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「行ってらっしゃ~い! ね、ね、それで兵士さん。今日お休みで彼女も奥さんも居ない知り合いとか居ないの?」
歩き去るオズワルドの背中に手を振ってくるりと向きを変えて兵士に尋ねると、兵士は引きつったような顔をして尋ねてくる。
「な、なんでそんな事聞くんだ?」
「なんでって、そんなの決まってる――痛い痛い! なに!?」
思いっきり後ろから耳を引っ張られて私が振り返ると、そこには鬼のような顔をしたオズワルドがこちらを見下ろしている。
「気が変わった。お前もついてこい」
「はあ!? なんで!?」
「なんでもだ! そういう訳だ。こいつを借りていくぞ」
「は、はい!」
「やだー! ここに居る!」
「駄目だ。お前は今日一日俺の荷物持ちだ」
「絶対にやだ!」
どうして私がオズワルドの買い物についていった挙げ句に荷物持ちまでしなくてはならないのだ! そんなの契約には無かったはずだ。
抵抗する私の腕を掴んで、引きつる兵士の目の前を私はそのままズルズルと引きずられる。
「いいからついて来い。昼飯ぐらいは奢ってやるから」
それを聞いて私はシャンと背筋を伸ばして歩き出した。
「本当に? ありがとう! ねぇねぇ、ここの街って大きい? この間ね、兵士さんから聞いたんだけど、もつ煮込みが最高に美味しい所があるって聞いたの。それってここ?」
突然態度を改めた私にオズワルドも呆れ顔だ。
「……現金な奴だな。もつ煮込みか。それは別の所だな。ここは鶏料理が有名なんだ。チキンカツが人気だそうだぞ」
「人気だそうだって、食べた事ないの?」
「ないな」
「なんで?」
「王だからだ。王がチキンカツなど食べながら歩いていたら、周りは驚くだろう?」
「えー……つまんないの。今日は私も一緒に食べてあげるから食べよ! で、王様は何を買いに行くんですか?」
王というのはそんなにも周りの目を気にしなければならないのか。それはどれほど窮屈な人生なのだろう。
「ただの日用品だ。持ってきた歯ブラシが傷んでしまってな」
「ほんとにただのお買い物じゃん。歯ブラシって……」
まさかの庶民過ぎる買い物に思わず私が笑って隣を歩くオズワルドを見上げると、オズワルドの口元も少しだけ緩んでいる。
「楽しいの?」
「ん? ああ、そうだな。戦場での唯一の楽しみは、こうやって各地で何気ない買い物をしてその土地の発展なんかを見て回る事だ。その時には絶対に誰もつけない。一人で見て回って人々の暮らしを見るのが楽しいんだよ」
「良い王様ねぇ」
「そうか? 巷では冷酷王などと呼ばれているが」
「まぁ顔がね、怖いのよ。真顔だとさ、冷たく見えるよね。整いすぎて」
美人が黙って立っていたら怖いのと同じだ。本人にそんな気はなくても、どうしてもそう見えてしまう。
「楽しくもないのに笑えないだろ? ところでお前は何か欲しい物はないのか?」
「私? 私は別に――あ! 爪切り欲しいかも」
「爪切り?」
「うん。伸びて来ちゃってさ。仕事柄色んなとこ傷つけちゃうと困るでしょ? うっかりしててすっかり忘れてたんだよね」
私の言葉にオズワルドは何とも言えない顔をして頷くと、また無言で歩き出す。私はその隣を景色を楽しみながら歩いていた。
「見て! 羊がいるよ!」
「ほんとだな」
「可愛い!」
「美味そうだな」
「……」
「……悪い」
同時に出た言葉が真反対すぎて思わず私が黙り込むと、オズワルドが申し訳なさそうに言う。
「ねぇねぇ、この花なんだと思う?」
「さあ。ただの雑草だろ?」
「……」
「……すまん」
この人はどうやら徹底的にデートに向いていない。そんな事を考えながらオズワルドを見上げると、オズワルドがふいとそっぽを向いてしまった。
