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「はぁ~つっかれた! 甘いもの食べよ~」
私達が席につこうとしたその時だ。突然、クレイが険しい顔をして立ち上がったかと思うと、腰から下げていた短剣を引き抜いて何かを横に薙ぎ払ったのだ。
「な、なに!?」
「三人とも、伏せてください!」
そう言ってクレイは通りに出ると、誰かと揉み合っている。
私達は机の下からその光景を見ていたが、やがてクレイは一人の男を捕まえて指笛を吹いた。それと同時に3人の男が素早くクレイに駆け寄り、捕まえた男を通りに止まっていた馬車に連れ込んで去っていってしまう。
「な、なにごと」
流石の私も青ざめてふと後ろを見ると、そこには先程クレイが弾き飛ばしたと思われる長めのナイフが突き刺さっていた。
「ひえっ!」
またナイフか! 私は思わずナイフから距離を取ると、まだ怯えているスノーと流石に青ざめているロミの手を握りしめる。
「大丈夫だよ、もう大丈夫」
「う、うん」
「あ、ありがとうございます。少し落ち着きました」
「ううん。私も落ち着きたかったの。一緒に居てくれてありがとう」
刃物が怖い私だ。今この二人が居なかったらもしかしたら気の一つも失っていたかもしれないが、怯える二人を見たら恐怖などどこかへ行ってしまった。
「ダリア……」
そんな私の言葉にスノーは感動したように抱きついてきて、ロミの眼差しには尊敬のようなものが浮かんでいる。
「私はどうやらあなたの事を誤解していました。ただの色魔ではないのですね」
「ロミちゃん、酷くない?」
苦笑いする私を見て、ロミが初めて笑ってくれた。
「三人とも、怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。クレイさんは?」
「ああ、大丈夫だ」
「そっか、良かった。助けてくれてありがとう。クレイさん」
「礼には及ばない。しかし街中でこんな物を投げてくるなんてな。よほど腕に自信があるようだ」
そう言ってクレイは手早く壁に刺さったナイフを抜いて、丁寧に仕舞い込んだ。
私達はそれからその事には触れないようにしながら頼んでいたスイーツを食べ、嫌がるロミを説き伏せて炉端で売っていた焼き鳥を買い、帰りの馬車の中で食べながら帰った。
夕方、私がシャワーを浴びていると、誰かが部屋に入ってきた。ガラスになっている所から覗くと、オズワルドが疲れた様子でクラバットを外しながらソファにどかりと座り込むのが見える。
私はドアを開けてお風呂から顔を出すと、そんなオズワルドに声をかけた。
「オズワルド! おかえり」
「ん? ああ、ただいま。挨拶など出てからで構わないぞ」
「えー! 言いたいじゃん。新婚さんごっこしたいじゃん!」
「……ごっこ、な」
「お風呂一緒に入る?」
「いや、いい。しっかり浸かれ。風邪引くぞ」
「うん。ありがと」
いつになく優しいオズワルドの言葉に遠慮なく湯船に浸かって温まっていると、突然お風呂のドアが開いた。
「やはり入る。構わないか?」
「もちろん。背中洗ってあげる」
「ああ」
そう言ってオズワルドは一旦閉めてお風呂を出て行った。よほど疲れているのか、何だか元気がない。
しばらくすると、腰にタオルを巻いた状態でオズワルドが入ってきた。
そしてそのまま俯いてガシガシと頭を洗い出す。その光景を見ていつも思う。オズワルドの綺麗な銀髪はあんなにも細くて繊細なのに、そんな雑くて良いのかと。
頭を洗って身体を洗い始めたので、私はいそいそとお風呂から出て自分専用のタオルでオズワルドの背中を洗い出だした。
「悪いな」
「ううん」
一緒にお風呂に入ったら背中を洗うのは私の役目だ。最初はオズワルドも戸惑っていたが、今ではもうすっかり慣れたようだった。
「珍しいな。今日は何もしてこないのか?」
鼻歌を歌いながら背中を洗っていると、ふとオズワルドが言う。
「何だか今日は疲れてるみたいだからさ。たまにはゆっくりしよ」
顔を合わせばすぐに襲いかかっていた私だが、それなりに空気は読む。今日のオズワルドのオーラというか、気配がそんな気分ではないと物語っている。
そんな私にオズワルドは小さく笑った。
「こういう時は良い女なんだがな」
「いっつも良い女だよ! はい、終わり! 入ろ」
「ああ」
湯船にオズワルドが入ったのを見て私はオズワルドの足の間に入ると、そのままオズワルドの胸にもたれかかってオズワルドを見上げる。
「何かあったの?」
「ちょっとな。側室係が問題を起こして大変だったんだ」
「そうなの? 喧嘩とか?」
「そんな所だ。お前の方も災難だったな。大丈夫だったのか?」
「そうだった! お金ありがとう。ドレスも下着も買えたよ。それからスイーツも美味しかった。オズワルドにもスイーツのお土産買ってきたよ!」
「俺に? あれはお前の金だ。自分の為に使え」
「いいじゃん。私のお金をどう使おうと私の自由だもんね!」
