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オズワルドが鍵を開けて中に入ると、皆でぞろぞろと部屋の中に入った。
「好きな所に座れ。おいダリア、人数分の茶と菓子の注文をしてくれ」
「はぁい」
言われていそいそと電話をして待っていると、しばらくして焼き立てのパイとお茶が運ばれてきた。
「さて、で、話を聞こうじゃないか」
「うん! 実はね――」
私がスノーから聞いた話をかいつまんで二人に説明すると、横からオリガが抜けている所を補ってくれる。
「なるほど。で、お前はいつからそんな世話焼きになったんだ?」
「私だってね、そりゃ初めて出来たっぽい友達の秘密をこんな風にバラしたくないよ。でもさ、何か変じゃない?」
「変?」
「そうだよ。だってスノーは大洪水の後に何通も国に手紙送ってるんだよ? それなのに返事が一通も来なかったってさ、変でしょ? オズワルドがそんなの放っておくとは思えないんだよ」
「そうか? 俺は冷酷王と呼ばれている。小さな領地が消えるぐらい痛くも痒くもないが」
「いやいや、戦争の時に街行って楽しそうにしてたじゃん! あんな顔する人がたとえ小さな町でも無くなるの許さないでしょ」
私の言葉にオズワルドはフンと鼻を鳴らし、オリガは驚いたような顔をしてアーノルドは頷いている。
「それはそう。オズはこう見えて国民の事は大事にしてるからね。ちなみに言うと、なんて町?」
「知らない」
「え?」
「だから、聞くの忘れたの」
「……お前は馬鹿か。この国に領地はいくつあると思ってるんだ?」
「それも知らない。記憶喪失だから」
「救いようがないな。名前はスノーだったか? 名字は」
「もう無いって言って名乗ってくれなかった。でもここへ来たのは半年ぐらい前って言ってたよ」
「オリガも聞いてないのか?」
「私が彼女について知っているのは紹介状に書かれていた元子爵家という事と、スノー・アミルトンという名前、それから本人からの話しか……でも、それは改めた方が良いかもしれません……」
「そうだな。このサロンは完全に紹介制だ。怪しい者はここで勤める事は出来ない。元々は自分の為に作ったサロンだったが、いつの間にかその目的も変わっている。ここで勤務する者達の背景を今後は調べてくれ」
「畏まりました」
そう言って深々と頭を下げたオリガにオズワルドは頷くと、ちらりとアーノルドを見た。
「何か分かるか?」
「アミルトンという名前と子爵家という事だけでは分からないけど、半年前でしょ? そう言えば西で大洪水があったっていう情報はあった気がするね。でも嘆願書なんて一通も届いてないけどな」
「ほら! 変でしょ⁉️」
思わず私は机にドン! と手を叩きつけると、すぐさまオズワルドに窘められた。
「落ち着け。宰相の手に渡っていないという事は、そこに届くまでに誰かが揉み消したということか」
「スノーさんの話が本当ならね。サキュバスちゃん、君の頼みを聞くよ。もしかしたら何かに繋がるかも知れない」
「何か起こってるの?」
思わず私が問いかけると、アーノルドは爽やかな顔をして首を振る。
「何も。でも何か起こってからじゃ困るからさ。オリガさん、スノーさんを指名してもらえるかな?」
「はい、畏まりました」
そう言ってオリガは立ち上がり、ちらりと私を見てオズワルドを見る。そんなオリガを見てオズワルドが言った。
「こいつはここへ置いて行ってくれ。お礼をいっぱいしてくれるんだろう?」
「もちろん! そうだ! 私の部屋貰ったんだよ! 見に来る⁉️」
「いや、別に――」
「まぁまぁそう言わず! めちゃくちゃ可愛いんだから! ついでにしよ! 部屋見ながら色々考えてたんだぁ!」
「……お前には何と言うか、恥じらいとか情緒とかそういうのは無いのか?」
「滅多に無いかな」
「だろうな。そういう訳だ。二人共出てくれ」
呆れたオズワルドが真っ先に部屋を飛び出した私の後からついてきて、まだ部屋の中でポカンとしているオリガとアーノルドに言うと、二人は呆気に取られたような顔をして部屋を出てきた。
四人でロビーまで戻ると、アーノルドにこのお礼は必ずするからと言ってそこで別れてオズワルドの手を引いて自室に向かう。
「そんなに可愛い部屋を貰ったのか」
「もうね、凄いよ! 私の住んでたとことかテントなんて比べ物にならないよ!」
「そうか。良かったな」
「うん! こんな所で暮らせておまけにやりたい放題だなんて、ここ天国だよね⁉️」
「お前にとってはな。だが他の者にとってはここは地獄だ。お前、ハブられてるだろ」
あけすけなオズワルドの言葉に私はぐるりと振り返って、オズワルドの鼻先に指を突きつけた。
「今だけだよ! 私はここのヌシになるもんね! 今生でもビッチ先輩って呼ばれてみせるから!」
「……志が高いのか低いのかよく分からないな」
