いとしの生徒会長さま 2

もりひろ

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予兆

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 黒澤は無言で目を上下させている。その横のマキさんは肩を震わせてくすくすもらした。
 まなざしの鋭角さは緩めず、黒澤は近づいてきた。

「卓……?」

 半信半疑な声色だったとはいえ、すぐに言い当てられてしまう俺って……。鷲尾さんのときもそうだけどバレすぎだろ。

「そ。いま劇の稽古中」

 まあ、この時期にこんな格好してんのは、アリアな俺ぐらいだからもろバレでも仕方ないのか。
 黒澤の後ろから、マキさんも近づいてくる。

「中野、やっぱ似合ってる」

 二人とも少し前で足を止め、そこからもう一歩出たマキさんが「な?」と黒澤を見上げた。
 それにちらっと目をやり、黒澤は俺と視線を合わせた。

「稽古中なやつが、どうしてこんなところにいる」
「どうしてって……。てか、その言葉、そっくりお返ししますよ」

 黒澤がにわかに表情を堅くした。
 ほとんど外で見ることのないツーショットに出くわしたら、いくら俺でもなにかあったとわかる。

「あっちで、鷲尾さんがミツさんに言ってた。なに探ってんだって。なんかあんの?」
「……」
「もしかしてあの停電と関係あるとか。そういえば俺、うっかりして訊くの忘れてたけど、あれってだれがやったの。黒澤サンたち、わかってんだろ?」
「中野」

 マキさんが笑みを消した。
 それから、ゴルフ部で初めて会ったときみたいな顔をした。部外者はこれ以上ツッコんでくるな、っていう顔だ。
 俺は目を伏せた。

「きみの役目はそうじゃない。そんなことは気にせず、劇にだけ集中してればいい。ほら──」

 お迎えも来た。
 と言ったマキさんの声に、維新の声が重なる。
 振り返ると、維新はちょっと離れたところで立ち止まっていた。俺の後ろの二人に遠慮しているのか、二の足を踏んでいるみたいだった。
 俺は、マキさんと黒澤に軽く頭を下げ、維新のところへ小走りでいった。

「卓、心配した。……杉田先輩もカンカンだ」
「え?」
「伝統の衣装だ。汚したりしたら、そりゃあ怒られるだろ」
「げ。やべ」

 維新が一瞬、俺から目を離した。
 なにかと思い振り返ると、マキさんと黒澤の姿がなくなっていた。
 俺は頭を掻いた。
 たしかに二人の言うとおり、俺は気にしても仕方のないことなのかもしれない。それを知ったところで、俺になにかできるとも思えないし。
 ヘタに関わって足手まといになるのだけは避けなきゃならない。

「卓、頼むから、あんまりうろうろするなって」

 維新が呆れ果てたように言う。

「うろうろって……。お前もじゃん」
「は?」
「俺が着替え終わったとき、体育館にいなかった」

 維新が眉間にしわを寄せて、思案顔になった。

「ああ。加賀谷さんに呼ばれてた」
「え? 柳さんじゃないの?」
「あ、柳さんにも呼ばれた。そういえば。このあいだの礼を言われて、すぐに別れた。そのあと、加賀谷さんにも呼ばれたんだ」

 顔から火を吹くかと思った。また一人で焦って、余計な行動をした。
 それを見透かしたように維新はため息をつき、「戻ろう」と、俺の背を押した。しかし、はたと足を止める。

「そうだ。これを……」

 と、頭をかがめ、首からなにかを取った。それを俺に差し出す。
 あのお守りだった。
 残念ながら俺の手作りではないけど、維新にあげたものだし、できればずっと持っててもらいたかった。
 受け取るのをためらっていたら、維新が俺の首にかけた。

「無事にあれを終えられたし、俺はもう充分守ってもらった。だから今度は卓に。危なっかしいから、お前」

 維新の言い方が少し引っかかったけど、俺は目を下げて首にかけられたあのお守りを掴んだ。
 髪と首のあいだに手を入れて紐から抜く。お守りを服の中へともぐし、外したボタンを留め直した。

「たっくん! まっつん!」

 そこへ、おスギ先輩が目を三角にしてやってきた。
 俺は思わず維新の後ろに隠れる。
 前につつみんが言っていたことを思い出したから。おスギ先輩はあんなふうだけど、部活のときや本気で怒ったときは「オトコ」が出るんだって。
 それも相当怖いらしい。
 俺は縮こまって、恐る恐るおスギ先輩を見上げた。
 そのときに見てしまった鬼の形相はとてもじゃないけどすぐには忘れられない。今夜にでも夢に出てくるんじゃないかと思うくらいの恐怖だった。


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