いとしの生徒会長さま 2

もりひろ

文字の大きさ
上 下
24 / 77
暮れ泥むころ

しおりを挟む


「耐久レース開催日時と、参加者募集について」

 掲示板に貼り出された一枚には、まず、そういう見出しがあった。
 そうなのだ。あのレースは、レースでも、耐久レースだったのだ。
 たしかに、維新も黒澤も、レースに「勝つ」じゃなくて「残る」を連呼していた。
 俺は、あんぐりと開けた口を閉じるのも忘れ、アウストラロピテクス状態でいた。
 昇降口と向かい合う購買のとなりに、掲示板はある。最初は結構な数のギャラリーがいたけど、気付いたときには人っ子一人いなかった。
 耐久レースの開催は来週の日曜日。つまりは四日後。なんつー早さだ。アホか。
 参加者募集の締め切りはあしたの放課後。これは妥当。むしろ募集なんてしなくていい。
 つか、問題は耐久の中身だ。
 最初に二時間のジョギングをする。あのお盆カレー、唐揚げのせを十皿完食し、極めつきは、だれか一人残るまで延々と泳ぐ。
 こんなの……無理に決まっている。
 俺は、最初のジョギングで脱落する。
 正直いって、維新にそこまで体力があると俺は思っていない。普通の男子以上にはあるかもしれないけど、ここではそれが十人並だ。
 それに、体力勝負以外に胃袋勝負もある。
 維新はわりと食うけども。それだって、普通よりちょっと食べられるレベルだと思う。
 最後の水泳は……もういいよ。もう、きすでもなんでもするよ。俺がちょこっと我慢すればいいだけの話だもん。
 だれかさんじゃないけど、減るもんでもないし。不本意な一回より大好きなやつとの何万回のが大事だ。
 少し体を起こし、すっかり閑散としている廊下の先へ俺は目を動かす。そのとき、だれかに後ろから抱きつかれた。

「卓~」

 ジョーさんだった。
 掲示板の紙切れ一枚に、俺は叩きのめされ、いつもの反応ができずにいた。
 ジョーさんは、ぱっと俺から離れる。

「なんだ、卓。気持ち悪ぃな。いつもみたいに嫌がってくれねえと調子狂うわ」
「だって~」

 俺は口を尖らせ、掲示板を指さした。
 ジョーさんは、貼られてある紙を見て、顎を撫でた。

「おー。地獄の耐久レースな。ことしはやんのか」

 地獄……。
 ジョーさんでさえ、あれを地獄っつうんだ。俺たち常人は、参加してはならんやつなのだよ。松永くんよお。

「ん? ことしはって……去年はなかったの?」

 俺は、完全に体を真っ直ぐにして、ジョーさんを見上げた。

「ああ。去年は簡単に決まっちまったからな。それで、いまいち盛り上がりに欠けてたところはあった」
「あー……」

 だからか。その去年を黒澤は知っているから、どうしてもこのレースをさせたかったのか。
 百歩譲って、劇のことも、主役が女装しなきゃいけないのも、最後にきすシーンがあるのも、苦汁をなめる思いで許そう。だが、この耐久レースはいただけない。

「卓。悪ぃな。俺も参加してやりたかったんだが」

 と、ジョーさんは申しわけなそうにパンと手を合わせた。

「ギターある上に、前夜祭まで参加することになっちまって」

 まじ、悪ぃ。
 なんて謝られても、いえ、べつに参加していただかなくて結構です、としか返せない。
 しかし、立ち去る最後まで、ジョーさんは俺に手を合わせていた。
 なにはともあれ、棄権してもらうように維新に言おう。
 あいつ、レースのことを知っていたのに、黒澤の口車に乗せられたから、やっぱ冷静ではなかったんだ。それとも、ここのしきたりに感化されすぎて常識が麻痺しているか。
 ならば、俺が正しい道へ戻すしかない。
 昇降口で、気合いの握り拳を作ったあとスニーカーへ履きかえた。
 ふと、さっきのジョーさんの言葉を思い出す。
 劇のことを考えると、台風でも来て風見祭なんてお流れになれよと思うけど、バンドライブは楽しみだ。
 あとのメンバーがだれか。なんの楽器をするのか。それを想像して、ちょこっとでもテンションを上げてみた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?【年下×年上】

彩華
BL
ことの始まりは12年前のこと。 『先生が好き!』と、声変わりはうんと先の高い声で受けた告白。可愛いなぁと思いながら、きっと僕のことなんか将来忘れるだろうと良い思い出の1Pにしていたのに……! 昔の教え子が、どういうわけか僕の前にもう一度現れて……!? そんな健全予定のBLです。(多分) ■お気軽に感想頂けると嬉しいです(^^) ■思い浮かんだ時にそっと更新します

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...