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プロローグ
*
しおりを挟む「卓!」
信じがたい声が背後から飛んできた。思わず振り返った俺の目に、きょうばかりはものすごく歪んでいる表情が入る。
でも、それも仕方ない。俺が悪いんだから。友だちなら告げるべきことをずっと黙っていて、嘘をついてここに立っているんだから。
父親の仕事の都合で、住み慣れた日本を離れ、アメリカへと発たなければならなくなった、中二の夏。
湿っぽいお別れ会とかされたら、ようやく前向きに考えられるようになった頭を持っていかれそうで、だれにもそのことは話さなかった。
なのに、どうしてあいつは──。
出発ロビーへと続く国際線ターミナルの通路。両親とともに自動ドアをくぐり、カウンターへ向かおうとしていた俺の前にあいつは姿を現した。
「なんで。なんで黙ってたんだよ……」
俺はなにも返せなかった。ただ俯くしかなかった。
絞り出すようなあいつの声が胸に突き刺さる。
さらになにも言えなくなった俺の二の腕を、あいつは力任せに掴んで、自分のほうへと引き寄せた。
強く抱きしめられる。
「アメリカって──」
あいつの声は震えていた。
それに突き上げられるようにして、俺の腹の奥から、ずっと押し殺していた感情が溢れ出る。
「ごめん。ほんと、ごめん」
また強く抱きしめられる。身を絞られ、たまらず涙がこぼれた。
「ごめん……っ」
「待ってるから。いつかまた会えるときまで、俺はずっと待ってるから」
「維新──」
そっと俺の体は離された。
汗の筋がいくつも光る首元からあいつはペンダントを外すと、俺の手のひらに乗せた。
「それまでの餞別」
絶対に返しに来いよ。
──青い空へ飛び立つ飛行機の中、あいつの最後の言葉を幾度となく繰り返す。
『なせばなる、なさねばならぬ、なにごとも』
大好きなその口グセもかみしめ、新たな生活の場へと俺は足を踏み入れることになった──。
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