アノマリー・ライフズ

カジタク

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一章 鮮やかなる国 ブライト

第一章 第二十三話 まほうのれんしゅう

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『これはあらゆる魔法の基礎。魔力をそのまま体外へ放出するだけの単純なものだが、それ故に使用者によって非常に大きな差が生まれる』

 くたびれた羊皮紙に書かれた文字を追う。
 隣のページの挿絵には、杖を持った老齢の人物が無色の球を出している様子が描かれている。記述通り、俺が使ったのとは全く異なる。

「魔法の名をフォース。天才であろうと、愚者であろうとも、魔法の道を行くなら必ず通る道である。また基礎である故、反復して使い続ければ必ずや修練に繋がるだろう」

 読み終えたページをめくり、次の項へ。
 今度の挿絵は炎を出す若者が描かれたものだ。

「それだけ夢中になって魔導書を読むとはねえ」
「元の世界に居た頃からずっと魔法には憧れてたからね、フェルン」
「これ程長時間集中されてしまっては、面白みに欠けるよ……」

 隣の席で苦笑するフェルンにそう笑いかける。
 フェルンの先生宣言の後、病院内にあった図書室に押し込まれたのだから、こうなったのはフェルンの責任だ。付き合ってもらわないと。

「元の世界。魔法の無い世界の事かな。時折そちらの世界も見ていたよ」
「へえ、俺らの世界知ってるのか。どの位だ?」
「そっちには魔法は無くて、代わりにカガクと呼ばれる機械的な技術が発展してる、程度だね」

 態度や言動から察するに、知識に自信はなさそうだ。もう少し掘らないと何とも言えないが。
 またフェルンやサナは、元の世界の知識に明るいはずだけど、それがこの程度の認識となると、元の世界について語れる人の数は多くは無さそうだ。

「今は元の世界の話はいいや。この魔法って俺にも使えるか?」
「ふむ、これは火の魔法の基礎【ファイア】だね。恐らくキミには使えないと思うよ」

 何となく投げかけた問いに、フェルンは顔をしかめて答えた。
 基礎だというのに使えないとはどういう事だ。確かにフォースの時点で暴走させたが、流石に不可能ではないだろう。

「でもさ、一回やってみたいんだよ」
「じゃあ止めはしないよ。魔力の感じ取り、それを火に変える感じでやってごらん?」
「よぉーしっ……」

 目を瞑り、体の中にある魔力を探す。
 むっ、探すまでもないな。すぐ根っこのようなモノが見つかったぞ?

「なあフェルン、すぐ魔力を感じ取れんだけど」
「一度魔法を使えば、魔力はすぐ感じられるようになるよ。異常ではないから、続けるといい」
「わかった、そうさせてもらうよ」

 疑問を払拭できたので、続ける。
 魔力を引っ張り出す所まではフォースと同じ。前回は一度に沢山出してしくじったから、今度は少しずつ出していこう。

「んしょ、んしょ……」

 ロープを引っ張るように魔力を出す。
 どのくらい出せばいい、とかはわからないがとりあえずこの辺で止めてみて、目を開ける。

「……」

 火に変わるように想像する。
 掌に何となく、何か乗ってる感じはするが特に変化は起きていない。後は魔法の名前の宣言のみ。

「ファイア!」

 魔法の名前を宣言。
 それと同時に反射的に目を瞑る。

「ん……あれっ?」

 目を開けると、あるはずの火は無い。
 いや、掌から水蒸気が上がっているな。
 しかし本来の効果である、火の発生は得られていないからこれは失敗だな。

「うん、やはり上手くいかないね」
「これはどういう事なんだ?」
キミの魔力サナの魔力は極めて水に近い性質を持っているからね」

 言われてハッとした。
 例え本質は不思議エネルギーである魔力だろうが、確かに水は火には変わりにくいはずだ。上手くいかなくても納得だよ。

「まあ、出来なくはないのだけど大量の魔力を使うんだよね」
「つまり、使いもんにならないって意味で使えないっていう事か?」
「そういう事だ。言葉足らずで申し訳ないね」

 そう頬をかくフェルン。
 言葉足らずなのは別に良いとして、これではまるで使い道がない。契約する時サナが言っていたが、基礎すらままならないとはな。

「ところでさ」
「うん?」

 人がまばらな木の床と壁が温かみを感じる室内を見渡し、ふと思う。

「今魔法を使ったけど良かったのか?」
「問題ないよ。この部屋の物は皆魔法に耐性がある。簡単に燃えたりしないさ」

 詠唱の後に小さな火を小指に灯し、椅子に押し付けるが魔法陣が現れて火を消してしまった。成る程、これなら遠慮なく魔法を使えるな。

「よーし引き続き魔法の練習を……!」
「いや。そろそろ昼食の時間だね」
「あ、本当だ」

 フェルンの視線の先にある時計は、元の世界の一時に当たる部分を示している。
 魔力を感じる行程において、強く集中する必要があるから空腹の状態では万全とは言えない。腹ごしらえを済ませてしまおう。

「一つ上の階だから運動ついでに歩いていこうと思うんだが、どうするタクマ」
「そうしよう。お腹も空くし。昼食が楽しみだ!」
「確か今日はリゾットだったはずだよ」
「おおっ、米じゃないか!」

