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そこは見たことも無いぐらい綺羅びやかな世界だった。こんな建物をこちらの世界でもあちらの世界でも見たことが無くて思わずキョロキョロしていると、奥からそれはそれは綺麗な女の人が姿を現す。
「お久しぶりです、王。お待ちしておりました」
「ああ、久しぶりだな、オリガ。誰から聞いた?」
「宰相様ですわ」
「なるほど」
オズワルドはそう言って私の背中を押した。
「紹介する。ダリアだ。少し……いや、かなり変わり者だが、雇ってやってほしい。身分は俺が保証する」
唐突なオズワルドの申し出にオリガと呼ばれた女性は少しだけ目を見開く。
「こんな事は初めてですわね。もしかしてとうとう結婚がお決まりに?」
「いや、違う。この娘は今回の慰み者の一人だ」
「慰み者? そんな子がどうしてここへ? 何か粗相でもしたのですか?」
「信じがたい事だが本人の希望なんだ。雇ってやってくれ。色々とおかしな女だが技術については問題ない」
淡々と言うオズワルドにオリガはさらに驚いたような顔をして私とオズワルドを見比べてくる。
「あなた、ダリアさん。王の仰っている事は本当なの?」
「はい!」
オリガに話しかけられてウキウキで返事をした私をオズワルドは呆れ、オリガは信じられないものを見る目で見つめてくる。
「王……この子は一体?」
「気持ちは分かる。普通ここにやってくる者達は悲壮な顔をしてやってくるからな。だがこいつは別だ。その、なんと言ったらいいか……」
言い淀むオズワルドに代わって私は一歩前に進み出ると、オリガに向かって手を差し出した。
「私セックスが大好きなんです! 今日からよろしくお願いします! 痛い!」
「はっきり言いすぎだ! この馬鹿!」
「だって、他に言いようもないじゃない! ほんとの事なんだもん!」
「本当の事だろうが何だろうが、胸張って言うような事ではないだろ!」
「生命の営みだよ!? 恥ずかしがる意味が分からないんだけど!?」
「お前のは営みではなくて、快楽を貪ってるだけだ!」
「それはそう」
「そうだろ。オリガ、こういう奴だ。何かおかしな事を口走ったら遠慮なく殴れ」
「は、はい……えっと、それで技術は問題無いというのは……?」
「今回の戦争でこいつはずっと俺の相手をしていた。そして俺の方が先に音を上げていた、と言えばいいか?」
「!?」
オズワルドの言葉にオリガはもう一度私を凝視してようやく手を取ってくれた。
「あなた、ダリアさん。今後の活躍に期待しているわ。何かタブーな事とかある?」
「特にありません! 縛られても逆さ吊りにされても平気です! お尻の方も使えます! もちろんやる方も得意です!」
SMには特化している私だ。そういう技術を聞かれているのだと思って胸を張ったが、オズワルドはとうとう突っ込まなくなったし、オリガは唖然としている。
「王……」
「何も言うな。何も聞きたくない。まぁそういう事だ。雇ってやってくれ」
「は、はい……」
とんでもない奴連れてきやがったな、みたいな顔をしているオリガにオズワルドがそっと目をそらす。
しばらく二人は沈黙していたが、やがてオズワルドのお腹が小さく鳴った。
「お食事をされますか?」
「ああ、頼む。今夜はここへ泊まる。お前も食べるだろ?」
そう言ってオズワルドは私の方を振り向いた。
「いいの?」
「構わない。そういう訳だオリガ。2人分を部屋へ運んでくれ」
「畏まりました」
そう言ってオリガはもう一度私を見て心配そうに立ち去っていく。
「部屋って? 予約とかしてないよね?」
「そんなものはいらない。ここは会員の数だけ部屋が割り当てられているんだ。まぁ、言わば別荘のようなものだな」
「随分ふしだらな別荘だけど、それじゃあオズワルドの部屋もあるって言う事?」
「もちろん。こっちだ」
オズワルドは軍服の裾を翻して長い廊下を歩き始めた。
オレンジ色の淡いランプに彩られた廊下は、それだけで何だか雰囲気がある。
やがて突き当りの部屋までやってくると、オズワルドはおもむろにポケットから鍵を取り出して部屋を開け始めた。
「すっご……え? スイートルームじゃん!」
「スイート、なんだ?」
「ごめん、こっちの話。ここがオズの部屋?」
「ああ。ほら、早く入れ」
「あ、うん」
背中をどんと押されて部屋に入ると、正面にはバーカウンターが造り付けてあった。壁にはぎっしりとお酒が並べられていて、右奥にはガラスの壁で囲まれたバスタブが置いてある。
左奥には談話室のような雰囲気のテーブルとソファがあり、床には赤い絨毯が敷き詰められていた。
「ベッドないんだね」
「あるぞ。あっちの部屋だ。見てくるか?」
「あっちにも部屋があるの!? ね、ね、ご飯来るまで探検してもいい!?」
「ああ。好きにしろ」
オズワルドはそれだけ言ってネクタイを緩めると、大きなため息を落としてソファに座った。そんなオズワルドを尻目に私はいそいそと部屋の中を探索する。