やがて部屋に辿り着いた私は、ドアを開けて両手を広げた。
「好きな所に座れ。おいダリア、人数分の茶と菓子の注文をしてくれ」
「はぁい」
言われていそいそと電話をして待っていると、しばらくして焼き立てのパイとお茶が運ばれてきた。
「さて、で、話を聞こうじゃないか」
「うん! 実はね――」
私がスノーから聞いた話をかいつまんで二人に説明すると、横からオリガが抜けている所を補ってくれる。
「なるほど。で、お前はいつからそんな世話焼きになったんだ?」
「私だってね、そりゃ初めて出来たっぽい友達の秘密をこんな風にバラしたくないよ。でもさ、何か変じゃない?」
「変?」
「そうだよ。だってスノーは大洪水の後に何通も国に手紙送ってるんだよ? それなのに返事が一通も来なかったってさ、変でしょ? オズワルドがそんなの放っておくとは思えないんだよ」
「そうか? 俺は冷酷王と呼ばれている。小さな領地が消えるぐらい痛くも痒くもないが」
「いやいや、戦争の時に街行って楽しそうにしてたじゃん! あんな顔する人がたとえ小さな町でも無くなるの許さないでしょ」
私の言葉にオズワルドはフンと鼻を鳴らし、オリガは驚いたような顔をしてアーノルドは頷いている。
「それはそう。オズはこう見えて国民の事は大事にしてるからね。ちなみに言うと、なんて町?」
「知らない」
「え?」
「だから、聞くの忘れたの」
「……お前は馬鹿か。この国に領地はいくつあると思ってるんだ?」
「それも知らない。記憶喪失だから」
「救いようがないな。名前はスノーだったか? 名字は」
「もう無いって言って名乗ってくれなかった。でもここへ来たのは半年ぐらい前って言ってたよ」
「オリガも聞いてないのか?」
「私が彼女について知っているのは紹介状に書かれていた元子爵家という事と、スノー・アミルトンという名前、それから本人からの話しか……でも、それは改めた方が良いかもしれません……」
「そうだな。このサロンは完全に紹介制だ。怪しい者はここで勤める事は出来ない。元々は自分の為に作ったサロンだったが、いつの間にかその目的も変わっている。ここで勤務する者達の背景を今後は調べてくれ」
「畏まりました」
そう言って深々と頭を下げたオリガにオズワルドは頷くと、ちらりとアーノルドを見た。
「何か分かるか?」
「アミルトンという名前と子爵家という事だけでは分からないけど、半年前でしょ? そう言えば西で大洪水があったっていう情報はあった気がするね。でも嘆願書なんて一通も届いてないけどな」
「ほら! 変でしょ⁉️」
思わず私は机にドン! と手を叩きつけると、すぐさまオズワルドに窘められた。
「落ち着け。宰相の手に渡っていないという事は、そこに届くまでに誰かが揉み消したということか」
「スノーさんの話が本当ならね。サキュバスちゃん、君の頼みを聞くよ。もしかしたら何かに繋がるかも知れない」
「何か起こってるの?」
思わず私が問いかけると、アーノルドは爽やかな顔をして首を振る。
「何も。でも何か起こってからじゃ困るからさ。オリガさん、スノーさんを指名してもらえるかな?」
「はい、畏まりました」
そう言ってオリガは立ち上がり、ちらりと私を見てオズワルドを見る。そんなオリガを見てオズワルドが言った。
「こいつはここへ置いて行ってくれ。お礼をいっぱいしてくれるんだろう?」
「もちろん! そうだ! 私の部屋貰ったんだよ! 見に来る⁉️」
「いや、別に――」
「まぁまぁそう言わず! めちゃくちゃ可愛いんだから! ついでにしよ! 部屋見ながら色々考えてたんだぁ!」
「……お前には何と言うか、恥じらいとか情緒とかそういうのは無いのか?」
「滅多に無いかな」
「だろうな。そういう訳だ。二人共出てくれ」
呆れたオズワルドが真っ先に部屋を飛び出した私の後からついてきて、まだ部屋の中でポカンとしているオリガとアーノルドに言うと、二人は呆気に取られたような顔をして部屋を出てきた。
四人でロビーまで戻ると、アーノルドにこのお礼は必ずするからと言ってそこで別れてオズワルドの手を引いて自室に向かう。
「そんなに可愛い部屋を貰ったのか」
「もうね、凄いよ! 私の住んでたとことかテントなんて比べ物にならないよ!」
「そうか。良かったな」
「うん! こんな所で暮らせておまけにやりたい放題だなんて、ここ天国だよね⁉️」
「お前にとってはな。だが他の者にとってはここは地獄だ。お前、ハブられてるだろ」
あけすけなオズワルドの言葉に私はぐるりと振り返って、オズワルドの鼻先に指を突きつけた。
「今だけだよ! 私はここのヌシになるもんね! 今生でもビッチ先輩って呼ばれてみせるから!」
「……志が高いのか低いのかよく分からないな」
やがて部屋に辿り着いた私は、ドアを開けて両手を広げた。
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