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そんなスノーにアーノルドが声をかけた。
「スノーさん、これを君に」
「? こ、これは!」
アーノルドからスノーが受け取ったのは、何だか分厚い難しそうな本だ。それを見てスノーのただでさえ大きな目が極限まで見開かれる。
「一度読んでみたいって言ってたから実家から持ってきたんだ。もう随分前に絶版になってしまっていてなかなか手に入らないでしょ?」
「は、はい! 宰相様、ありがとうございます! 少しの間お借り致します!」
「返さなくていいよ。それは君にあげる」
「いけません! こんな貴重な物、博物館に寄贈レベルです!」
珍しくテンションが上がったスノーを見て、私はロミと顔を見合わせて頷き合う。きっと考古学関連の本なのだろう。
「考古学ってそんなに面白いの?」
何気なく私が尋ねると、スノーはグッと顔を近づけてきてしきりに頷く。
「面白いなんてものじゃないわ! 今私が調べているのは大昔に消えたとされている大陸の事なの。それは海の底にあったって言われている海底都市なんだけど、リムーア大陸って言ってね――」
「ス、スノー、落ち着いて! また今度ゆっくり聞くから一旦落ち着いて!」
まるでマシンガンのように突然話し出したスノーを私は慌てて止めると、斜め向かいで何故かアーノルドまで興奮したように頬を染めている。
「まさか君は今リムーアを調べているの!? あの大陸の事は研究者の間でも意見は別れているけど、僕は絶対にあったと思うんだ! その証拠にいくつもの遺跡が海から見つかっている。それも不思議な事にあそこらへんの地質はまるでどこかから誰かが運んできたみたいに――」
「アルも落ち着け。お前たち、ここに集まってもらった理由を忘れているんじゃないか?」
スノーと同じように興奮しだしたアーノルドを手で制したオズワルドに、皆がシンと静まり返る。
「そうだった。スノーさん、その話は後でゆっくりしよう。さて、それじゃあ本題に入ろうか。今日、君たちは三人で買い物に出かけて何者かに襲われた。合ってるかな?」
「うん、合ってる」
「合ってますね」
「は、はい」
女子三人が顔を見合わせて頷くと、それを聞いてアーノルドは頷く。
「それがどうかしたの?」
「うん。今日ね、城で側室候補の一人が問題を起こしたんだよ」
「オズワルドがさっき言ってたやつ?」
「ああ。その時に持ち出したナイフの模様が、お前たちを襲ったナイフの模様と同じだったんだ。調べたらそれは、隣国のブランドの物だった」
いつになく低い声のオズワルドにロミとスノーは完全に固まってしまっているが、私の頭の中は疑問符で一杯だ。
「それがどうして問題なの? 一般に売り出されてたら誰が持っててもおかしくないよね?」
「そうだな。一般に売り出されていれば、な」
「まぁ早い話がそのナイフは一般向けでは無かった。だから今、城にはスパイが潜んでいる可能性が高いっていう話なんだけどね、側室候補は暴れるだけ暴れて兵士に取り押さえられて部屋に戻るなり自害したんだよ。表向きには」
さらりととんでもない事を言うアーノルドにロミとスノーは完全に固まってしまった。
「大変じゃん。それじゃあオズワルドが狙われてるの?」
「恐らくね。でなきゃオズの側室候補には紛れ込まないよね。そしてついでに君たちも襲った」
「それって狙われたのはスノーかロミちゃんって事? だって私を狙う意味ないもんね?」
不思議に思った私にオズワルドが腕を組んで静かに口を開いた。
「そうでもないぞ」
「え、なんで」
「はっきり言ってこの3人の中で狙うとしたら、間違いなくお前だ」
「なんで!?」
「俺と寝てるからだよ。そしてその事をうちの軍もここの者達も知っている。どこかからその情報が漏れていてもおかしくはない。俺も別に口止めしなかったしな」
「そうそう。オズが今唯一手を出してるのがサキュバスちゃんだ。だとすると、王の子を妊娠する恐れがあるのも君だけなんだよ」
「な、なんて事……刺殺は……刺殺だけは死んでもごめんだからね!」
どうして毎度毎度ナイフで狙われるのだ! 思わず叫ぶと、セルクが怪訝な顔をしてオズワルドを覗き込んだ。
「だがお前、避妊はしてるんだろ?」
「いいや?」
「しないよ、オズワルドは避妊なんて! 薬もくれないし! 外にも出さないよ!」
オズワルドと私の声が重なると、その場に居た全員がゴクリと息を呑む。
「お、お前正気か?」
「ああ。問題ない。孕めと言っても嫌だと断るような女だからな。こう見えて自己管理の鬼だぞ、こいつは」
そう言ってオズワルドが私を親指で指差ししてきた。
「当たり前でしょ! 誰が王妃なんてやるもんですか。皆も嫌でしょ、こんな王妃」
鼻息を荒くして言うと、失礼な事にオズワルド以外が全員頷く。
「なるほど。じゃあやっぱり狙われてるのは君だね。もしかしたら部屋を荒らされたのも今回の事と関係してるかもしれないね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少しだけ宣伝です!
連載しているのはダリア視点のみですが、がるまに様でオズワルド視点の完結巻が販売されました!
そちらではオズワルドの視点からダリアに惹かれていく過程が分かるので、よろしければ是非!
ちなみに連載中のダリア視点も完結巻が既に販売されているので、連載では載せられないR箇所の完全版も楽しめます~☆
今後はもう少し連載の頻度を上げる予定ですので、楽しんでいただければ幸いです!
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「面白いなんてものじゃないわ! 今私が調べているのは大昔に消えたとされている大陸の事なの。それは海の底にあったって言われている海底都市なんだけど、リムーア大陸って言ってね――」
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「うん、合ってる」
「合ってますね」
「は、はい」
女子三人が顔を見合わせて頷くと、それを聞いてアーノルドは頷く。
「それがどうかしたの?」
「うん。今日ね、城で側室候補の一人が問題を起こしたんだよ」
「オズワルドがさっき言ってたやつ?」
「ああ。その時に持ち出したナイフの模様が、お前たちを襲ったナイフの模様と同じだったんだ。調べたらそれは、隣国のブランドの物だった」
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「大変じゃん。それじゃあオズワルドが狙われてるの?」
「恐らくね。でなきゃオズの側室候補には紛れ込まないよね。そしてついでに君たちも襲った」
「それって狙われたのはスノーかロミちゃんって事? だって私を狙う意味ないもんね?」
不思議に思った私にオズワルドが腕を組んで静かに口を開いた。
「そうでもないぞ」
「え、なんで」
「はっきり言ってこの3人の中で狙うとしたら、間違いなくお前だ」
「なんで!?」
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「お、お前正気か?」
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