いちいち感嘆の声を上げる私がおかしいのか、ソファから笑い声が聞こえてきた。
「この部屋に入ってそんな楽しそうに見て回る奴は初めてだな」
「そうなの? めちゃくちゃ楽しいのに! ここでこんな体位で~とかこの壁に手をついて~とかさ!」
「……お前の部屋の楽しみ方はいささか独特すぎやしないか?」
「そうかな? ね、後でお風呂でしようね! お酒も飲む? カクテル作ってあげようか?」
「カクテル?」
「こっちの世界にはないの? それじゃあ後で作ってあげる! 私、案外得意なんだよ。マイシェーカーも持ってたんだぁ~」
懐かしい思い出だ。お客さんにバーを経営している人がいて、その人はセックスをしながらずっとカクテルの話をしてくれた。私が興味津々で聞いていると、誕生日にシェーカーをくれた、心の底からカクテルを愛していた人だった。
「よく分からんが、お前が何かを披露してくれるのは初めてだな。セックス以外で」
「一言多くない?」
そんなやりとりをしていると、ようやく料理が運ばれてきた。しかも驚いた事に、私の食事はオズワルドと同じものだ。
「こ、これ、本当にいいの?」
「ああ」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ。ここの料理人は以前城に勤めていた奴なんだ。美味いぞ」
「!」
それを聞いて私は即座にオズワルドの正面に座った。それを見て給仕はギョッとしたような顔をしているが、それをオズワルドが手で制して冷たい声で言う。
「俺が許している。下がれ」
「は、はい! それでは失礼致します。ごゆっくりお楽しみください」
そう言って給仕はそそくさと部屋を出て行った。
それから私は元お城の料理人の料理を心ゆくまで堪能しつくして、そのままソファに転がる。
「行儀が悪いにも程があるな」
「食べた後すぐ寝転んだら牛になるよ! ってよくおばあちゃんに叱られたなぁ」
笑いながらそんな事を言うと、オズワルドも一瞬キョトンとして笑う。
「それは怖いな。で、牛になったか?」
「見れば分かるでしょ? 未だに人よ」
「サキュバスの間違いだろ?」
「失礼な! ね、ちょっと休憩したらお風呂行こ!」
「……お前の三大欲求は今日も元気に稼働しているな」
「もちろん! 365日、24時間いつだってフルタイムよ。働き者の私を褒めて欲しい」
「ああ、凄い凄い。偉い偉い」
適当な感じで褒めながらオズワルドはようやく軍服を脱いだ。そしてそのまま私の元へやってくると、軽々私を抱き上げてそのままお風呂に向かう。
「お久しぶりです、王。お待ちしておりました」
「ああ、久しぶりだな、オリガ。誰から聞いた?」
「宰相様ですわ」
「なるほど」
オズワルドはそう言って私の背中を押した。
「紹介する。ダリアだ。少し……いや、かなり変わり者だが、雇ってやってほしい。身分は俺が保証する」
唐突なオズワルドの申し出にオリガと呼ばれた女性は少しだけ目を見開く。
「こんな事は初めてですわね。もしかしてとうとう結婚がお決まりに?」
「いや、違う。この娘は今回の慰み者の一人だ」
「慰み者? そんな子がどうしてここへ? 何か粗相でもしたのですか?」
「信じがたい事だが本人の希望なんだ。雇ってやってくれ。色々とおかしな女だが技術については問題ない」
淡々と言うオズワルドにオリガはさらに驚いたような顔をして私とオズワルドを見比べてくる。
「あなた、ダリアさん。王の仰っている事は本当なの?」
「はい!」
オリガに話しかけられてウキウキで返事をした私をオズワルドは呆れ、オリガは信じられないものを見る目で見つめてくる。
「王……この子は一体?」
「気持ちは分かる。普通ここにやってくる者達は悲壮な顔をしてやってくるからな。だがこいつは別だ。その、なんと言ったらいいか……」
言い淀むオズワルドに代わって私は一歩前に進み出ると、オリガに向かって手を差し出した。
「私セックスが大好きなんです! 今日からよろしくお願いします! 痛い!」
「はっきり言いすぎだ! この馬鹿!」
「だって、他に言いようもないじゃない! ほんとの事なんだもん!」
「本当の事だろうが何だろうが、胸張って言うような事ではないだろ!」
「生命の営みだよ!? 恥ずかしがる意味が分からないんだけど!?」
「お前のは営みではなくて、快楽を貪ってるだけだ!」
「それはそう」
「そうだろ。オリガ、こういう奴だ。何かおかしな事を口走ったら遠慮なく殴れ」
「は、はい……えっと、それで技術は問題無いというのは……?」
「今回の戦争でこいつはずっと俺の相手をしていた。そして俺の方が先に音を上げていた、と言えばいいか?」
「!?」
オズワルドの言葉にオリガはもう一度私を凝視してようやく手を取ってくれた。
「あなた、ダリアさん。今後の活躍に期待しているわ。何かタブーな事とかある?」
「特にありません! 縛られても逆さ吊りにされても平気です! お尻の方も使えます! もちろんやる方も得意です!」