イーっと口の端を引っ張ると、そんな私の顔を見てようやくオズワルドが少しだけ笑った。
私達が席につこうとしたその時だ。突然、クレイが険しい顔をして立ち上がったかと思うと、腰から下げていた短剣を引き抜いて何かを横に薙ぎ払ったのだ。
「な、なに!?」
「三人とも、伏せてください!」
そう言ってクレイは通りに出ると、誰かと揉み合っている。
私達は机の下からその光景を見ていたが、やがてクレイは一人の男を捕まえて指笛を吹いた。それと同時に3人の男が素早くクレイに駆け寄り、捕まえた男を通りに止まっていた馬車に連れ込んで去っていってしまう。
「な、なにごと」
流石の私も青ざめてふと後ろを見ると、そこには先程クレイが弾き飛ばしたと思われる長めのナイフが突き刺さっていた。
「ひえっ!」
またナイフか! 私は思わずナイフから距離を取ると、まだ怯えているスノーと流石に青ざめているロミの手を握りしめる。
「大丈夫だよ、もう大丈夫」
「う、うん」
「あ、ありがとうございます。少し落ち着きました」
「ううん。私も落ち着きたかったの。一緒に居てくれてありがとう」
刃物が怖い私だ。今この二人が居なかったらもしかしたら気の一つも失っていたかもしれないが、怯える二人を見たら恐怖などどこかへ行ってしまった。
「ダリア……」
そんな私の言葉にスノーは感動したように抱きついてきて、ロミの眼差しには尊敬のようなものが浮かんでいる。
「私はどうやらあなたの事を誤解していました。ただの色魔ではないのですね」
「ロミちゃん、酷くない?」
苦笑いする私を見て、ロミが初めて笑ってくれた。
「三人とも、怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。クレイさんは?」
「ああ、大丈夫だ」
「そっか、良かった。助けてくれてありがとう。クレイさん」
「礼には及ばない。しかし街中でこんな物を投げてくるなんてな。よほど腕に自信があるようだ」
そう言ってクレイは手早く壁に刺さったナイフを抜いて、丁寧に仕舞い込んだ。
私達はそれからその事には触れないようにしながら頼んでいたスイーツを食べ、嫌がるロミを説き伏せて炉端で売っていた焼き鳥を買い、帰りの馬車の中で食べながら帰った。
夕方、私がシャワーを浴びていると、誰かが部屋に入ってきた。ガラスになっている所から覗くと、オズワルドが疲れた様子でクラバットを外しながらソファにどかりと座り込むのが見える。
私はドアを開けてお風呂から顔を出すと、そんなオズワルドに声をかけた。
「オズワルド! おかえり」
「ん? ああ、ただいま。挨拶など出てからで構わないぞ」
「えー! 言いたいじゃん。新婚さんごっこしたいじゃん!」
「……ごっこ、な」
「お風呂一緒に入る?」
「いや、いい。しっかり浸かれ。風邪引くぞ」
「うん。ありがと」
いつになく優しいオズワルドの言葉に遠慮なく湯船に浸かって温まっていると、突然お風呂のドアが開いた。
「やはり入る。構わないか?」
「もちろん。背中洗ってあげる」
「ああ」
そう言ってオズワルドは一旦閉めてお風呂を出て行った。よほど疲れているのか、何だか元気がない。
しばらくすると、腰にタオルを巻いた状態でオズワルドが入ってきた。
そしてそのまま俯いてガシガシと頭を洗い出す。その光景を見ていつも思う。オズワルドの綺麗な銀髪はあんなにも細くて繊細なのに、そんな雑くて良いのかと。
頭を洗って身体を洗い始めたので、私はいそいそとお風呂から出て自分専用のタオルでオズワルドの背中を洗い出だした。
「悪いな」
「ううん」
一緒にお風呂に入ったら背中を洗うのは私の役目だ。最初はオズワルドも戸惑っていたが、今ではもうすっかり慣れたようだった。
「珍しいな。今日は何もしてこないのか?」
鼻歌を歌いながら背中を洗っていると、ふとオズワルドが言う。
「何だか今日は疲れてるみたいだからさ。たまにはゆっくりしよ」
顔を合わせばすぐに襲いかかっていた私だが、それなりに空気は読む。今日のオズワルドのオーラというか、気配がそんな気分ではないと物語っている。
そんな私にオズワルドは小さく笑った。
「こういう時は良い女なんだがな」
「いっつも良い女だよ! はい、終わり! 入ろ」
「ああ」
湯船にオズワルドが入ったのを見て私はオズワルドの足の間に入ると、そのままオズワルドの胸にもたれかかってオズワルドを見上げる。
「何かあったの?」
「ちょっとな。側室係が問題を起こして大変だったんだ」
「そうなの? 喧嘩とか?」
「そんな所だ。お前の方も災難だったな。大丈夫だったのか?」
「そうだった! お金ありがとう。ドレスも下着も買えたよ。それからスイーツも美味しかった。オズワルドにもスイーツのお土産買ってきたよ!」
「俺に? あれはお前の金だ。自分の為に使え」
「いいじゃん。私のお金をどう使おうと私の自由だもんね!」
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