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本気のレイプなんて流石にされた事が無くて思わず涙を浮かべると、それもまた男たちにはスパイスになってしまったようだ。
「へへへ、綺麗なピンクだぞ!」
「ああ。美味そうだな――」
男が私の股に顔を突っ込もうとしたその時だ。突然その男が低く呻いてその場に崩れ落ちた。
「なっ、誰、がはっ!」
「お、おいうぐっ!?」
突然倒れた男を助けようと私を抱えていた男達が私を離した途端、今度はその男たちまで一瞬にして倒れ込む。
ハッとして上を見ると、後ろにある店の2階のベランダからオズワルドが怖い顔をしてこちらを見下ろしていた。手に石を持って。
「何をしている?」
「オズ!」
思わず私が叫ぶと、オズワルドは2階から私の目の前に飛び降りてきた。そんなオズワルドに心底ホッとして涙目で飛びつくと、オズワルドは私の反応に驚いたように身体を強張らせた。
「どうした? 泣いてるのか? まさか乱暴されそうになって嬉しかった……とかか?」
「そんな訳ないでしょ! 怖かったの! ……ありがと」
「怖い? お前が?」
「だって……こういうのは初めてだったんだもん……私だって、誰でも良い訳じゃないよ……」
「そうか。てっきりお前が誘ったのかと思ってしまった」
「……酷くない?」
口では嫌味を言いながらも、オズワルドは鼻声でグスグス言う私を抱きしめて髪を撫でてくれる。その手つきはあまりにも優しい。
「どこ行ってたの? 探してたのに!」
「俺だって探してたさ。そうしたらあっちの通りで女の子が路地に連れ込まれたと聞いて、ああ、お前だなって」
「なんで」
「言っただろ? お前は思わず手を出したくなるんだ、と」
「知らないもん、そんな事」
「そうなんだろうな。だからそんなに無防備でいられるんだ。もう大丈夫か?」
オズワルドの優しい声音に私が頷くと、オズワルドも頷いて私から身体を離し、スッと手を差し出してきた。
「?」
「またはぐれたら困る。お前はフラフラしすぎだ」
「うん、ごめんなさい」
まさか手を繋いでくれるとは思わなくてその手を取ると、オズワルドは今度はゆっくり歩き出した。そんなオズワルドの隣をしばらく歩いていたけれど、ふとオズワルドを見上げて言う。
「さっきはデート下手くそだなんて言ってごめんね」
「なんだ、突然」
「上手だよ。助けてくれたし優しいし。だから……ごめんね」
「ああ」
しばらく私達は無言で歩いていたけれど、やがてオズワルドが一軒の店の前で立ち止まった。店を見上げると、そこには雑貨屋の看板がかかっている。
「ここ?」
「ああ。行くぞ」
少しだけオズワルドの手に力がこもった。何故か少しだけ緊張しているようだ。その理由はその後、すぐに分かった。
「い、いらっしゃいませ、王」
「ああ」
「今日はどのようなご要件で……いえ! 失礼しました!」
「そんなに緊張しなくて良い。別に視察に来た訳じゃない。歯ブラシを見に来ただけだ」
「さ、さようでございますか……」
そう言ってお店の人がビクビクしながらオズワルドから距離を取っていく。こういう態度を取られるから、オズワルドも少し緊張していたようだ。
「ね、ね、日用品はあっちみたいだよ!」
何だかそんなオズワルドが可哀想で私が手を引っ張ると、オズワルドもお店の人もホッとしたような顔をしている。
「ああ」
「あったあった! 何色が良い?」
「別に何色でも構わないが」
「じゃ、青ね。あなたの目の色! 私はピーンク! 一番可愛いから!」
プラスチックではない、恐らく豚か何かの毛が木に刺さっただけのかったい歯ブラシを二本取ると、それをオズワルドに手渡した。
「……お前のもか?」
「うん。お財布持ってきてないもん。後で返すよ」
「いや、それは別に構わないが」
それだけ言ってオズワルドは歯ブラシを二本持って店の奥に向かっていく。その間私は店内をウロつきながら面白そうな物がないか見ていたのだが、やがて戻ってきたオズワルドにまた手を掴まれて店の外に出た。
「ありがと!」
「いや、それはこちらの台詞だな。俺が緊張しているとよく分かったな」
「うん。手がね、こうキュッて。イク時みたいに――痛い!」
「往来だぞ。口を慎め」
頬をオズワルドに抓られて思わず頬をさすると、オズワルドも少しだけ肩を揺らしている。
「それで、次は爪切りだったか?」
「うん!」
「俺ので良かったらそんなものいくらでも貸してやるぞ?」
