いとしの生徒会長さま 2

もりひろ

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カーテンコール

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 立つ鳥跡を濁さずって言葉を知らねえのかよ。大和の授業で、いままでなにを習ってきたんだよ。
 そこでどんなに悔しいことがあったとしても、去る人間は、留まる人のことを考えて、ああだこうだ残さないのが男子たるものってやつだろ。マキさんが気に入らないなら、ここの生徒らしくタイマン勝負でもすればいい。
 相手にしてもらえないとでも思ったんだろうか。だからああいう暴挙に出たんだとしても、やることが極端すぎる。
 維新は冴えない顔になっている。
 そりゃ、そうだ。数カ月とはいえ、同じ屋根の下で暮らしていた人があんな裏切りをかましたんだ。
 あともう一つ。できれば蒸し返したくないんだけれど、津田さんに触れたのなら、あの人のこともはっきりさせないと、このもやもやは完全に晴れない。

「維新、あのさ」
「ん?」
「柳さんのことなんだけどさ。……結局はあの人も加担してたんだよな」
「……ああ。みたいだな」

 維新は切歯して言った。
 俺が思っていた通り、ぜんぜんか弱くなかったんだ、あの人。どこか儚げに見えたらしい外面に騙された維新は相当ヘコんでいる。
 目的が目的だし。えげつないとしか言いようがない。

「生徒会のくせにね」
「市川会長に相手にされなかったのが悔しかったらしい」
「相手……って、なんの」

 俺が訊くと、維新は鼻で笑った。

「チェスだと」
「……は、はああ?」

 ちぇ、ちぇすぅ?
 開いた口が塞がらない。……てか、チェスってなんだっけ。
 そんな疑問はさておき、維新が続ける。

「些細な理由で起こしたことが警察まで動く大事になったから、本人は相当反省しているらしいが」

 猛省しているからって、このまま穏便にことが済むと思ったら大間違いだ。
 次に会ったときが百年目! はっきり言ってやる。
 維新は俺のもんだ。人のもんに手ぇ出すんじゃねえ!
 そう拳を震わせていたら、俺を抑え込むように維新が手を重ねてきた。

「気持ちはわかるけど、風見館へ殴り込むのだけはやめてくれよ」
「べつに。……殴りはしねえし」

 蹴りは入れるかもだけど。

「それと、市川会長がお前を心配していた。自分が医者にかかったことを気にしすぎてんじゃないかと」
「そりゃあ、気にかけるに決まってんじゃん」
「充分に足りてる──」
「え?」
「そう念押しを頼む、とも言われた」

 俺は拳を開いた。

「心配する人間は充分に足りてる。これ以上増えたら、僕は自己嫌悪に陥る──」

 風見館の会議室で、マキさんから言われたことを思い出した。
 きのうの件に関してだけ言えば、マキさんたちのせいじゃない。
 けど、津田さんや柳さんのことには非があった。それを感じていたから、きのうのマキさんはあそこまで申し訳なさそうにしていたんだ。
 でもさ。あんな姿見ちゃったら、こっちも心配もするよ。
 人はさまざま。欠点もさまざまだ。
 だから仲間でそれを補う。知恵を出す。話し合い、ときに切磋琢磨する。
 大切な人ができれば、やたら不安になったり、変に考えてしまったりもする。それでぎごちない感じになっても、その都度わずかでも触れ合えれば、きっと想いは通じ合う。
 そう思えるから、俺は気づかないとこでいつも気遣うよ。……マキさんのこと。そして、みんなのことを。

「柳さんも退学かな」
「市川会長が言うには、処分保留にして向こうの出方を見るって」
「……」
「生徒会での実績もあるからってことらしい。それに、あの人を推薦したのは黒澤さんだからとも言っていた」
「黒澤サンに免じて猶予を与えるってことか。……黒澤サンってさ、柳さんがあいつらに手を貸してたこと、ほんとに知らなかったのかな」

 維新が怪訝そうにしている。
 そういえば、風見館の黒澤の部屋で、主ではない人影を見たことを維新には言ってなかったと気づいた。
 黒澤なら、それがだれだったのか絶対に調べると思うんだ。なぜそこにいたのかも、自ずと知りたくなるはずだ。
 俺が話し終えると、維新が唸った。黒澤さんを庇うわけじゃないけどと、前置きをする。

「薄々なにかを知ったとして、よくないことを企んでいるのかもしれないけど、自分が推薦したやつだから信じたい気持ちもある。それが、卓にきのう言っていた、黒澤さんの過信なんじゃないかな」

 ……なら、いまこの時間も、あの人なりに落ち込んでいたりするのだろうか。このあいだみたいな試合に負けたボクサーよろしく。
 この際、あの人にはちょっとくらい反省してもらったほうがいいんだけど、なんか気持ち悪いんだよな。こっちが気を緩めていると変につけ込まれそうだし。
 それに、俺たちの生徒会なんだ。やっぱり、なにがあっても毅然としててほしい。

「卓」
「……ん? なに」
「報告会はこのくらいにして、二人の時間にしないか」

 とっさに体を引いたけど、素早く背中へ手を回され、もっと近くに来いと押された。
 維新の指が、パジャマの襟元にかかる。
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