冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

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「そうか。では風呂から出たら食べるか。お前の分はあるのか?」

「もちろん! ロミちゃんにまだ食べるの? って呆れられちゃった」



 あの時の信じられないようなロミの顔は、是非ともオズワルドにも見せてあげたかった。



「ロミ……ロミ……ああ、セルクのお気に入りか」

「セルク?」

「うちの騎士団長だ。ゴツいが良い奴だぞ。俺とアルとセルクはいわゆる幼馴染でもうずっと腐れ縁だな」

「そうなんだ。そういうの何か良いね」

「お前には幼馴染は居なかったのか?」



 ふいにそんな事を尋ねられて私は苦笑いを浮かべる。



「あー……私は転校族だったからなぁ」

「てんこうぞく?」

「うん。よく引っ越ししてたんだ。だから友達は全然居なかったんだよ」



 色々とやらかす両親だったので、その度に住む所を変える羽目になっていた幼少時代。苦い思い出だ。



「そうか。まぁあいつらは友人というよりは、悪友だがな」

「それでも居るだけマシだよ。ま、そんな私にもようやく友達が出来たんだけどね!」

「そのようだな。クレイから聞いたぞ。至って健全に買い物を楽しんでいたと」

「そりゃ女友達と居るのにそんな事しないよ!」

「男と居てもするな。その事について後で少し話がしたい。構わないか?」

「いいよ」

「そうか。ではアルとセルクも呼んでおこう」

「二人も来てるの?」

「ああ。おい、こっち向け」

「なに? んん!?」



 振り返るなりオズワルドは私の後ろ頭を掴み、突然激しいキスをしてくる。



「ん、んむ……っふ」



 あまりにも突然の事に驚いてオズワルドを見ると、オズワルドもじっとこちらを見つめている。一体何なのか。



 ようやく唇を離したオズワルドは、意地悪に微笑んで言う。



「そろそろ出るぞ」

「な、何だったの!?」

「ただのキスだ。深く考えるな。先に出るぞ。一人でするなよ」



 そう言ってオズワルドは私を立たせると、さっさとシャワーを浴びて出て行ってしまう。一方、お風呂に取り残された私はまだ唖然としていた。

 

 

 

 オズワルドが出て行ったタイミングを見計らってお風呂から出た私は、何事も無かったかのようにソファで寛いでいるオズワルドを横目に、全員分のカクテルを作る。



「ねぇオズワルド、来るのって二人だけ?」



 4人分のカクテルを作り終えた私が言うと、オズワルドはゆっくり首を振る。



「いや、ロミとスノーも呼んである」

「分かった。それじゃあ6人分ね」



 カクテルを6人分作り終えた頃、部屋にオズワルドが呼んだ人たちが集まりだした。



「やぁ、サキュバスちゃん。お風呂上がりかな?」



 一番にやってきたのはアーノルドだ。



「よく分かったね!」

「そりゃねぇ。何ていうか無駄な色気が凄いね、君は」

「褒めてくれてありがとう」

「褒めてはいないんだけどね。挨拶はこれぐらいにしておこうか。オズが怖いから」



 そう言ってアーノルドはソファに座ってくつろぎだした。



 そこへロミを伴ってクマのように大きな精悍な男がやってくる。



「邪魔するぞ。ああ、あんたが噂のサキュバスか?」

「そういうあなたは騎士団長様?」



 私の問いかけにセルクは少しだけ眉根を寄せる。その後ろからロミが顔を出した。



「お昼ぶりですね、ダリア」

「ロミちゃん! こっち座って! こっちこっち!」



 そう言って私が隣を叩くと、ロミはいそいそと私の隣にやってきてオズワルドの前で貴族らしく頭を垂れた。



「お初にお目にかかります。ロミと申します」

「ああ。話は聞いている。楽にするといい」

「ありがとうございます」



 ロミはオズワルドの言葉を聞いて頭を上げ、ようやく私の隣に座った。そんなロミに私は思わず拍手してしまう。



「すごーい。ロミちゃん、貴族の人みたいだった! そのお辞儀の仕方独特だよね」

「貴族の人だったんですよ。今のお辞儀はカーテシーと言うんです。ダリアにも教えましょうか?」



 真顔で言われて私は思わず苦笑いをしてしまう。絶対に習得出来そうに無かったからだ。そんな私とロミを見てセルクが何故か満足げに頷いた。



「アルからサキュバスは本当にサキュバスだったと聞いて心配していたが、ロミさんがこんな顔をするのなら根は良い奴なんだろうな。安心した」

「ちょっと、どういう意味ですか? それ」

「ロミちゃんの無表情の種類がセルクさんには分かるのか……すごーい……」



 まだまだ知り合ったばかりの私から見たらロミの無表情の種類などほぼ分からないが、どうやらセルクには分かるらしい。愛である。



 そこへようやくスノーもやってきた。この面子に怯えているのか、相変わらずおどおどと震えて小動物のようだ。



「スノー、こっちおいでよ!」

「う、うん」



 思わず声をかけて隣を叩いた私を見てスノーは可愛らしい笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。可愛いが過ぎる。
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