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その先を言い淀んだ私をオズワルドは軽く睨みつける。
「言っておくが、お前の考えているような事はないぞ。俺は相手に子どもが出来ないように避妊していただけだ。それこそお前が飲んでいたあの避妊薬を薄めた物を相手の食事や飲み物に混ぜてな」
シレッとそんな事を言うオズワルドに私は目を丸くした。子どもを作る気がさっぱり無いではないか!
「子どもが出来たら王妃になれる。それは嘘じゃない。だが、王妃になるには流石にそこそこの地位にまで押し上げられそうな奴でないとな。全く後ろ盾の無い奴ではすぐに王妃の座など引きずり降ろされる」
「なるほど……確かにお飾りとは言え王妃なんて大変そうだもんね……そりゃ慰み者上がりは落とされるか」
感心したように頷くと、オズワルドは真顔で首を振った。
「と言うのは建前で、俺の側室は要は俺の相手が務まるかどうかなんだよ」
「……え」
「元々俺は任期中は誰とも子どもを作る気などないし、王妃を立てるつもりもない。俺に子どもが出来なくても王位継承権は従兄弟やらに移るだけだし、どのみち俺はそんなに長い間王で居るつもりも無い。むしろそれが今後の筋書きだ」
「そうなの!?」
「ああ。お前も街での俺への皆の態度を見ただろう? 今のように戦争に明け暮れているような時代は俺のような冷酷王の方が良いだろうが、これが終わって平和な時代が来たら、今度は安寧を守れる王になった方が良い。偉い奴らもそれはちゃんと分かってる。だから俺に結婚の事はとやかく言わない」
「そうだったんだ……側室って言うのはつまり、オズの性処理係って事なの?」
「そういう事だ。そんな所に自分達の大事な娘を引っ切り無しに送ってくるんだぞ、貴族は。正気の沙汰じゃないだろ」
「それは内情を知らないからでしょ? 皆、子どもさえ出来れば王妃になれるって喜んでると思うよ」
少なくともあっちの馬車の二人と、戦争を見学に来た子は相当に喜んでいたのだが、今のオズワルドの発言でその線は完全に潰えた。
「そっか、それで謎が全部解けたよ。あれだけ一晩中出せる人がどうして今まで子どもが出来なかったのか不思議だったんだよね」
むしろ種無しなのかと思っていたぐらいだ。そんな私の考えを読んだのか、オズワルドは冷たい眼差しを向けてくる。
「言っておくが、その気になればいつでも子どもを作れるぞ、俺は。試してみるか?」
「嫌よ。これから楽しい高級サロンライフが待ってるって言うのに!」
「……お前だけは本当に……。まぁいい。どのみち抱けるようになったと言っても他の女ではどうせ一度や二度だ。それなら最初からお前を抱いていた方が良い。身体の相性も最高だしな」
ただの性処理係にそこまで気を遣うつもりは無いとでも言いたげなオズワルドに、私はようやく思った。やっぱりこの人は冷酷王なのだな、と。
そしてそこまでして自分の信念を曲げたくないという強さは素直に凄いと思った。
それからしばらくしてようやく王都に辿り着いた。王都に入った途端、あちこちから陽気な音楽と歓声が聞こえてくるが、それを聞いてもオズワルドは知らん顔だ。
「ねぇねぇ、手振ったりとかさ、せめてちょっと顔出すとかしないわけ? これ、いわゆる凱旋パレードよね?」
「そうだな」
「いやいや、そうだな、じゃなくてさ」
「俺はこんな催しは許可していない。いつもの事だ。放っておけ」
「冷たい! 流石冷酷王だよ!」
オズワルドが内心どう思っているのかは分からないが、とりあえず本当に面倒そうだ。
「もしかしてお城に戻るの嫌なの?」
「何故そう思う?」
「いや~面倒そうだなって思って。王都に入ってから途端に無口になったし」
「よく見てるな。城に帰ってもやることは書類仕事と中身の無い会議ばかりだ。戦場で身体を動かしている方が良いに決まっている」
「あー……なるほど」
あれほど嬉々として戦場を駆け回るのだ。そりゃ書類仕事は楽しくないだろう。
「私と一緒だね」
「何がだ」
「ヤりたくても出来ないから転職した私みたいだなって」
「一緒にしてくれるな」
冷たく言い放つオズワルドの口元が微かに緩んだ。冷酷王で無慈悲なのかもしれないが、案外とっつきやすくて気安い人だ。
「これから城に向かうが、お前はしばらく馬車で待機だ」
「どうして?」
「城に戻ったら兵士たちに報奨だの勲章だのを渡さないといけないからだ。それからサロンへ連れて行く」
「分かった。他の皆は?」
「慰み者達は城の入口で解散になる。お前たちの報奨金はその場で手渡しだ。それから事前に聞いていた事を考慮した場所へと送り届ける」