「爪切りは衛生品だから使い回しは駄目だよ! 私がもし何か病気持ってたらどうするの!」
「それは今更じゃないか? あれだけヤッておいて」
「……それはそう」
「それに消毒すれば問題ない。俺のを使え。それで、次は?」
「お腹減った。チキンカツ食べながら色々見ようよ」
「食べながら? 俺も?」
「もちろん。私だけ食べてるの変でしょ?」
「お前は大体変だろ」
「ここの人たちはそんな事知らないでしょ!」
どこまでも失礼なオズワルドにわざと怖い顔を作って言うと、オズワルドはそんな私を見ろして目元を緩めた。
「自覚はあるんだな」
「そりゃ、多少はあるわよ。真っ当な人間は休みの日に真っ昼間っから繋がる相手探したりしないでしょ」
「そのとおりだ。ちゃんと変だって言う自覚があって安心した」
「倫理観は死んでるかもしれないけど、ちゃんと自覚してるわよ!」
往来だと言うのに構わず言い合いをしながら私達は大人気のチキンカツを買って、食べながら歩いた。
無表情でチキンカツを頬張りながら通りを歩く王の姿は、皆にとってどれほどの恐怖だったのだろう。気づけば来た時よりも人が派手に縦に割れていく。
それからも二人で街を散策し、オズワルドが入った事が無いという庶民のカフェに入りお茶をした。
「それちょっとちょうだい」
「お前のも寄越せ」
遠慮なくオズワルドが食べていたパフェのアイスにスプーンを突っ込むと、オズワルドも別に気にした様子もなく私の食べているアイスにスプーンを突っ込んでくる。案外オズワルドは甘党のようだ。
そんな事をしていると日が傾き、気がつけば街灯がポツポツと灯り始めた。
「帰るか」
「うん」
来た時は私達の間に多少あった距離が、帰りは寄り添うようにぴったりとくっつく。何故なら、まだ私はオズワルドに手を握られているからだ。
「楽しかったか」
「うん。オズワルドは?」
「まぁ、賑やかではあったな」
「素直じゃないなぁ。案外可愛い私とずっと一緒だったんだから楽しかったでしょ? そうに決まってる」
「……だから、自分で言うのか」
「それだけ嬉しかったんだよ! ところでさ、オズワルドってさ」
「うん?」
「いくつなの?」
「今更?」
そう言えば私はオズワルドの年齢すら知らない。というか、覚えていないのだ。
呆れたような顔をしてこちらを見下ろすオズワルドに私が頷くと、オズワルドは淡々と言う。
「へへへ、綺麗なピンクだぞ!」
「ああ。美味そうだな――」
男が私の股に顔を突っ込もうとしたその時だ。突然その男が低く呻いてその場に崩れ落ちた。
「なっ、誰、がはっ!」
「お、おいうぐっ!?」
突然倒れた男を助けようと私を抱えていた男達が私を離した途端、今度はその男たちまで一瞬にして倒れ込む。
ハッとして上を見ると、後ろにある店の2階のベランダからオズワルドが怖い顔をしてこちらを見下ろしていた。手に石を持って。
「何をしている?」
「オズ!」
思わず私が叫ぶと、オズワルドは2階から私の目の前に飛び降りてきた。そんなオズワルドに心底ホッとして涙目で飛びつくと、オズワルドは私の反応に驚いたように身体を強張らせた。
「どうした? 泣いてるのか? まさか乱暴されそうになって嬉しかった……とかか?」
「そんな訳ないでしょ! 怖かったの! ……ありがと」
「怖い? お前が?」
「だって……こういうのは初めてだったんだもん……私だって、誰でも良い訳じゃないよ……」
「そうか。てっきりお前が誘ったのかと思ってしまった」
「……酷くない?」
口では嫌味を言いながらも、オズワルドは鼻声でグスグス言う私を抱きしめて髪を撫でてくれる。その手つきはあまりにも優しい。
「どこ行ってたの? 探してたのに!」
「俺だって探してたさ。そうしたらあっちの通りで女の子が路地に連れ込まれたと聞いて、ああ、お前だなって」
「なんで」
「言っただろ? お前は思わず手を出したくなるんだ、と」
「知らないもん、そんな事」
「そうなんだろうな。だからそんなに無防備でいられるんだ。もう大丈夫か?」
オズワルドの優しい声音に私が頷くと、オズワルドも頷いて私から身体を離し、スッと手を差し出してきた。
「?」
「またはぐれたら困る。お前はフラフラしすぎだ」
「うん、ごめんなさい」
まさか手を繋いでくれるとは思わなくてその手を取ると、オズワルドは今度はゆっくり歩き出した。そんなオズワルドの隣をしばらく歩いていたけれど、ふとオズワルドを見上げて言う。
「さっきはデート下手くそだなんて言ってごめんね」
「なんだ、突然」
