いとしの生徒会長さま 2

もりひろ

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風雲急を告げる

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 まるでゾンビだと思った。
 風見館に群がる女子たちが塀のところできゃあきゃあ言いながら二階を仰いでいる。
 前に怖いもの見たさで観たゾンビ映画にあんなシーンがあった。
 ていうか、あの子たちのお目当てはだれなんだろう。
 黒澤?
 だとしたら趣味が悪すぎる。……いや、あの子たちは見た目のよさでしかきゃあきゃあ言ってないから、ある意味正しいのか。
 校門から通りへ出て、いつもの十倍はある人通りの合間から、風見館の盛況ぶりを眺めた。
 あれじゃあ、外にも出れないな。あの人たち。
 俺は肩をすくめ、気の毒に思いながら家路へ急いだ。
 きょうは朝から、風見原の門がすべて開放され、男しかほとんど通ることのない道に老若男女が行き交っている。
 風見祭は、地元の祭り並みに賑わっていた。
 俺は家へ帰ると、軽く昼ご飯を食べ、和室の座卓の前で維新を待った。
 しかし、待てど暮らせど玄関は静かなまま。座卓の上の携帯もおねんねしてる。
 そこへ、藍おばさんが和室に顔を出した。

「あらあら。ずいぶん怖い顔してるのねえ」
「うむぅ」
「むー? ……あ、なんだ。たっくんも読みたかったの。いまお父さんのところにあるから、あとで借りたら?」
「俺は『ムー』なんて言ってねーし。あの本に興味もねーし」

 宇宙人だの、チュパカブラだの。俺は、さっきのゾンビで充分。

「あら、そう。残念ねえ。面白いのに」

 藍おばさんが俺の向かいに腰を下ろす。古い壁時計を見上げ、ぽんと手を打った。

「十二時に出かけるって言ってたわね。たしか」
「そう」
「このあいだの彼と約束してるんだっけ」
「……」
「大丈夫よ、たっくん。まだ十分しか過ぎてないじゃない。フラれたわけじゃないわよ」

 藍おばさんがなぜかにやにやしている。

「うん。俺もフラれたとは思ってない。てかね、前もさんざん言ったけど、維新とはなにもないの。このあいだのも、劇のやつからの単なるおフザケなんだから」

 はいはいと軽く流し、おばさんは腰を上げた。
 ……ぜんぜんわかってねえ。
 けど、これ以上ああだこうだ言っても墓穴を掘るだけになる。
 短くため息をつき、俺は携帯を取った。
 それにしたって、維新てば、遅ぇ。
 ただ、さっき様子見に行ったとき、グラウンドはものすごい人出だったから、なかなか抜けられないのかもしれない。
 と、そのとき、手の中の携帯が鳴った。メールを開けば、「いまそっちに向かってる」とあった。
 お疲れー、と返信して、俺は玄関へ向かう。
 しばらくしてから戸が開いて、飛び込むようにして維新が姿を現した。全速力できてくれたのか、肩が上下している。
 俺はサンダルをつっかけ、ぜいぜいいっている維新を見上げた。
 玄関のすぐそばで女の子の話し声がした。

「もしかして追っかけられた?」

 呼吸を整えながら維新は頷いた。
 維新が振りきれないって、どんだけなんだよ。きょう日の女子たちは。

「リアルバイオかよ」

 俺は苦笑して言ったけど、維新は無反応だった。
 風見館で見た女の子たちがゾンビみたいだったって言っても、目をハテナにするだけだから、よくよく聞いてみれば、維新は「バイオ」を知らなかった。

「ホラーゲームだよ。テレビでも映画やってんじゃん」

 維新を家に上げ、台所で水を飲ませた。

「テレビはほとんど観ないからな」

 たしかに、むかしからテレビの話題はあまり出たことがなかった。
 維新の興味は大自然にある。気象だったり、風景だったり、岩の形だったり。虫……は勘弁してほしいけど、生き物も好きなんだよな。
 つーか、藍おばさんに比べたら、俺もテレビは観ないほうだと思う。

「じゃあ、夜なにしてんの」
「寮のジムで汗流してるか、勉強してるか」
「けど、毎日じゃないだろ」
「いや、ほぼ」
「まじか」
「普通だろ」

 普通……なのか?
 風見原では……そうなのか?
 俺が特殊な存在で、夕食のあとにお菓子を食べながらごろごろなんて、普通しないのか。
 維新が空のコップを置き、一息ついた。

「で、これからどうする」
「維新は? 疲れてねえの?」
「俺は大丈夫。お前が行きたいところはどこでもつき合うよ」
「うーん……」

 いろいろと見て回りたかったけど、予想以上の人出でゆっくりもできなさそう。
 ……家でまったりしていたい。とか言ったら、維新はがっかりするかな。
 どっと疲れそうなこと、夕方にやるし。

「ま、とりあえずちょっと休みません?」
「……ああ」
「俺の部屋でいいよな」
「初めてだな」

 並んで廊下を歩く。
 俺がドアを開けると、維新はまず部屋の広さに驚いていた。
 たしかに、維新の寮の部屋よりはデカいと思う。
 デスク周りを見たり本棚を眺めたりして、維新は最終的にベッドへ腰を下ろした。
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