「優しいね。分かった。それじゃあ大人しくここで待ってる」
笑顔で頷いた私を見て、オズワルドは何か言いかけて口を噤むと、すぐに怖い顔をして詰め寄ってきた。
「いいか? 絶対に、暇だからと言ってここで一人でするなよ?」
「しないってば! 馬車汚すから駄目だってオズが言ったんじゃん!」
「そうだが、お前の場合は汚さなきゃ大丈夫じゃない? などと言い出しそうだと言ってるんだ」
「……どこまで信用ないのよ」
「どこまでもだ。ほら、着いたぞ」
完全に私の事をすっかり見抜いているオズワルドに思わず私は苦笑いを浮かべたが、最後の一言を聞いて目を輝かせてこっそりとお城を盗み見た。
「ほんとだ! うわ~お城ってこんな間近で初めて見たかも!」
日本の城なら何度もあるが、海外旅行の経験が無い私は洋風の城を見るのはこれが初めてだ。生憎地球の城ではないが、それでも十分に見応えがある。
窓からこっそり城を見ていた私の頭にオズワルドが肘を置く。
「ちょっと! そこ肘掛けじゃないんですけど?」
「丁度良い所にあったからな。もっと堂々と見れば良いだろう?」
「だって私がこの馬車に乗ってるってあっちの馬車にバレたらまずいでしょ?」
「何故?」
「また嫌味ブチブチ言われるじゃん! もし誰かに何か聞かれたら、どうせもう会うことも無いし「あいつはあの街に捨ててきた」とか何とか言っておいて!」
極力揉め事に巻き込まれたくなくて懇願するように言うと、オズワルドも苦笑いを浮かべて頷いた。
馬車はスルスルと吸い込まれるように次々お城に入っていく。兵士たちの馬車が全て城に入り、私達が乗った馬車が城に入った途端、城の門扉は慰み者達が乗った馬車の前で容赦なく閉じられる。
「もういいぞ」
「駄目。どこから誰が見てるか分かんないから、もうサロンに着くまで隠れてる」
「そこまで徹底するのか」
「うん。面倒事に自ら首突っ込みたくないもんね」
「なるほど。賢明だな。後で昼食を持ってこさせる。馬車は城の裏に停めるからそこまで警戒しなくて良いようにしておこう。最悪寝てろ」
「分かった。ありがと」
やがて馬車は止まり、オズワルドが出て行った。そっと聞き耳を立てると外からオズワルドの冷たい話し声が聞こえてくる。
「馬車は裏に止めておけ」
「はい!」
「あと、中のやつは戦場でも噂になっていた悪魔の化身だ。絶対に覗くなよ」
「は、はい!」
「……」
一体どんな噂になっていたのか。どうやら私は本気で、完全にサキュバスだと思われている。
「言っておくが、お前の考えているような事はないぞ。俺は相手に子どもが出来ないように避妊していただけだ。それこそお前が飲んでいたあの避妊薬を薄めた物を相手の食事や飲み物に混ぜてな」
シレッとそんな事を言うオズワルドに私は目を丸くした。子どもを作る気がさっぱり無いではないか!
「子どもが出来たら王妃になれる。それは嘘じゃない。だが、王妃になるには流石にそこそこの地位にまで押し上げられそうな奴でないとな。全く後ろ盾の無い奴ではすぐに王妃の座など引きずり降ろされる」
「なるほど……確かにお飾りとは言え王妃なんて大変そうだもんね……そりゃ慰み者上がりは落とされるか」
感心したように頷くと、オズワルドは真顔で首を振った。
「と言うのは建前で、俺の側室は要は俺の相手が務まるかどうかなんだよ」
「……え」
「元々俺は任期中は誰とも子どもを作る気などないし、王妃を立てるつもりもない。俺に子どもが出来なくても王位継承権は従兄弟やらに移るだけだし、どのみち俺はそんなに長い間王で居るつもりも無い。むしろそれが今後の筋書きだ」
「そうなの!?」
「ああ。お前も街での俺への皆の態度を見ただろう? 今のように戦争に明け暮れているような時代は俺のような冷酷王の方が良いだろうが、これが終わって平和な時代が来たら、今度は安寧を守れる王になった方が良い。偉い奴らもそれはちゃんと分かってる。だから俺に結婚の事はとやかく言わない」
「そうだったんだ……側室って言うのはつまり、オズの性処理係って事なの?」
「そういう事だ。そんな所に自分達の大事な娘を引っ切り無しに送ってくるんだぞ、貴族は。正気の沙汰じゃないだろ」
「それは内情を知らないからでしょ? 皆、子どもさえ出来れば王妃になれるって喜んでると思うよ」
少なくともあっちの馬車の二人と、戦争を見学に来た子は相当に喜んでいたのだが、今のオズワルドの発言でその線は完全に潰えた。
「そっか、それで謎が全部解けたよ。あれだけ一晩中出せる人がどうして今まで子どもが出来なかったのか不思議だったんだよね」
むしろ種無しなのかと思っていたぐらいだ。そんな私の考えを読んだのか、オズワルドは冷たい眼差しを向けてくる。
