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「嫌だわ、聞いた? 学者ですって!」
「女が学者なんて! そりゃサキュバスと親しくなるわね」
そこら中から笑い声が上がる。そんな中、一人の女の子が机を叩いて立ち上がった。驚いてそちらを見ると、そこにはあのロミが怖い顔をして立っている。
そしてツカツカと自分のお皿を持ってやってきて、ドカリとスノーの隣に腰掛ける。
「私もご一緒しても?」
「いや、もう座ってんじゃん!」
思わず突っ込むと、ロミがギロリと睨んでくる。
「何か問題でも?」
「ないけど……まぁ、ありがと。助かったよ」
「別に。あなたを助けたわけじゃありませんから。私は彼女の話をもっと聞きたかっただけです」
そう言ってロミはちらりとスノーを見た。そんなロミにスノーは完全に怯えきっている。
「ほらほら、仲良くだよ。まずは自己紹介して」
「私は知ってますよ。スノーさんでしょう? お父様は有名な鉱物学者です」
「わ、私も知ってます。ロミさん、ですよね? いつも辞書を持ち歩いてるってオリガさんが……」
「ええ。私の夢は教師なので」
「こっちもすごっ! 志が高い!」
思わず私が声を上げると、ロミは少しだけ頬を赤く染める。どうやら彼女はただのツンデレのようだ。
「あなたの夢は何なのですか?」
「私? 私は腹上死することだよ。皆の言う通り、サキュバスだからね」
にっこり笑ってそんな事を言う私を見て、ロミとスノーは持っていたパンを落とし、食堂はシンと静まり返った。
「大丈夫。女の子には手を出さないから」
「……そういう問題ではないと思います」
「ダリアはやっぱり変わってるのね……」
「色々好きな事我慢してたら後悔するからね。どんな夢でも夢は夢。違う?」
「いい感じにまとめようとしても無理ですよ。あなたの夢は相当変わっています」
「お、応援したいけど、それを応援したらダリア死んじゃうって事だよね……? そんなの嫌だから応援は出来ないかもしれない……」
冷たいロミとは違ってそんな事を言う可愛いスノーに私はニコニコしながら頷いて、引きつる二人を他所に皆の倍はあるオムレツを完食したのだった。
食堂を出てオズワルドの部屋へ戻ろうとすると、ふとスノーが私の袖を引いた。そして躊躇いがちに尋ねてくる。
「あの、街にはその、いつ行く?」
「お化粧したいから30分後にロビーで待ち合わせでどう?」
私が答えると、スノーは嬉しそうに笑って頷いた。それを隣で聞いていたロミが首を傾げる。
「二人でどこか行くのですか?」
「うん。そだ! ロミも行く?」
「もう呼び捨てですか?」
「え、駄目だった? じゃあロミちゃんね。私はダリアで良いよ」
「わ、私もスノーで、その、いいよ」
「……まぁいいです。で、どこへ行くんです? 私も行っていいんですか? 丁度ノートが無くなりそうなんです」
「もちろんだよ! 行こ行こ! オズワルドから軍資金貰ったんだ! 買い物してカフェ行ってスイーツ食べよ!」
喜んでそんな事を言う私を見てロミが目を丸くして私を凝視してくる。
「あ、あなた王を呼び捨てにしているのですか!?」
「うん。だって別に嫌がらないんだもん。もう慣れたとか言うし」
「……大物の予感がしてきましたね」
「私も、ダリアは大物だと思う……」
こうして無表情で震えるロミと分かりやすく青ざめるスノーと別れて、私はオズワルドの部屋へ戻った。
それから30分後。ロビーに集まった私達を見てオリガが目を細める。
「三人で行くの?」
「はい!」
元気に返事をすると、オリガはさらに嬉しそうに笑って頷いて言う。
「そうなの。けどもうちょっと待ってね。さっき王から連絡があって、用心棒を用意したから連れて行かせろって」
「用心棒?」
「ええ。あ、到着したみたいよ」
そう言ってオリガはステンドグラスのドアの外を指さした。そこには華美ではないけれど一目で良い馬車だと分かる馬車が止まっている。
「それじゃあ行ってらっしゃい。気をつけてね」
「は~い! 行こ、二人共」
「ええ」
「う、うん」
私達がサロンを出て馬車に向かうと、馬車の中から見覚えがありすぎる人物が降りてきた。
「あっれ~! 監視役さんじゃん!」
「よう! そういや名乗ってなかったが、俺の名前はクレイだ。騎士団の副団長なんだ。とりあえず移動しよう」
さらっと説明をされて私は思わずクレイを二度見した。
「そうなの!? めっちゃ位高いんじゃん! ていうか、副団長が何で戦争に参加してなかったの?」
馬車に乗り込みながら私が質問すると、クレイは苦笑いを浮かべる。
「万が一の時の為の俺は控えだったんだ。別にサボってた訳じゃないぞ」
「なるほど。あ! 紹介するね! こっちがスノーで、こっちがロミちゃん。やっと友達が出来たんだよぉ~!」