 リゾット。
 元の世界でも食べた事はないが、確か雑炊とかおじや、お粥辺りに似た食べ物だ。
 異世界で初めて食べる米と考えると、腹も減ってきたので早々に部屋へ戻った。



_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆



「ふぃー。美味かったなあ」
「キミってとても早食いなんだね……」
「好きな食べ物となるとますます、な」

 部屋に戻って、あっという間に昼食を腹に入れ、図書室へやって来た。
 やっぱり久々に食べる米は美味しく、おかず含め五分とかからず食べ終えてしまい、それからというもののフェルンは驚きを隠せずにいる。

「さぁーて、飯も食べたし続きをやるかぁ」

 さっきまで読んでいた魔導書を探す。
 タイトルは【魔法入門書】だったはずだ。何事も基礎からちゃんとやっておかないと——

「おっ? コイツは」

 なんて思っていたら、面白そうなタイトルで、薄めの魔導書を見つけた。【すぐ使える! 小技魔術集】とある。すぐ使える、ねえ。

「フェルン、これどうだろ」
「ほほう。どれどれ?」

 ペラペラと魔導書に目を通していく。
 やがてパン、と魔導書を閉じたと思うと。

「これは……良いものを見つけたねぇ、タクマ」
「おっ、ホントか!」
「ああ。この本には検索機能が付いてるんだ」

 にたり微笑を浮かべながら手をかざすと。

「なっ……」

 本が独りでにページをめくりだし、目的としたであろうページで止まった……!
 これは便利だ。自分で探す手間が省けるだけでなく手間が省ける分、練習に使える。おまけに格好いいときた!

「へぇ。いいねえ、これ」
「便利だよね。しかもこの本はキミもすぐに使えそうで、尚且つ実践的な魔法ばかりだ」

 現れたページに載っていたのは見えない壁を出す【シールド】だ。壁以外にも使える、と書いてあるし、確かにこれは良い。
 次は現れるページには傷を治す、その次は飲む用途に水を発生、物体の浮遊、衝撃波の発生……。出てくる魔法全部便利だな。

「よしタクマ、先ずはこの本にあるキミの使いたいと思う魔法を使えるようにしよう」
「俺もそうしたいと思ってたんだ。頑張って覚えるよ、フェルン」

 お互いの意思は合致している。
 ならば、次にする事は実践だな。使いたい魔法は、今さっき見つけたし。

「さっき見たシールドってのがあったよな。あれを先ず使えるようになろうと思う」
「簡単だよ。壁を想像すれば出来るはずだ」
「わかった。やってみる」

 目を瞑り、魔力を感じ取った後出す。
 次に壁を頭の中に浮かべて……

「シールド!」

 名前の宣言と共に目を開ける。
 突き出した手の先に、ラウンドシールドのような形と大きさを持った水の障壁が出来上がっている。想像と違うのは多分、魔力が特殊な影響だろう。

「タクマ、魔法を使う時瞑らない方がいいよ」
「そうなのか? 集中したくてつい……」
「ああ。単純に狙いが定まらないからね」

 少し思考を巡らせていたら、顎に手を添えたフェルンにアドバイスを受けた。
 意識していなかったが、その通りだ。水で攻撃するにしろ壁で守るにしろ何処、若しくは誰に使うのか指定するから視界は必須だ。

「ついでに、魔法なんて魔力を出してどんな形にするか決めたら後は名前を言えば出来るんだよ?」
「え、そんな単純なのか?」
「うん。すっごく単純だよ」

 あまりにも雑な扱いに驚きを隠せない。
 魔力が万能エネルギーなのは知っていたが、その使用方法とも言える魔法までもが、そんなにガバガバで良いとは……!
 てっきり俺は格式ばったモノで、一つ間違えればエライことになるかと思ってたんだが!

「魔法の認識を改めたよ。そんなに自由なものと思わなかった……」
「いい事だ。どんどん使い倒したまえ」

 この後許可を貰い魔導書を持って外に出て、衝撃波や浮遊を始め日が暮れるまで練習を続けた。
 夕食は食べたが、魔法の使い過ぎで疲れてしまい、泥のように床に就いた。



_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆



『……き……に……ん』

 意識が朧げに覚醒する。
 背中には畳の感触。
 年老いた男性の声。

「ん……。おおぅっ」

 目が覚める。
 真っ白な天井。
 知らない天井、ではない。
 この天井は二つ知っている。一つは今入院している病院で、もう一つは。

「起きたか、人間」
「ああ、お久しぶりですね。ルオマ様」

 もう一つは丁度今居るこの場所。
 二度目でも不気味さで背中に悪寒が走る監禁部屋よろしくな、神を名乗る老人の居る無機質極まりないこの部屋だ。

「で、また夢の中に呼んでなんのご用です?」
「物分かりが前より良くて助かるの。なあに難しい話ではない」


 湯飲みの中身をぐいっと呷り、ルオマ様は頬杖をついて続けた。


「フェルンを仲間にするとはどういう了見か、聞かせてもらおうかの」

 そう言われ、何かが頭の中で繋がったような気がした。
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