いとしの生徒会長さま 2

もりひろ

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トカゲの尻尾切り

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「全員いるな」

 藤堂さんと鷲尾さんがプールから上がった。
 維新はというと、あの人の顔も見たくないのか、プールの中にいたまんまでこっちに背を向けた。

「おい、誉。なんなんだ、一体」

 鷲尾さんが黒澤に詰め寄る。

「なんなんだって、単なる停電だ」
「学食は落ちてねえぞ」
「ここだけ落ちたんだ。それより慶、龍。レースの続きはどうする」
「どうするて、お前らで決めーや」
「お前たちがどうしてもやりたいと言うなら、電気が回復し次第、続けてもらって構わない」
「あ?」

 と、鷲尾さんは藤堂さんに視線をやった。
 藤堂さんは、その鷲尾さんの目を連れ、そっぽを向いている維新を見下ろした。最後には俺を一瞥する。
 鷲尾さんが短く息を吐き、声を飛ばす。

「俺はもういい。つか、腹減った」

 ……あれだけカレー食っといて、もう腹減ったんかよ。
 俺は視線を落とし、「げえ」と舌を出した。

「慶は?」
「俺もええわ。なんかちょん切れた。やる気が」
「だったら、相手役は一年の松永にしてもらう。お前ら、じゃんけんしろ。負けたほうに敵役をしてもらうから」

 すると、藤堂さんと鷲尾さんは同時に顔をしかめた。

「はあ? もうええって。そんなん聞いてへんがな」
「相手役じゃねえなら、俺は劇になんか出ねし」
「ああ?」

 地を這わせるような低い声を出し、黒澤は懐中電灯を顎に当てた。凄んでみせている。ライティングの効果で迫力は抜群だ。
 藤堂さんと鷲尾さんは、素直に「すみません」と頷く。やがて、静かなプールサイドに、じゃんけんの音頭が響いた。
 アイコがしばらく続いたあと、鷲尾さんの歓喜の声がプールにまで伝う。しつこいぐらい渾身のガッツポーズをしている。
 十分くらいして、ようやくプールの明かりが点いた。
 それを合図に解散となったけど、どうにもこうにも俺には納得がいかなかった。
 いや、維新が相手役で決まったのはいい。それはもちろん。
 黒澤が棄権したのも、もう気にしていない。そうそう握れない弱みも掴めたし。
 停電のせいでレースが強制終了となったのも、結果的に好転したからよしとする。
 なんとなくだけど、停電の原因を、黒澤たちは知っているんじゃないかと思えた。
 鷲尾さんが漏らしたように、生徒会がやったとは思わない。たしかに、朝から怪しい行動を取っていて、あんな感じの人たちだけども、俺たちを大変な目に遭わせても、せっかくの催しをぶち壊しにするなんて意味ないことはしないんじゃないかと思う。
 なんの確証もないから、停電の件は保留にして、この日から三日、維新が風邪で寝込んでしまったことは生徒会にしっかり抗議した。



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