冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

文字の大きさ
上 下
36 / 58

36

しおりを挟む
 オズワルドが鍵を開けて中に入ると、皆でぞろぞろと部屋の中に入った。



「好きな所に座れ。おいダリア、人数分の茶と菓子の注文をしてくれ」

「はぁい」



 言われていそいそと電話をして待っていると、しばらくして焼き立てのパイとお茶が運ばれてきた。



「さて、で、話を聞こうじゃないか」

「うん! 実はね――」



 私がスノーから聞いた話をかいつまんで二人に説明すると、横からオリガが抜けている所を補ってくれる。



「なるほど。で、お前はいつからそんな世話焼きになったんだ?」

「私だってね、そりゃ初めて出来たっぽい友達の秘密をこんな風にバラしたくないよ。でもさ、何か変じゃない?」

「変?」

「そうだよ。だってスノーは大洪水の後に何通も国に手紙送ってるんだよ? それなのに返事が一通も来なかったってさ、変でしょ? オズワルドがそんなの放っておくとは思えないんだよ」

「そうか? 俺は冷酷王と呼ばれている。小さな領地が消えるぐらい痛くも痒くもないが」

「いやいや、戦争の時に街行って楽しそうにしてたじゃん! あんな顔する人がたとえ小さな町でも無くなるの許さないでしょ」



 私の言葉にオズワルドはフンと鼻を鳴らし、オリガは驚いたような顔をしてアーノルドは頷いている。



「それはそう。オズはこう見えて国民の事は大事にしてるからね。ちなみに言うと、なんて町?」

「知らない」

「え?」

「だから、聞くの忘れたの」

「……お前は馬鹿か。この国に領地はいくつあると思ってるんだ?」

「それも知らない。記憶喪失だから」

「救いようがないな。名前はスノーだったか? 名字は」

「もう無いって言って名乗ってくれなかった。でもここへ来たのは半年ぐらい前って言ってたよ」

「オリガも聞いてないのか?」

「私が彼女について知っているのは紹介状に書かれていた元子爵家という事と、スノー・アミルトンという名前、それから本人からの話しか……でも、それは改めた方が良いかもしれません……」

「そうだな。このサロンは完全に紹介制だ。怪しい者はここで勤める事は出来ない。元々は自分の為に作ったサロンだったが、いつの間にかその目的も変わっている。ここで勤務する者達の背景を今後は調べてくれ」

「畏まりました」



 そう言って深々と頭を下げたオリガにオズワルドは頷くと、ちらりとアーノルドを見た。



「何か分かるか?」

「アミルトンという名前と子爵家という事だけでは分からないけど、半年前でしょ? そう言えば西で大洪水があったっていう情報はあった気がするね。でも嘆願書なんて一通も届いてないけどな」

「ほら! 変でしょ⁉️」



 思わず私は机にドン! と手を叩きつけると、すぐさまオズワルドに窘められた。



「落ち着け。宰相の手に渡っていないという事は、そこに届くまでに誰かが揉み消したということか」

「スノーさんの話が本当ならね。サキュバスちゃん、君の頼みを聞くよ。もしかしたら何かに繋がるかも知れない」

「何か起こってるの?」



 思わず私が問いかけると、アーノルドは爽やかな顔をして首を振る。



「何も。でも何か起こってからじゃ困るからさ。オリガさん、スノーさんを指名してもらえるかな?」

「はい、畏まりました」



 そう言ってオリガは立ち上がり、ちらりと私を見てオズワルドを見る。そんなオリガを見てオズワルドが言った。



「こいつはここへ置いて行ってくれ。お礼をいっぱいしてくれるんだろう?」

「もちろん! そうだ! 私の部屋貰ったんだよ! 見に来る⁉️」

「いや、別に――」

「まぁまぁそう言わず! めちゃくちゃ可愛いんだから! ついでにしよ! 部屋見ながら色々考えてたんだぁ!」

「……お前には何と言うか、恥じらいとか情緒とかそういうのは無いのか?」

「滅多に無いかな」

「だろうな。そういう訳だ。二人共出てくれ」



 呆れたオズワルドが真っ先に部屋を飛び出した私の後からついてきて、まだ部屋の中でポカンとしているオリガとアーノルドに言うと、二人は呆気に取られたような顔をして部屋を出てきた。



 四人でロビーまで戻ると、アーノルドにこのお礼は必ずするからと言ってそこで別れてオズワルドの手を引いて自室に向かう。



「そんなに可愛い部屋を貰ったのか」

「もうね、凄いよ! 私の住んでたとことかテントなんて比べ物にならないよ!」

「そうか。良かったな」

「うん! こんな所で暮らせておまけにやりたい放題だなんて、ここ天国だよね⁉️」

「お前にとってはな。だが他の者にとってはここは地獄だ。お前、ハブられてるだろ」



 あけすけなオズワルドの言葉に私はぐるりと振り返って、オズワルドの鼻先に指を突きつけた。



「今だけだよ! 私はここのヌシになるもんね! 今生でもビッチ先輩って呼ばれてみせるから!」

「……志が高いのか低いのかよく分からないな」



 やがて部屋に辿り着いた私は、ドアを開けて両手を広げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死神令嬢は年上幼馴染からの淫らな手解きに甘く溶かされる

鈴屋埜猫
恋愛
男爵令嬢でありながら、時に寝食も忘れ日々、研究に没頭するレイネシア。そんな彼女にも婚約者がいたが、ある事件により白紙となる。 そんな中、訪ねてきた兄の親友ジルベールについ漏らした悩みを克服するため、彼に手解きを受けることに。 「ちゃんと教えて、君が嫌ならすぐ止める」 優しい声音と指先が、レイネシアの心を溶かしていくーーー

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

向日葵ー靖子ー

絵麻
恋愛
 戦争で夫を失くした一ヶ月後、愛娘の純夏とはぐれた。  失意のどん底にいる靖子を、友人のアメリカ人・パトリックはずっと愛していたことを告げ、二人は結ばれる。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...