉄扉のようなあいつの意地をなんとかこじ開け、光洋と……。奥芝が危惧した通り、それはますます硬いものとなってしまったが」
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