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嵐の前の静けさ
五
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「ほんと仲いいんだね。微笑ましいっていうのかな」
改めて言われるとなんだか照れてしまう。
メイジも不必要に手を振っている。
「維新と卓はたしかに仲いい。けど、俺からしたら、こいつはマスコット的な感じだから」
「マスコット?」
俺とつつみんは同時に言った。俺は非難を込めて、つつみんは笑いを含んで。
それなのに、メイジは調子に乗って言う。
「おう。アリアの次は黄色のやつ着てな」
「俺はゆるキャラかよ」
つつみんがまたくすくす笑った。
そこにマイクテストの声が重なる。特設ステージへ目をやれば、さっきまで人のいなかった回答席に参加者たちが揃っていた。
クイズ大会が始まった。
ステージの向かって左側に黒澤とマキさんの席があって、右側に挑戦者五人の席がある。
司会兼出題役の生徒が、大会の始まりの声と第一問を出す。
「江戸時代、いまで言うリサイクルショップとして店を出し、現代でもその名が残っている──」
早押しの機械は、まずマキさんに軍配を上げた。いとも簡単に正解が出る。
クイズ大会ってどんな問題が出るのかと思っていたら、オタクなほどにオタクな内容だった。それだから、ギャラリーとのあいだに明らかな温度差ができる。
俺もそれなりにおベンキョできるし、なにか答えられるかなと踏んでいたけど、ちんぷんかんぷんだった。
前評判通り、会長と副会長の一騎打ちになると、それはそれで周りは盛り上がっていた。
最初こそお遊び感覚で余裕綽々だった黒澤とマキさんも、外野の声が作用したのか、だんだんと熱くなっていた。
気象や天文などの難しい問題から、芸能、娯楽分野からも出題される。
そんなコアな問題までどうして答えられるんだと思いながら、なかなか見れない対決に雄叫びを上げているやつとかもいた。
気がつけば黒山の人だかり。俺は身動きもできないくらい、ガタイのよすぎるギャラリーに囲まれていた。
後ろから押されると前の人の背中にくっつかざるを得なくなる。背が低いのは損しかないといつも思っているけど、それをさらに思い知らされた。男臭い波に揉まれ遭難寸前で、黒澤とマキさんの姿も見えなくなっていた。
メイジはステージに釘づけになっている。後ろからの圧力なんてものともせず前を見続けている。
つーか、あいつの周りだけ、シールドでも張られてんのかよ!
「ちょ、メイジっ」
助けを求めようとしたそのとき、一際大きな波が押し寄せてきた。それに弾かれるようにして、俺は黒山の人だかりから外された。
中庭の芝生に転がる。
「くそっ」
と睨んでみたけど、あそこへ戻る勇気はない。メイジの姿も見えないし。
俺は立ち上がり、仕方なく学食のほうへ向かった。
大食い大会は、中庭に盛り上がりを盗られてしまったみたいにさびれていた。出場者の応援らしき生徒しか観戦していない。
俺が中に入ったとき、ジョーさんと奥芝さんがハイタッチしていたから、どっちかが勝ったみたいだ。
テーブルに伏す人もいる。
ジョーさんに見つかったらまた面倒くさいことになりそうで、俺は早々に学食をあとにした。中庭へは戻らず、第一体育館へ通ずるほうの出入口から出て、樹海の名残の木々のそばを歩いた。
そこへ携帯が鳴った。メイジからの着信だった。
耳にあてがった瞬間、切羽詰まったような声が飛び込んできた。
「卓、いまどこにいる?」
「第一体育館のそば。ごめん。なんか人がすごくなって」
「いや、俺のほうこそ悪い。いまからそっち行く」
「あ、メイジ」
通話を切ろうとするから、俺は慌てて、グラウンドであしたの準備をしている維新の様子を見に行くことを伝えた。
「つつみんは?」
「一緒にいる。すげえ心配してたぜ」
「そっか。つつみんにも謝っといて」
「おー。つか、二人でそっち行くから」
「ああ、待って待って」
「なんだよ」
「マキさんたちはどうなったかなと思って」
「それがさ、問題が切れちまって」
「え?」
「用意してた問題がなくなったから結局はドローでお開き。いま片づけしてる。あ、ちょい待ち」
メイジの声が遠くなった。つつみんとなにか話しているみたいだ。
メイジは通話口へ戻ってくると、他の部巡りをしようとつつみんと話していたと言った。
「それ、つつみんと二人で行って。俺、維新と話できたら、そのまま家に帰るから」
「……一緒に行かねえのか」
「うん。ごめん」
「よしよし。わかった。気をつけてな?」
「大丈夫だって。じゃあね」
俺は携帯を畳むと、第一体育館のとなりのグラウンドへ、小走りで向かった。
グラウンドは灯光器の明かりに包まれて、体育で使うときとはまた違った雰囲気になっていた。
