冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

文字の大きさ
上 下
30 / 58

30

しおりを挟む
 それからしばらくして――。

 

 私は宰相の部屋の中で、爽やかイケメンに壁ドンされていた。



「えっとー……はじめまして」



 宰相は私を見下ろし、柔和に微笑みながら尋ねてくる。



「はい、はじめまして。名前は?」

「ダリア(仮)です」

「(仮)って?」

「記憶喪失なので。本名かどうかは分かりません」

「そうなんだ。年齢は?」

「20代前半ぐらい?」

「うん、で、慰み者からこのサロンへの就職希望をした理由は?」

「色んな人とセックスしたいから」

「……なるほど。それ以外の理由は?」

「それ以外に理由、あります?」



 宰相は私の質問にとうとう黙り込むと何故か大きなため息を落とし、私から離れた。



「聞いてた通りだし、調べた通りみたいだね。あ、宰相のアーノルドだよ。王とは主従関係でもあるけど、友人でもあるんだ」

「そうなんですね。あの人、友達居るんだ……」



 思わず素直な感想を言った私に、アーノルドは苦笑いを浮かべる。



「あまりレディの事を根掘り葉掘り調べたりするのは嫌なんだけど、君のことは流石に色々と調べさせてもらったよ。まずは一旦座ろうか」

「はい」



 一見気安そうに見えるアーノルドだが、さっきから目の奥が少しも笑っていない。アーノルドに従って勧められるがままソファに座ると、アーノルドは長い脚を組んで大きなため息を落とした。



「まず初めに、王が慰み者をここに連れて来たのは初めてなんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。そもそもこの三年間、王は誰も抱かなかった。それは知っているよね?」

「はい」

「けれど今回から王は何故かまた女性を抱きだした。その理由を君は知っている?」

「それはお客様の守秘義務に反するのでお教えできません」



 きっぱりと言いきった私を見て、アーノルドは深く頷く。



「……なるほど。では、知っているということだね」



 何かを探るように尋ねてくるアーノルドに、私は頷いた。



「もちろん」

「随分と潔いね。すぐに認めるんだ」

「だって、ここで嘘ついても私に何の利益もありませんから」

「欲が無いね。それで王を脅すなり何なりすれば良いのに」

「脅す? そんな事しなくても王はちゃんと朝まで抱いてくれますよ?」

「うん?」

「ん?」



 私の答えが想定外だったのか、アーノルドの顔が引きつる。



「えっと、脅すって言うのは、いわゆる金品をせびるとかそういうのなんだけど」

「金品だけあってもセックス出来ませんから。私、誰かを買いたいんじゃないんです。誰かに買われたいんです」

「……ん?」

「これは私の単なるこだわりなんですけど、お金ってそんなにいらなくて、ただ腹上死したいんですよね。今度こそ」

「えっとー……何を言っているのかな?」

「脅さない理由、金銭を要求しない理由を話しています」

「そ、そうなの?」

「はい。誰かから聞いてるかもしれませんけど、私、記憶喪失で前世の記憶があるんです。その時、死因が刺殺だったんですよ。で、目が覚めたらこの世界に居て、奇しくも同じような仕事をしてた。だからこれは神様から私へのプレゼントだって思ったんです。だって前世の夢だった腹上死が、もしかしたらこの世界で叶うかもしれないじゃないですか」



 熱く語る私を見るアーノルドの目が、どんどん冷たい物からヤバい人を見る目に変わっていく。それでも私は続けた。誤解はされたくなかったのだ。



 私は金が欲しい訳では無い。満足がいくまでセックスがしたいだけなのだと!



「その点王は凄いんですよ。何回イッてもすぐ勃つし、何なら出した直後でもすぐ中で勃つし、あの人自体性欲凄いから私についてこられるし、ちゃんと満足もさせてくれるし!」

「へ、へぇ」

「こんな人は初めて会いました。身体の相性もすこぶる良いから、私も何回もイけちゃうんですよ」

「……ごめん、もう大丈夫だよ。なるほど、やっぱり話に聞いていた通り君はサキュバスとかなのかな?」

「それは違います。人間です。ただ、三度の飯よりセックスが好きなだけです」

「……」



 言い切った私を見てとうとうアーノルドは黙り込んで頭を抱えてしまう。もしもここにオズワルドが居たら、また頭を叩かれて「正直が過ぎる!」などと叱られていたのだろうが、幸いな事にここにオズワルドは居ない。居るのは爽やかイケメンな宰相だけだ。



「他にも質問ありますか?」

「いや、大丈夫……うん、ありがとう。もう行っていいよ」



 それを聞いて今度は私が顔を歪める番だった。



「は?」



 思ったよりも低い声が出てしまったが、そんな私を見てアーノルドは驚いたように目を丸くしている。



「さっきの私の話、聞いてました?」

「どれの事?」

「私、買われたいんです。そして買われたからには必ず相手を満足させます。これが私の流儀です」

「いや、この流れで僕が君に手を出すとでも?」

「出さなくても良いですよ、別に。出させるようにするのが、私の仕事ですから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死神令嬢は年上幼馴染からの淫らな手解きに甘く溶かされる

鈴屋埜猫
恋愛
男爵令嬢でありながら、時に寝食も忘れ日々、研究に没頭するレイネシア。そんな彼女にも婚約者がいたが、ある事件により白紙となる。 そんな中、訪ねてきた兄の親友ジルベールについ漏らした悩みを克服するため、彼に手解きを受けることに。 「ちゃんと教えて、君が嫌ならすぐ止める」 優しい声音と指先が、レイネシアの心を溶かしていくーーー

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

向日葵ー靖子ー

絵麻
恋愛
 戦争で夫を失くした一ヶ月後、愛娘の純夏とはぐれた。  失意のどん底にいる靖子を、友人のアメリカ人・パトリックはずっと愛していたことを告げ、二人は結ばれる。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...