冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

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「王を呼び捨て? ありえない」

「でも本人が良いって言ったんだもん。もう慣れたって」

「オズが?」

「うん」



 私の答えを聞いてアーノルドは何か思う所があるのか、口元に手を当てて考え込む。



「一つ聞いてもいいかな?」

「なぁに?」

「君はオズの事をどう思ってるの?」

「どうって?」

「どういう人だと思ってるのって事。世間での彼の評判は冷酷王だよ。でも君の口調からするとオズの事をそんな風には思ってないよね?」

「冷酷だとは思わないかな。私が毒飲んだ時も腕切りつけられて首締められた時も助けてくれたし、全財産盗まれた時だって建て替えてくれたし、戦争で行った街で暴漢から守ってくれたし、買い食いにも付き合ってくれたし、昨日は部屋でバーごっこしたよ」

「……あいつ、そんな事してたの?」

「うん。凄く良い人!」



 何だかんだ言っていつも最後まできちんと付き合ってくれるオズワルドだ。そんな人が冷酷な人だとは到底思えない。



「あとさ、君不幸な事が起こりすぎじゃない?」

「まぁ目が覚めた瞬間から同僚に騙されたような女だからね。もう何が来ても驚かないよ」

「そっか。なるほど。オズからしたら君は異色なのかもしれないな」

「異色?」

「そう。記憶を失っているから自分の事を全く知らない人な訳じゃないか。だから素でいられるのかなと思ったんだよ。普段はどこへ行っても冷酷王を貫かないといけないからね」

「言われてみれば皆、怖がってた。チキンカツ持って齧ってるだけで慄いてたもん」

「はは! それは僕もちょっと見たかったけどね。今度誘ってみようか」

「うん、そうしてあげて。あの人孤独すぎるよ。ちょっと可哀想。暇さえあれば何か険しい顔して難しい本読んでるんだもん」

「そうするよ。でもオズは元々読書家なんだ。彼はジャンル問わず何でも読むからね。それにしても君は気安いね」

「それもオズワルドに言われた!」



 もうすっかり敬語を使うのも止めた私を見て、アーノルドは呆れたような顔をして肩を竦める。



「さて、それじゃあ僕はそろそろ失礼するよ」

「もう帰っちゃうの?」

「ああ。明日も仕事だからね。僕が今日ここへ来たのは、本当に君に確認したい事があっただけなんだ」



 そこまで言ってアーノルドは深い溜め息をつくと、ちらりと私を見る。



「それがまさかあんな事になるとは思ってもいなかった。すっかり予定よりも遅くなってしまったじゃないか」

「それはごめんなさい。これに懲りずにまた来てね!」



 アーノルドと一緒に部屋を出た私が笑顔でアーノルドに言うと、アーノルドは苦笑いを浮かべる。



「まぁ、気が向いたらね。それじゃあおやすみ。サキュバスさん」

「ダリアだよ!」

「はは!」



 思わず叫んだ私を見て、アーノルドは振り返りもせずに手だけ振って行ってしまった。

  

 私はアーノルドとの一件が終わった後、オリガの元へ向かい今日の報告をした。



「宰相様はどうだった? 随分時間がかかったのね」

「何だか子兎みたいで可愛かったです!」

「……その報告は初めてね。宰相さまはああ見えてなかなか気難しい方なのよ。今までもほとんどそういう目的でここへ来られた事無かったんだけど、お相手してもらえたの?」

「お相手してもらえたっていうか、無理やりそう仕向けた感じです!」



 ハキハキと言う私を見てオリガは呆れたような顔をして頷く。



「あなた本当にただ寝るのが好きなだけなのね」

「はい!」

「……頼もしい限りだわ。それから王からさっき連絡があったわ。部屋に戻ったら電話してこい、だそうよ。あなた王の部屋の番号を知ってるの?」

「はい。でもなんだろう」



 何かしたか? そう思いながら首を傾げるとオリガは少し戸惑ったように言った。



「分からないけれど急ぎでは無さそうだったわ。それから今日はもうこの後は休んでいいわよ」

「そうですか。分かりました。連絡してみます。ありがとうございます!」



 私はオリガと別れて部屋に戻ると、いそいそとオズワルドに電話をかけた。



 しばらくして呼び出し音が鳴り、三回目の呼び出し音が鳴ったと思ったらようやくオズワルドに繋がる。



『遅かったじゃないか』

「オズワルド! どうしたの? 何か用事?」

『用事という程ではないが、今日、そっちに宰相が行っただろう?』

「ああ、アーノルドさんね。来た来た。さっき帰ったよ」

『……さっき?』

「うん! 何か、こんなはずじゃなかったって嘆いてた」



 正直に伝えると、急にオズワルドが黙り込んでしまう。そして一拍置いて、不機嫌そうな声が聞こえてくる。
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