冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

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 満面の笑みで両手を広げた私とは違い、オズワルドが部屋の中を見て息を呑む。



「……お前……また荒らされているが……」

「えっ⁉️ ぎゃーーーー!!!」



 オズワルドの一言に振り向いた私は、部屋の中を見て思わず叫んだ。可愛かったベッドもシーツもクローゼットの中の物すらズタズタに切り裂かれ、ランプは割られている。



「本当にどこまでもトラブルに見舞われる女だな」

「ひ……酷くない?」

「とりあえずこれはオリガに報告だ」

「うっ……さようなら……私のマイルーム……夢のマイルーム……」

「それで、今回は全財産は無事なのか?」



 オズワルドが部屋に入って散乱した物を見渡しながら言うので、私は急いでクローゼットの中を引っくり返して愕然とする。



「また無い……」



 涙目で振り向いた私を見てオズワルドはため息を落とす。



「またか。ついでにこっちもまた、だな」



 そう言ってオズワルドが指さした先にはシーツに不自然な刺し痕がある。



「まさか、また刺殺されそうに……?」

「そのまさかだろ、この痕は。お前、刺殺される運命を持つ魂なのか?」

「や、止めてよ縁起でもない! 私は腹上死するの!」

「それもどうかと思うが……お前はもうこれから俺の部屋を使え。あそこなら流石に誰も荒らしに来ないだろう」

「またオズワルドのお世話になるのか……」

「俺の部屋なら毎日カクテル飲み放題だぞ」

「行く」

「よし。では戻るぞ。大事な、というか無事な物は持ってこい」

「うん!」



 私はいつかのようにかろうじて無事だったドレスと下着を一枚ずつ握りしめてオズワルドの後に続いたのだった。



 ロビーに行くと、そこではスノーとアーノルド、そしてオリガがロビーにあるテーブルを囲んで談笑していた。



「あれ? まだこんな所に居るの?」



 私が声をかけるとスノーがホッとしたように振り向き、私の隣に居るオズワルドを見て固まった。



「あ、ダリ――お、王⁉️ こ、こんな格好で失礼致します。スノーと申します」

「ああ」



 簡潔なオズワルドの返事にスノーは泣きそうな顔をしているが、ふとオリガが私が握りしめている物を見て首を傾げた。



「あらダリアちゃん、どうしてドレスを持っているの?」

「それが……」



 項垂れて涙を擦った私の後ろからオズワルドが冷たい声で言う。



「こいつの部屋が荒らされていた。誰も外に出すな」

「えっ⁉️」



 その声に驚いたのはスノーだけだ。オリガは神妙な顔をして頷き、すぐさま電話をかけに行く。



「大丈夫なの? サキュバスちゃん。別の部屋用意してもらう?」



 心配そうに尋ねてきたアーノルドにオズワルドは首を振った。



「いや、いい。こいつは俺の部屋に移す。ダリア、犯人が見つかるまでお前はまた俺専属だ。いいな?」

「またぁ⁉️」



 思わず表情を歪めた私を見てアーノルドは引きつり、スノーは青ざめて震えているが、当の本人はもう慣れたものだ。



「刺殺されたいと言うのなら止めはしないが」

「分かった。オズだけでいい。わがまま言わない」

「よし」

「……はぁ……オズワルド、いつか返すからパンツ買って……」



 私の突然な金銭の要求に皆はギョッとしたような顔をするが、オズワルドだけは当然だとでも言わんばかりに頷く。



「ああ。用意しておこう。オリガ、ついでに警護の者達を呼んですぐにこいつの部屋を調べさせてくれ」

「はい」

「アル、お前はそちらの件を頼む」

「分かってるよ。それじゃあサキュバスちゃん、おやすみ。スノーさん、僕の部屋に行って続きを聞かせてくれる?」

「は、はい! あの、ダリア、その……」



 スノーがアーノルドの側から離れて子兎のように震えながら寄ってきた。どうやらオズワルドが怖いようだ。



 私はオズワルドから少しだけ距離を取ってスノーに近寄ると、スノーはビクビクしながら顔を真っ赤にして言う。



「あの、下着、無いんだったらその、明日にでもその、お買い物にい、行かない?」

「え?」

「い、嫌だったらいいの! ダリアはきっと王都をまだ観光してないのかなって、昨日あれからずっと考えてて、だから私、誘ってみようかってその……」

「それはめちゃくちゃ嬉しい! 行こ! 可愛い下着探すの手伝って! は! お金!」



 遊びに行こうと誘われた事が嬉しくて思わず二言返事をした私だったが、ふと全財産を盗まれた事を思い出してしまった。



 その時、後ろからスッと手が伸びてくる。



「これを使え。スノーと言ったか」

「は、はい」

「こいつを頼む。往来でおかしな事を言いだしたらとりあえず甘いものでも食わせておけ。もちろんお前も食べるんだぞ」



 そう言って手渡されたのは金貨が2枚だ。それを見て私は思わず震え上がる。



「都会のスイーツ高すぎじゃない!? 金貨2枚分もすんの!?」

「そんな訳あるか! お前の下着代とドレス代も込みだ!」

「あ、ああ……びっくりした……こんな大金、返すのに何十年かかんのよ……」

「別に返さなくてもいい。どうせお前を抱く度に俺が払う金だ」



 それを聞いて途端に心が軽くなる。
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