冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

文字の大きさ
上 下
48 / 58

48

しおりを挟む
 そんなスノーにアーノルドが声をかけた。

「スノーさん、これを君に」
「? こ、これは!」

 アーノルドからスノーが受け取ったのは、何だか分厚い難しそうな本だ。それを見てスノーのただでさえ大きな目が極限まで見開かれる。

「一度読んでみたいって言ってたから実家から持ってきたんだ。もう随分前に絶版になってしまっていてなかなか手に入らないでしょ?」
「は、はい! 宰相様、ありがとうございます! 少しの間お借り致します!」
「返さなくていいよ。それは君にあげる」
「いけません! こんな貴重な物、博物館に寄贈レベルです!」

 珍しくテンションが上がったスノーを見て、私はロミと顔を見合わせて頷き合う。きっと考古学関連の本なのだろう。

「考古学ってそんなに面白いの?」

 何気なく私が尋ねると、スノーはグッと顔を近づけてきてしきりに頷く。

「面白いなんてものじゃないわ! 今私が調べているのは大昔に消えたとされている大陸の事なの。それは海の底にあったって言われている海底都市なんだけど、リムーア大陸って言ってね――」
「ス、スノー、落ち着いて! また今度ゆっくり聞くから一旦落ち着いて!」

 まるでマシンガンのように突然話し出したスノーを私は慌てて止めると、斜め向かいで何故かアーノルドまで興奮したように頬を染めている。

「まさか君は今リムーアを調べているの!? あの大陸の事は研究者の間でも意見は別れているけど、僕は絶対にあったと思うんだ! その証拠にいくつもの遺跡が海から見つかっている。それも不思議な事にあそこらへんの地質はまるでどこかから誰かが運んできたみたいに――」
「アルも落ち着け。お前たち、ここに集まってもらった理由を忘れているんじゃないか?」

 スノーと同じように興奮しだしたアーノルドを手で制したオズワルドに、皆がシンと静まり返る。

「そうだった。スノーさん、その話は後でゆっくりしよう。さて、それじゃあ本題に入ろうか。今日、君たちは三人で買い物に出かけて何者かに襲われた。合ってるかな?」
「うん、合ってる」
「合ってますね」
「は、はい」

 女子三人が顔を見合わせて頷くと、それを聞いてアーノルドは頷く。

「それがどうかしたの?」
「うん。今日ね、城で側室候補の一人が問題を起こしたんだよ」
「オズワルドがさっき言ってたやつ?」
「ああ。その時に持ち出したナイフの模様が、お前たちを襲ったナイフの模様と同じだったんだ。調べたらそれは、隣国のブランドの物だった」

 いつになく低い声のオズワルドにロミとスノーは完全に固まってしまっているが、私の頭の中は疑問符で一杯だ。

「それがどうして問題なの? 一般に売り出されてたら誰が持っててもおかしくないよね?」
「そうだな。一般に売り出されていれば、な」
「まぁ早い話がそのナイフは一般向けでは無かった。だから今、城にはスパイが潜んでいる可能性が高いっていう話なんだけどね、側室候補は暴れるだけ暴れて兵士に取り押さえられて部屋に戻るなり自害したんだよ。表向きには」

 さらりととんでもない事を言うアーノルドにロミとスノーは完全に固まってしまった。

「大変じゃん。それじゃあオズワルドが狙われてるの?」
「恐らくね。でなきゃオズの側室候補には紛れ込まないよね。そしてついでに君たちも襲った」
「それって狙われたのはスノーかロミちゃんって事? だって私を狙う意味ないもんね?」

 不思議に思った私にオズワルドが腕を組んで静かに口を開いた。

「そうでもないぞ」
「え、なんで」
「はっきり言ってこの3人の中で狙うとしたら、間違いなくお前だ」
「なんで!?」
「俺と寝てるからだよ。そしてその事をうちの軍もここの者達も知っている。どこかからその情報が漏れていてもおかしくはない。俺も別に口止めしなかったしな」
「そうそう。オズが今唯一手を出してるのがサキュバスちゃんだ。だとすると、王の子を妊娠する恐れがあるのも君だけなんだよ」
「な、なんて事……刺殺は……刺殺だけは死んでもごめんだからね!」

 どうして毎度毎度ナイフで狙われるのだ! 思わず叫ぶと、セルクが怪訝な顔をしてオズワルドを覗き込んだ。

「だがお前、避妊はしてるんだろ?」
「いいや?」
「しないよ、オズワルドは避妊なんて! 薬もくれないし! 外にも出さないよ!」

 オズワルドと私の声が重なると、その場に居た全員がゴクリと息を呑む。

「お、お前正気か?」
「ああ。問題ない。孕めと言っても嫌だと断るような女だからな。こう見えて自己管理の鬼だぞ、こいつは」


 そう言ってオズワルドが私を親指で指差ししてきた。

「当たり前でしょ! 誰が王妃なんてやるもんですか。皆も嫌でしょ、こんな王妃」

 鼻息を荒くして言うと、失礼な事にオズワルド以外が全員頷く。

「なるほど。じゃあやっぱり狙われてるのは君だね。もしかしたら部屋を荒らされたのも今回の事と関係してるかもしれないね」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

少しだけ宣伝です!

連載しているのはダリア視点のみですが、がるまに様でオズワルド視点の完結巻が販売されました!

そちらではオズワルドの視点からダリアに惹かれていく過程が分かるので、よろしければ是非!

ちなみに連載中のダリア視点も完結巻が既に販売されているので、連載では載せられないR箇所の完全版も楽しめます~☆

今後はもう少し連載の頻度を上げる予定ですので、楽しんでいただければ幸いです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死神令嬢は年上幼馴染からの淫らな手解きに甘く溶かされる

鈴屋埜猫
恋愛
男爵令嬢でありながら、時に寝食も忘れ日々、研究に没頭するレイネシア。そんな彼女にも婚約者がいたが、ある事件により白紙となる。 そんな中、訪ねてきた兄の親友ジルベールについ漏らした悩みを克服するため、彼に手解きを受けることに。 「ちゃんと教えて、君が嫌ならすぐ止める」 優しい声音と指先が、レイネシアの心を溶かしていくーーー

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

向日葵ー靖子ー

絵麻
恋愛
 戦争で夫を失くした一ヶ月後、愛娘の純夏とはぐれた。  失意のどん底にいる靖子を、友人のアメリカ人・パトリックはずっと愛していたことを告げ、二人は結ばれる。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

処理中です...