人工芝のフィールドには、いくつかのブースが設置されてある。
改めて言われるとなんだか照れてしまう。
メイジも不必要に手を振っている。
「維新と卓はたしかに仲いい。けど、俺からしたら、こいつはマスコット的な感じだから」
「マスコット?」
俺とつつみんは同時に言った。俺は非難を込めて、つつみんは笑いを含んで。
それなのに、メイジは調子に乗って言う。
「おう。アリアの次は黄色のやつ着てな」
「俺はゆるキャラかよ」
つつみんがまたくすくす笑った。
そこにマイクテストの声が重なる。特設ステージへ目をやれば、さっきまで人のいなかった回答席に参加者たちが揃っていた。
クイズ大会が始まった。
ステージの向かって左側に黒澤とマキさんの席があって、右側に挑戦者五人の席がある。
司会兼出題役の生徒が、大会の始まりの声と第一問を出す。
「江戸時代、いまで言うリサイクルショップとして店を出し、現代でもその名が残っている──」
早押しの機械は、まずマキさんに軍配を上げた。いとも簡単に正解が出る。
クイズ大会ってどんな問題が出るのかと思っていたら、オタクなほどにオタクな内容だった。それだから、ギャラリーとのあいだに明らかな温度差ができる。
俺もそれなりにおベンキョできるし、なにか答えられるかなと踏んでいたけど、ちんぷんかんぷんだった。
前評判通り、会長と副会長の一騎打ちになると、それはそれで周りは盛り上がっていた。
最初こそお遊び感覚で余裕綽々だった黒澤とマキさんも、外野の声が作用したのか、だんだんと熱くなっていた。
気象や天文などの難しい問題から、芸能、娯楽分野からも出題される。
そんなコアな問題までどうして答えられるんだと思いながら、なかなか見れない対決に雄叫びを上げているやつとかもいた。
気がつけば黒山の人だかり。俺は身動きもできないくらい、ガタイのよすぎるギャラリーに囲まれていた。
後ろから押されると前の人の背中にくっつかざるを得なくなる。背が低いのは損しかないといつも思っているけど、それをさらに思い知らされた。男臭い波に揉まれ遭難寸前で、黒澤とマキさんの姿も見えなくなっていた。
メイジはステージに釘づけになっている。後ろからの圧力なんてものともせず前を見続けている。
つーか、あいつの周りだけ、シールドでも張られてんのかよ!
「ちょ、メイジっ」
助けを求めようとしたそのとき、一際大きな波が押し寄せてきた。それに弾かれるようにして、俺は黒山の人だかりから外された。
中庭の芝生に転がる。
「くそっ」
と睨んでみたけど、あそこへ戻る勇気はない。メイジの姿も見えないし。
俺は立ち上がり、仕方なく学食のほうへ向かった。
大食い大会は、中庭に盛り上がりを盗られてしまったみたいにさびれていた。出場者の応援らしき生徒しか観戦していない。
俺が中に入ったとき、ジョーさんと奥芝さんがハイタッチしていたから、どっちかが勝ったみたいだ。
テーブルに伏す人もいる。
ジョーさんに見つかったらまた面倒くさいことになりそうで、俺は早々に学食をあとにした。中庭へは戻らず、第一体育館へ通ずるほうの出入口から出て、樹海の名残の木々のそばを歩いた。
そこへ携帯が鳴った。メイジからの着信だった。
耳にあてがった瞬間、切羽詰まったような声が飛び込んできた。
「卓、いまどこにいる?」
「第一体育館のそば。ごめん。なんか人がすごくなって」
「いや、俺のほうこそ悪い。いまからそっち行く」
「あ、メイジ」
通話を切ろうとするから、俺は慌てて、グラウンドであしたの準備をしている維新の様子を見に行くことを伝えた。
「つつみんは?」
「一緒にいる。すげえ心配してたぜ」
「そっか。つつみんにも謝っといて」
「おー。つか、二人でそっち行くから」
「ああ、待って待って」
「なんだよ」
「マキさんたちはどうなったかなと思って」
「それがさ、問題が切れちまって」
「え?」
「用意してた問題がなくなったから結局はドローでお開き。いま片づけしてる。あ、ちょい待ち」
メイジの声が遠くなった。つつみんとなにか話しているみたいだ。
メイジは通話口へ戻ってくると、他の部巡りをしようとつつみんと話していたと言った。
「それ、つつみんと二人で行って。俺、維新と話できたら、そのまま家に帰るから」
「……一緒に行かねえのか」
「うん。ごめん」
「よしよし。わかった。気をつけてな?」
「大丈夫だって。じゃあね」
俺は携帯を畳むと、第一体育館のとなりのグラウンドへ、小走りで向かった。
グラウンドは灯光器の明かりに包まれて、体育で使うときとはまた違った雰囲気になっていた。
人工芝のフィールドには、いくつかのブースが設置されてある。
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