冷酷王の知られざる秘密

あげは凛子

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「有名なんだね、このお店」

 というか、皆があの兵士に同じことを聞いたのかもしれない。

「そのようだな」

 オズワルドが列に並ぼうとすると、前に並んでいた兵士たちがギョッとした顔をして順番を譲ってくれる。それをオズワルドは律儀に断っていたが、それはそれで兵士たちが萎縮してしまって何だか不憫だ。

「いいじゃん! 皆が先に行かせてくれるって言ってるんだし。それに王様と同じところでご飯食べるって、なかなか地獄でしょ?」

 私の言葉に並んでいた兵士達がそっと視線を伏せた。そんな兵士たちを見てオズワルドは相変わらず無表情で頷くと、大人しく順番を抜かしまくる。

 ようやく店に入ると今度は店主が萎縮していて、何だかどこへ行ってもオズワルドはこんな反応をされるのかと思うと可哀想でならない。

 それから個室に案内された私達はようやく一息ついて出された水を飲んだ。

「はぁ~お腹すいた!」
「ああ。悪かったな、気を使わせて」
「ん? ああ、いいっていいって! こういうのも仕事のうちだったからね」
「そうなのか?」
「うん、同伴って言って、出勤前にお客さんとご飯食べたりしてから一緒にお店に行くの。ま、それはSM嬢やる前のキャバクラでの事なんだけど」
「よく分からんが、一体どういう事なんだ? 仕事を変えたのか?」
「そう。早い話が、最初に勤めてた所じゃ思う存分ヤれないから本番ありのお店に転職したってだけの話だよ」
「……なるほど。お前らしいな」

 呆れ果てたような顔をするオズワルドだが、そのおかげで勃ったのだからそれはむしろ、良くやったと褒めてもらいたい。

 しばらくして念願のもつ煮込みがやってきた。それはそれは美味しくて思わず私がうっとりと目を細めていると、正面でオズワルドも満足げな顔をして肉を頬張っている。

「美味しいね!」
「ああ。初めて食べたが、なかなかいけるな」
「初めてなの?」
「前にも言ったが、俺はこんな所であまり食事はしない。高官の中にはお忍びでこういう事をする奴も居るみたいだが、俺はそういうのはした事がないな」
「どうして?」
「面が割れているからだ。両親を終身刑に追いやった事と、戦争で功績を上げすぎた」
「なるほど……有名人の悩みだね。まぁそういう時は遠慮なく私を使ってよ」

 美味しいもつ煮込みにホクホクしながら店を出て、その後もしばらく買い食いをしたりしていたが、ふと思い立ってオズワルドを見上げた。

「ねぇねぇオズワルド」
「なんだ?」
「お肉食べるとしたくなるのどうしてだと思う?」
「……知るか」
「もういっこ聞いていい?」
「なんだ」
「休憩ってあとどれぐらい?」
「何故そんな事を聞く?」
「別に深い意味はないよ」
「夜に出発する。これから砂漠の側を通るから昼間は暑くて危険だ」
「そうなんだ~。それじゃ、ここらへんで解散しよっか!」

 夜までこの街に居ると聞いて私が踵を返そうとしたその時、肩を思い切りオズワルドに掴まれた。

「待て。どこへ行く気だ」 
「どこも? 街見て回るんだよ」
「嘘つけ。どこかで男漁りでもする気だろう?」
「失礼な! こんな右も左も分からない所でそんな事しないよ! ちょっと一人になれそうな所探すだけだもん!」
「そんな所探してどうするんだ」
「一人でするの! もう! デリカシーが無いんだから!」
「……デリカシーが無いのはお前だ。どうしてそんな……やっぱりサキュバスだろう?」

 相変わらず私を悪魔に例えてくるオズワルドに頬を膨らませた私を見下ろして、オズワルドがふいに私の手を引く。

「なに?」
「こっちだ。ついて来い」
「ちょちょ、どこ行くの?」
「俺が相手をしてやると言ってるんだ。来るのか来ないのか」
「行く!」

 それを聞いて私は目を輝かせた。もちろん行く。行くに決まっている。

 オズワルドに連れて行かれた場所は高級そうな宿だった。話を聞くと、オズワルドはこういう時は大体こういう宿で時間を潰すらしい。王様が街をウロウロしているのは良くないと考えているようだ。

「凄く綺麗!」

 この世界に来てからずっと土埃舞う天幕やほったて小屋の中でのセックスばかりだったので、こういう所は逆に何だか新鮮だ。

 キョロキョロと辺りを見渡す私を見てオズワルドがそっと手袋を取った。それを見て私はオズワルドに近寄り、背伸びをして口づける。

「してあげようか?」
「ああ」

 やけに素直なオズワルドの下履きに視線を移すと、オズワルドのモノも少しだけ大きくなっていた。

 私はオズワルドの前に跪いてベルトを外し、まだほとんど勃っていない屹立をゆっくり扱く。

「早く大きくな~れ!」
「おかしな呪詛を唱えるな、っ!」

 私はそのまま許可もなしに屹立を口に含むと、オズワルドが低く呻いた。口の中でどんどん大きくなる屹立に私が気を良くしていると、オズワルドの呼吸が少しずつ乱れだす。

「はぁ、っ、ぅ」
「我慢しなくていいよ」
「っ、ああ」

 その言葉を聞いた途端、オズワルドは私の頭を掴んで喉奥まで屹立を突っ込んでくる。屹立の根本に指で輪っかを作り軽く扱くと、それだけでオズワルドの屹立は倍ぐらいに膨れ上がった。

 それから私達は夢中で身体を繋いでいたが、ふと外を見ると日が傾き始めていた。

「オズ」
「なんだ」
「外、暗くなってきてる」
「なに!?」
 
 オズワルドは慌てて私の中から屹立を引き抜いて勢いよく起き上がり、私を抱えてそのまま部屋に添えつけられている水浴び場へ向かった。そして急いでお互い身体を洗い、宿を飛び出す。

 速歩きで馬車に向かっていると、不意にオズワルドが笑い声を漏らした。

「なに?」
「いや、こんな事は初めてだと思ってな」
「そうなの?」
「ああ。戦地から帰る時の休憩に誰かを連れ込んだ事などない。宿ではいつも本を読んで過ごしていたんだ」
「一人で?」
「ああ、一人で。それが今日はどうだ。まさかお前を抱いていて時間に遅れそうになるだなんて思いもしなかった。やはりお前は危険だな」
「私を誘ったのはあなたでしょ! でも気持ちよかった。これで帰りもしっかり眠れそう」
「あんな事しなくても眠れるだろう? お前は」
「眠れるけど、精神的に悪い夢見そうよ、あの馬車」

 慰み者達だけの馬車はマウント合戦が酷い。そこに無理やり私を巻き込んで来ようとするのだ。それをオズワルドに伝えると、オズワルドは何かに納得したように頷いた。

「俺の馬車に乗るか? 俺は一人だから何の遠慮もいらないぞ」
「いいの? いく! でさ、もし良かったら――」
「馬車が汚れるからしないぞ」
「……まだ何にも言ってないのに」

 先に断られてしまってしょんぼりしていると、そんな私の頭をぽんぽんとオズワルドが撫でてくる。

「お前の考えそうな事はもう大体分かる」
「流石王様だね」
「それは全然関係ないだろ」

 それから私は乗ってきた馬車には戻らず、そのままオズワルドの馬車に乗り込んだ。
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