皆にハブられていた私が思わず涙目で言うと、クレイは苦笑いを浮かべる。
「女が学者なんて! そりゃサキュバスと親しくなるわね」
そこら中から笑い声が上がる。そんな中、一人の女の子が机を叩いて立ち上がった。驚いてそちらを見ると、そこにはあのロミが怖い顔をして立っている。
そしてツカツカと自分のお皿を持ってやってきて、ドカリとスノーの隣に腰掛ける。
「私もご一緒しても?」
「いや、もう座ってんじゃん!」
思わず突っ込むと、ロミがギロリと睨んでくる。
「何か問題でも?」
「ないけど……まぁ、ありがと。助かったよ」
「別に。あなたを助けたわけじゃありませんから。私は彼女の話をもっと聞きたかっただけです」
そう言ってロミはちらりとスノーを見た。そんなロミにスノーは完全に怯えきっている。
「ほらほら、仲良くだよ。まずは自己紹介して」
「私は知ってますよ。スノーさんでしょう? お父様は有名な鉱物学者です」
「わ、私も知ってます。ロミさん、ですよね? いつも辞書を持ち歩いてるってオリガさんが……」
「ええ。私の夢は教師なので」
「こっちもすごっ! 志が高い!」
思わず私が声を上げると、ロミは少しだけ頬を赤く染める。どうやら彼女はただのツンデレのようだ。
「あなたの夢は何なのですか?」
「私? 私は腹上死することだよ。皆の言う通り、サキュバスだからね」
にっこり笑ってそんな事を言う私を見て、ロミとスノーは持っていたパンを落とし、食堂はシンと静まり返った。
「大丈夫。女の子には手を出さないから」
「……そういう問題ではないと思います」
「ダリアはやっぱり変わってるのね……」
「色々好きな事我慢してたら後悔するからね。どんな夢でも夢は夢。違う?」
「いい感じにまとめようとしても無理ですよ。あなたの夢は相当変わっています」
「お、応援したいけど、それを応援したらダリア死んじゃうって事だよね……? そんなの嫌だから応援は出来ないかもしれない……」
冷たいロミとは違ってそんな事を言う可愛いスノーに私はニコニコしながら頷いて、引きつる二人を他所に皆の倍はあるオムレツを完食したのだった。
食堂を出てオズワルドの部屋へ戻ろうとすると、ふとスノーが私の袖を引いた。そして躊躇いがちに尋ねてくる。
「あの、街にはその、いつ行く?」
「お化粧したいから30分後にロビーで待ち合わせでどう?」
私が答えると、スノーは嬉しそうに笑って頷いた。それを隣で聞いていたロミが首を傾げる。
「二人でどこか行くのですか?」
「うん。そだ! ロミも行く?」
「もう呼び捨てですか?」
「え、駄目だった? じゃあロミちゃんね。私はダリアで良いよ」
「わ、私もスノーで、その、いいよ」
「……まぁいいです。で、どこへ行くんです? 私も行っていいんですか? 丁度ノートが無くなりそうなんです」
「もちろんだよ! 行こ行こ! オズワルドから軍資金貰ったんだ! 買い物してカフェ行ってスイーツ食べよ!」
喜んでそんな事を言う私を見てロミが目を丸くして私を凝視してくる。
「あ、あなた王を呼び捨てにしているのですか!?」
「うん。だって別に嫌がらないんだもん。もう慣れたとか言うし」
「……大物の予感がしてきましたね」
「私も、ダリアは大物だと思う……」
こうして無表情で震えるロミと分かりやすく青ざめるスノーと別れて、私はオズワルドの部屋へ戻った。
それから30分後。ロビーに集まった私達を見てオリガが目を細める。
「三人で行くの?」
「はい!」
元気に返事をすると、オリガはさらに嬉しそうに笑って頷いて言う。
「そうなの。けどもうちょっと待ってね。さっき王から連絡があって、用心棒を用意したから連れて行かせろって」
「用心棒?」
「ええ。あ、到着したみたいよ」
そう言ってオリガはステンドグラスのドアの外を指さした。そこには華美ではないけれど一目で良い馬車だと分かる馬車が止まっている。
「それじゃあ行ってらっしゃい。気をつけてね」
「は~い! 行こ、二人共」
「ええ」
「う、うん」
私達がサロンを出て馬車に向かうと、馬車の中から見覚えがありすぎる人物が降りてきた。
「あっれ~! 監視役さんじゃん!」
「よう! そういや名乗ってなかったが、俺の名前はクレイだ。騎士団の副団長なんだ。とりあえず移動しよう」
さらっと説明をされて私は思わずクレイを二度見した。
「そうなの!? めっちゃ位高いんじゃん! ていうか、副団長が何で戦争に参加してなかったの?」
馬車に乗り込みながら私が質問すると、クレイは苦笑いを浮かべる。
「万が一の時の為の俺は控えだったんだ。別にサボってた訳じゃないぞ」
「なるほど。あ! 紹介するね! こっちがスノーで、こっちがロミちゃん。やっと友達が出来たんだよぉ~!」
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