「上手だよ。助けてくれたし優しいし。だから……ごめんね」
「ああ」
しばらく私達は無言で歩いていたけれど、やがてオズワルドが一軒の店の前で立ち止まった。店を見上げると、そこには雑貨屋の看板がかかっている。
「ここ?」
「ああ。行くぞ」
少しだけオズワルドの手に力がこもった。何故か少しだけ緊張しているようだ。その理由はその後、すぐに分かった。
「い、いらっしゃいませ、王」
「ああ」
「今日はどのようなご要件で……いえ! 失礼しました!」
「そんなに緊張しなくて良い。別に視察に来た訳じゃない。歯ブラシを見に来ただけだ」
「さ、さようでございますか……」
そう言ってお店の人がビクビクしながらオズワルドから距離を取っていく。こういう態度を取られるから、オズワルドも少し緊張していたようだ。
「ね、ね、日用品はあっちみたいだよ!」
何だかそんなオズワルドが可哀想で私が手を引っ張ると、オズワルドもお店の人もホッとしたような顔をしている。
「ああ」
「あったあった! 何色が良い?」
「別に何色でも構わないが」
「じゃ、青ね。あなたの目の色! 私はピーンク! 一番可愛いから!」
プラスチックではない、恐らく豚か何かの毛が木に刺さっただけのかったい歯ブラシを二本取ると、それをオズワルドに手渡した。
「……お前のもか?」
「うん。お財布持ってきてないもん。後で返すよ」
「いや、それは別に構わないが」
それだけ言ってオズワルドは歯ブラシを二本持って店の奥に向かっていく。その間私は店内をウロつきながら面白そうな物がないか見ていたのだが、やがて戻ってきたオズワルドにまた手を掴まれて店の外に出た。
「ありがと!」
「いや、それはこちらの台詞だな。俺が緊張しているとよく分かったな」
「うん。手がね、こうキュッて。イク時みたいに――痛い!」
「往来だぞ。口を慎め」
頬をオズワルドに抓られて思わず頬をさすると、オズワルドも少しだけ肩を揺らしている。
「それで、次は爪切りだったか?」
「うん!」
「俺ので良かったらそんなものいくらでも貸してやるぞ?」
「爪切りは衛生品だから使い回しは駄目だよ! 私がもし何か病気持ってたらどうするの!」
「それは今更じゃないか? あれだけヤッておいて」
「……それはそう」
「それに消毒すれば問題ない。俺のを使え。それで、次は?」
「お腹減った。チキンカツ食べながら色々見ようよ」
「食べながら? 俺も?」
「もちろん。私だけ食べてるの変でしょ?」
「お前は大体変だろ」
「ここの人たちはそんな事知らないでしょ!」
どこまでも失礼なオズワルドにわざと怖い顔を作って言うと、オズワルドはそんな私を見ろして目元を緩めた。
「自覚はあるんだな」
「そりゃ、多少はあるわよ。真っ当な人間は休みの日に真っ昼間っから繋がる相手探したりしないでしょ」
「そのとおりだ。ちゃんと変だって言う自覚があって安心した」
「倫理観は死んでるかもしれないけど、ちゃんと自覚してるわよ!」
往来だと言うのに構わず言い合いをしながら私達は大人気のチキンカツを買って、食べながら歩いた。
無表情でチキンカツを頬張りながら通りを歩く王の姿は、皆にとってどれほどの恐怖だったのだろう。気づけば来た時よりも人が派手に縦に割れていく。
それからも二人で街を散策し、オズワルドが入った事が無いという庶民のカフェに入りお茶をした。
「それちょっとちょうだい」
「お前のも寄越せ」
遠慮なくオズワルドが食べていたパフェのアイスにスプーンを突っ込むと、オズワルドも別に気にした様子もなく私の食べているアイスにスプーンを突っ込んでくる。案外オズワルドは甘党のようだ。
そんな事をしていると日が傾き、気がつけば街灯がポツポツと灯り始めた。
「帰るか」
「うん」
来た時は私達の間に多少あった距離が、帰りは寄り添うようにぴったりとくっつく。何故なら、まだ私はオズワルドに手を握られているからだ。
「楽しかったか」
「うん。オズワルドは?」
「まぁ、賑やかではあったな」
「素直じゃないなぁ。案外可愛い私とずっと一緒だったんだから楽しかったでしょ? そうに決まってる」
「……だから、自分で言うのか」
「それだけ嬉しかったんだよ! ところでさ、オズワルドってさ」
「うん?」
「いくつなの?」
「今更?」
そう言えば私はオズワルドの年齢すら知らない。というか、覚えていないのだ。
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