「オズワルドさ、デート下手すぎない?」
「デート? これはデートなのか?」
「男女で歩いてりゃ何でもデートでしょ!? それでこのまま夜になったら……ねえ!?」
「ねえ? と言われても。お前のメインはどうせそっちだろ? なるほど、これはデートだったのか。それは失礼したな」
「いいよ。……ねぇ今さ、内心厚かましい女だなって思ってない?」
「思ってる」
あまりにもはっきり言い切ったオズワルドの言葉に思わず私は笑ってしまった。そんな私に釣られたかのようにオズワルドも小さく笑う。
「お前の事は最初からとんでもない女だと思ってる。それはずっと変わらないな」
「でもそのとんでも女のおかげで色々出せたでしょ?」
「そうだな。あとやっぱりお前は気安すぎないか?」
「そうでもないよ。記憶失ったら皆こんなもんだよ」
「……そうか?」
話しながら歩いていると、目の前に街が見えてきた。
オズワルドが冷酷王だと呼ばれているという事はもう知っているが、実際どれほど評判が悪いのかと思っていたら――。
「……ねぇ、行き交う人が皆、縦に割れていくんだけど」
「言っただろ? 俺は冷酷王って呼ばれてるんだよ」
街に入った途端、行き交う人達が皆、私達に道を譲ってくれる。それほどにオズワルドは恐れられているようだ。
何だか人々のこんな反応が新鮮で私がキョロキョロしていると、気がつけばオズワルドは遥か前方を歩いていた。
「こっちだ。はぐれるなよ」
オズワルドの声に私は駆け出したが、人に阻まれてなかなか前に進めない。そうこうしている間にすっかりオズワルドとはぐれてしまった。
「あ、あれ?」
どこかの店に入ってしまったのか、目立つあの銀髪を探すがオズワルドはどこにも居ない。
その時だ。突然誰かに腕を掴まれた。
オズワルドかと思って振り向くと、そこには見知らぬ屈強な男が三人、こちらを見下ろしていやらしい笑みを浮かべている。ヤバいと思って男の腕から逃れようと抵抗してみたが、そのままズルズルと路地裏に連れ込まれてしまった。
「よぉ、姉ちゃん。見かけない顔だなぁ? どっから来たんだ?」
「えっと、人を探してるので」
三人の隙間を縫って逃げようとすると、今度は違う男が私の前に回り込んで通せんぼをしてくる。
「人探しか。手伝ってやるよ、楽しんだ後でな」
「そういうのも悪くないけど、今は流石にそういう気分じゃないのよ。本当に人を探してるの」
「分かってるって。ちゃんと探してやるよ。おい」
「ああ」
そう言って男は私のスカートの中に無遠慮に手を突っ込んでくる。
「ちょっと! 何すんのよ!?」
このままではヤバい。私が声を荒らげると、一人の男がその大きな手で私の口を塞いだ。
「叫ばれるのも悪くないが、それは連れ込み宿に行ってからにしてくれ」
「んーーーっ!!」
セックスは大好きだけれど、こういうのは好みじゃない。私は足と腕をバタつかせてどうにか男たちの腕から逃れようとしたけれど、三人の男の力に敵うわけがない。
「へへ! 久しぶりの上玉だな。歩いてる時から目をつけてたんだ」
「良い身体してんな、お前」
言いながら男はドレスの上から胸を思い切り揉んできた。気持ちよさよりも痛さが勝るぐらいの力で。
「んんんっ!!!」
その間にも下着は剥ぎ取られ、スカートと足を抱えあげられた。私の秘所が露わになり、風がそこを撫でていく。
歩き去るオズワルドの背中に手を振ってくるりと向きを変えて兵士に尋ねると、兵士は引きつったような顔をして尋ねてくる。
「な、なんでそんな事聞くんだ?」
「なんでって、そんなの決まってる――痛い痛い! なに!?」
思いっきり後ろから耳を引っ張られて私が振り返ると、そこには鬼のような顔をしたオズワルドがこちらを見下ろしている。
「気が変わった。お前もついてこい」