「言っておくが、その気になればいつでも子どもを作れるぞ、俺は。試してみるか?」
「嫌よ。これから楽しい高級サロンライフが待ってるって言うのに!」
「……お前だけは本当に……。まぁいい。どのみち抱けるようになったと言っても他の女ではどうせ一度や二度だ。それなら最初からお前を抱いていた方が良い。身体の相性も最高だしな」
ただの性処理係にそこまで気を遣うつもりは無いとでも言いたげなオズワルドに、私はようやく思った。やっぱりこの人は冷酷王なのだな、と。
そしてそこまでして自分の信念を曲げたくないという強さは素直に凄いと思った。
それからしばらくしてようやく王都に辿り着いた。王都に入った途端、あちこちから陽気な音楽と歓声が聞こえてくるが、それを聞いてもオズワルドは知らん顔だ。
「ねぇねぇ、手振ったりとかさ、せめてちょっと顔出すとかしないわけ? これ、いわゆる凱旋パレードよね?」
「そうだな」
「いやいや、そうだな、じゃなくてさ」
「俺はこんな催しは許可していない。いつもの事だ。放っておけ」
「冷たい! 流石冷酷王だよ!」
オズワルドが内心どう思っているのかは分からないが、とりあえず本当に面倒そうだ。
「もしかしてお城に戻るの嫌なの?」
「何故そう思う?」
「いや~面倒そうだなって思って。王都に入ってから途端に無口になったし」
「よく見てるな。城に帰ってもやることは書類仕事と中身の無い会議ばかりだ。戦場で身体を動かしている方が良いに決まっている」
「あー……なるほど」
あれほど嬉々として戦場を駆け回るのだ。そりゃ書類仕事は楽しくないだろう。
「私と一緒だね」
「何がだ」
「ヤりたくても出来ないから転職した私みたいだなって」
「一緒にしてくれるな」
冷たく言い放つオズワルドの口元が微かに緩んだ。冷酷王で無慈悲なのかもしれないが、案外とっつきやすくて気安い人だ。
「これから城に向かうが、お前はしばらく馬車で待機だ」
「どうして?」
「城に戻ったら兵士たちに報奨だの勲章だのを渡さないといけないからだ。それからサロンへ連れて行く」
「分かった。他の皆は?」
「慰み者達は城の入口で解散になる。お前たちの報奨金はその場で手渡しだ。それから事前に聞いていた事を考慮した場所へと送り届ける」
「優しいね。分かった。それじゃあ大人しくここで待ってる」
笑顔で頷いた私を見て、オズワルドは何か言いかけて口を噤むと、すぐに怖い顔をして詰め寄ってきた。
「いいか? 絶対に、暇だからと言ってここで一人でするなよ?」
「しないってば! 馬車汚すから駄目だってオズが言ったんじゃん!」
「そうだが、お前の場合は汚さなきゃ大丈夫じゃない? などと言い出しそうだと言ってるんだ」
「……どこまで信用ないのよ」
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完全に私の事をすっかり見抜いているオズワルドに思わず私は苦笑いを浮かべたが、最後の一言を聞いて目を輝かせてこっそりとお城を盗み見た。
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「ちょっと! そこ肘掛けじゃないんですけど?」
「丁度良い所にあったからな。もっと堂々と見れば良いだろう?」
「だって私がこの馬車に乗ってるってあっちの馬車にバレたらまずいでしょ?」
「何故?」
「また嫌味ブチブチ言われるじゃん! もし誰かに何か聞かれたら、どうせもう会うことも無いし「あいつはあの街に捨ててきた」とか何とか言っておいて!」
極力揉め事に巻き込まれたくなくて懇願するように言うと、オズワルドも苦笑いを浮かべて頷いた。
馬車はスルスルと吸い込まれるように次々お城に入っていく。兵士たちの馬車が全て城に入り、私達が乗った馬車が城に入った途端、城の門扉は慰み者達が乗った馬車の前で容赦なく閉じられる。
「もういいぞ」
「駄目。どこから誰が見てるか分かんないから、もうサロンに着くまで隠れてる」
「そこまで徹底するのか」
「うん。面倒事に自ら首突っ込みたくないもんね」
「なるほど。賢明だな。後で昼食を持ってこさせる。馬車は城の裏に停めるからそこまで警戒しなくて良いようにしておこう。最悪寝てろ」
「分かった。ありがと」
やがて馬車は止まり、オズワルドが出て行った。そっと聞き耳を立てると外からオズワルドの冷たい話し声が聞こえてくる。
「馬車は裏に止めておけ」
「はい!」
「あと、中のやつは戦場でも噂になっていた悪魔の化身だ。絶対に覗くなよ」
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