いとしの生徒会長さま 2

もりひろ

文字の大きさ
上 下
60 / 77
嵐の前の静けさ

しおりを挟む


 敷地内の至るところで灯光器が焚かれ、前夜祭は始まろうとしていた。
 それなのに芋煮の準備が終わりそうもないってことで、俺とメイジは維新抜きで会場へ向かった。
 学食では、大食い大会で使われる焼き芋が山のように積まれてあった。
 そう、この大食い、なにでやるのかと思っていたら、焼き芋なんだ。
 あんなもさもさしたやつをだよ。
 のどにつまらせたりしたら最悪、あの世行きだっていうのに。
 一筋縄ではいかないからレースとしての醍醐味ってのがあるのかもしれないけど、そのチョイスは絶対おかしいと思う。
 そう考えると、維新のときは、むしろ親切だったのかもしれないと、ちょっと思ってしまった。
 学食と中庭の一角には、お祭りらしく、軽くつまめるオードブル料理がたくさん並んでいた。
 飲み物のサーバーもある。
 運動部しかないから、飢えた野獣どもがそこに群がるんじゃないかと心配になったけど、いまのところ人はまばら。やってくる数もぱらぱら。
 維新のように仕事をかけ持ちしている人は、前夜祭を楽しむどころじゃないだろうし、上級生にもなれば仕切りがある。一年生は一年生で仕事を押しつけられるで、それぞれ余裕がないのかもしれない。
 それでも、会場のセッテイングが整うにつれて、人も増えてきた。
 大食堂では、それこそ野獣たちが熱気ムンムンで勝負のときを待っている。
 はたしてジョーさんと奥芝さんは、あのガチムチ先輩たちに勝てるのだろうか。
 俺とメイジは、そのぎらぎらした雰囲気を感じ取り、顔を見合わせてから同時に肩をすくめた。
 ……見学するんだったら、やっぱクイズ大会のほうがマシか。
 とくに言葉はなくとも、俺とメイジの足は自然と中庭へと向いていた。
 外へ出たところで、後ろから声がかかった。
 振り返ると、徐々に集まり出した人のあいだを縫うようにしてつつみんがやってきた。
 朝のパーカ姿よりちょっとお洒落になっている。ワイシャツにジャケット、チェックのズボンを穿いていた。

「朝はどうもありがとう」

 律儀に朝のことに触れてから、つつみんは首を伸ばして辺りを見回した。

「松永くんは一緒じゃないんだね」
「うん。芋煮の準備が長引いてるらしくてさ」
「そうなんだ……。残念だね。せっかくの前夜祭なのに」

 つつみんは眉尻を下げ、本当に気の毒そうにして言った。
 俺はそれに頷きつつとなりを見やった。

「でも、ま、メイジがいるし」
「俺はオマケかよ」
「なんで。そういう意味で言ったんじゃねーのに」

 下唇を突き出す。

「卓、わかってるから。そんないじけんなって。つか、つつみんは一人?」

 そういえば朝に講堂で会ったとき、前夜祭はどうするのかとつつみんに訊いたら、クラスの友だちと行く予定だと言っていた。

「やっぱりみんなも忙しいみたい。どこの部も一年生はいろいろ大変なんだって」
「つつみんは大丈夫なの?」
「僕は劇の裏方に選ばれたから、部活の仕事は手伝わなくてもいいってことになってるんだ」
「そっか。優しい部長さんだ」
「うん。……というか、おスギ先輩かなって。なにか進言してくれたのかもといまになったら思う」

 たしかにおスギ先輩は面倒見がよさそうだし。部の後輩というのもあったんだろうけど、劇の練習のときも、つつみんをいろいろ気にかけていた。
 つつみんが、俺からメイジへ視線を移した。

「メイジくんは部活のほうはいいの?」
「ああ。ほら、うちの部は新設だろ。伝統のなんちゃらってのがないから案外と身軽なんだよな。ゴルフ教室のセッティングして完了」
「楽ちんが一番だよ。年に一度の学祭だもん。僕らも楽しみたいよね」

 メイジが「そうそう」と人さし指を振って言った。そしてその人さし指を、くいっと俺の鼻にくっつけた。

「なんか言いたげですな。お嬢さん」

 俺ははっとなって、そんなに顔に出てたのかと頬を押さえた。

「つーか、お嬢さんじゃねえ」

 鼻をグイグイ押してくるメイジの人差し指。俺はそれを掴んで、空に投げ捨てた。

「言えよ。文句でもなんでも聞くぞ」
「いやさ、メイジ、そんなに身軽なら維新の仕事替わってやればいいのにって思っちゃって。芋煮の手伝い」
「もちろん言ったよ。卓にそう言われると思ったからさ。替わろうかって」
「あー……断ったんだ」
「そう。心配するなと」

 維新らしいっちゃあ維新らしいけど、そんな無理することもないのに。
 ふっと息を吐いて、俺はメイジに空目を送った。ついでに片目をつむってみせる。

「ごめん」
「なんで謝る?」
「ちょっと責めたみたいになっちゃったから」

 メイジが「気にするな」と俺の頭を撫でた。
 ふとつつみんへ目をやると、柔らかい笑みを浮かべて俺たちを見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?【年下×年上】

彩華
BL
ことの始まりは12年前のこと。 『先生が好き!』と、声変わりはうんと先の高い声で受けた告白。可愛いなぁと思いながら、きっと僕のことなんか将来忘れるだろうと良い思い出の1Pにしていたのに……! 昔の教え子が、どういうわけか僕の前にもう一度現れて……!? そんな健全予定のBLです。(多分) ■お気軽に感想頂けると嬉しいです(^^) ■思い浮かんだ時にそっと更新します

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...