SMには特化している私だ。そういう技術を聞かれているのだと思って胸を張ったが、オズワルドはとうとう突っ込まなくなったし、オリガは唖然としている。
「王……」
「何も言うな。何も聞きたくない。まぁそういう事だ。雇ってやってくれ」
「は、はい……」
とんでもない奴連れてきやがったな、みたいな顔をしているオリガにオズワルドがそっと目をそらす。
しばらく二人は沈黙していたが、やがてオズワルドのお腹が小さく鳴った。
「お食事をされますか?」
「ああ、頼む。今夜はここへ泊まる。お前も食べるだろ?」
そう言ってオズワルドは私の方を振り向いた。
「いいの?」
「構わない。そういう訳だオリガ。2人分を部屋へ運んでくれ」
「畏まりました」
そう言ってオリガはもう一度私を見て心配そうに立ち去っていく。
「部屋って? 予約とかしてないよね?」
「そんなものはいらない。ここは会員の数だけ部屋が割り当てられているんだ。まぁ、言わば別荘のようなものだな」
「随分ふしだらな別荘だけど、それじゃあオズワルドの部屋もあるって言う事?」
「もちろん。こっちだ」
オズワルドは軍服の裾を翻して長い廊下を歩き始めた。
オレンジ色の淡いランプに彩られた廊下は、それだけで何だか雰囲気がある。
やがて突き当りの部屋までやってくると、オズワルドはおもむろにポケットから鍵を取り出して部屋を開け始めた。
「すっご……え? スイートルームじゃん!」
「スイート、なんだ?」
「ごめん、こっちの話。ここがオズの部屋?」
「ああ。ほら、早く入れ」
「あ、うん」
背中をどんと押されて部屋に入ると、正面にはバーカウンターが造り付けてあった。壁にはぎっしりとお酒が並べられていて、右奥にはガラスの壁で囲まれたバスタブが置いてある。
左奥には談話室のような雰囲気のテーブルとソファがあり、床には赤い絨毯が敷き詰められていた。
「ベッドないんだね」
「あるぞ。あっちの部屋だ。見てくるか?」
「あっちにも部屋があるの!? ね、ね、ご飯来るまで探検してもいい!?」
「ああ。好きにしろ」
オズワルドはそれだけ言ってネクタイを緩めると、大きなため息を落としてソファに座った。そんなオズワルドを尻目に私はいそいそと部屋の中を探索する。
いちいち感嘆の声を上げる私がおかしいのか、ソファから笑い声が聞こえてきた。
「この部屋に入ってそんな楽しそうに見て回る奴は初めてだな」
「そうなの? めちゃくちゃ楽しいのに! ここでこんな体位で~とかこの壁に手をついて~とかさ!」
「……お前の部屋の楽しみ方はいささか独特すぎやしないか?」
「そうかな? ね、後でお風呂でしようね! お酒も飲む? カクテル作ってあげようか?」
「カクテル?」
「こっちの世界にはないの? それじゃあ後で作ってあげる! 私、案外得意なんだよ。マイシェーカーも持ってたんだぁ~」
懐かしい思い出だ。お客さんにバーを経営している人がいて、その人はセックスをしながらずっとカクテルの話をしてくれた。私が興味津々で聞いていると、誕生日にシェーカーをくれた、心の底からカクテルを愛していた人だった。
「よく分からんが、お前が何かを披露してくれるのは初めてだな。セックス以外で」
「一言多くない?」
そんなやりとりをしていると、ようやく料理が運ばれてきた。しかも驚いた事に、私の食事はオズワルドと同じものだ。
「こ、これ、本当にいいの?」
「ああ」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ。ここの料理人は以前城に勤めていた奴なんだ。美味いぞ」
「!」
それを聞いて私は即座にオズワルドの正面に座った。それを見て給仕はギョッとしたような顔をしているが、それをオズワルドが手で制して冷たい声で言う。
「俺が許している。下がれ」
「は、はい! それでは失礼致します。ごゆっくりお楽しみください」
そう言って給仕はそそくさと部屋を出て行った。
それから私は元お城の料理人の料理を心ゆくまで堪能しつくして、そのままソファに転がる。
「行儀が悪いにも程があるな」
「食べた後すぐ寝転んだら牛になるよ! ってよくおばあちゃんに叱られたなぁ」
笑いながらそんな事を言うと、オズワルドも一瞬キョトンとして笑う。
「それは怖いな。で、牛になったか?」
「見れば分かるでしょ? 未だに人よ」
「サキュバスの間違いだろ?」
「失礼な! ね、ちょっと休憩したらお風呂行こ!」
「……お前の三大欲求は今日も元気に稼働しているな」
「もちろん! 365日、24時間いつだってフルタイムよ。働き者の私を褒めて欲しい」
「ああ、凄い凄い。偉い偉い」
適当な感じで褒めながらオズワルドはようやく軍服を脱いだ。そしてそのまま私の元へやってくると、軽々私を抱き上げてそのままお風呂に向かう。
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