「はあ!? なんで!?」
「なんでもだ! そういう訳だ。こいつを借りていくぞ」
「は、はい!」
「やだー! ここに居る!」
「駄目だ。お前は今日一日俺の荷物持ちだ」
「絶対にやだ!」
どうして私がオズワルドの買い物についていった挙げ句に荷物持ちまでしなくてはならないのだ! そんなの契約には無かったはずだ。
抵抗する私の腕を掴んで、引きつる兵士の目の前を私はそのままズルズルと引きずられる。
「いいからついて来い。昼飯ぐらいは奢ってやるから」
それを聞いて私はシャンと背筋を伸ばして歩き出した。
「本当に? ありがとう! ねぇねぇ、ここの街って大きい? この間ね、兵士さんから聞いたんだけど、もつ煮込みが最高に美味しい所があるって聞いたの。それってここ?」
突然態度を改めた私にオズワルドも呆れ顔だ。
「……現金な奴だな。もつ煮込みか。それは別の所だな。ここは鶏料理が有名なんだ。チキンカツが人気だそうだぞ」
「人気だそうだって、食べた事ないの?」
「ないな」
「なんで?」
「王だからだ。王がチキンカツなど食べながら歩いていたら、周りは驚くだろう?」
「えー……つまんないの。今日は私も一緒に食べてあげるから食べよ! で、王様は何を買いに行くんですか?」
王というのはそんなにも周りの目を気にしなければならないのか。それはどれほど窮屈な人生なのだろう。
「ただの日用品だ。持ってきた歯ブラシが傷んでしまってな」
「ほんとにただのお買い物じゃん。歯ブラシって……」
まさかの庶民過ぎる買い物に思わず私が笑って隣を歩くオズワルドを見上げると、オズワルドの口元も少しだけ緩んでいる。
「楽しいの?」
「ん? ああ、そうだな。戦場での唯一の楽しみは、こうやって各地で何気ない買い物をしてその土地の発展なんかを見て回る事だ。その時には絶対に誰もつけない。一人で見て回って人々の暮らしを見るのが楽しいんだよ」
「良い王様ねぇ」
「そうか? 巷では冷酷王などと呼ばれているが」
「まぁ顔がね、怖いのよ。真顔だとさ、冷たく見えるよね。整いすぎて」
美人が黙って立っていたら怖いのと同じだ。本人にそんな気はなくても、どうしてもそう見えてしまう。
「楽しくもないのに笑えないだろ? ところでお前は何か欲しい物はないのか?」
「私? 私は別に――あ! 爪切り欲しいかも」
「爪切り?」
「うん。伸びて来ちゃってさ。仕事柄色んなとこ傷つけちゃうと困るでしょ? うっかりしててすっかり忘れてたんだよね」
私の言葉にオズワルドは何とも言えない顔をして頷くと、また無言で歩き出す。私はその隣を景色を楽しみながら歩いていた。
「見て! 羊がいるよ!」
「ほんとだな」
「可愛い!」
「美味そうだな」
「……」
「……悪い」
同時に出た言葉が真反対すぎて思わず私が黙り込むと、オズワルドが申し訳なさそうに言う。
「ねぇねぇ、この花なんだと思う?」
「さあ。ただの雑草だろ?」
「……」
「……すまん」
この人はどうやら徹底的にデートに向いていない。そんな事を考えながらオズワルドを見上げると、オズワルドがふいとそっぽを向いてしまった。
「オズワルドさ、デート下手すぎない?」
「デート? これはデートなのか?」
「男女で歩いてりゃ何でもデートでしょ!? それでこのまま夜になったら……ねえ!?」
「ねえ? と言われても。お前のメインはどうせそっちだろ? なるほど、これはデートだったのか。それは失礼したな」
「いいよ。……ねぇ今さ、内心厚かましい女だなって思ってない?」
「思ってる」
あまりにもはっきり言い切ったオズワルドの言葉に思わず私は笑ってしまった。そんな私に釣られたかのようにオズワルドも小さく笑う。
「お前の事は最初からとんでもない女だと思ってる。それはずっと変わらないな」
「でもそのとんでも女のおかげで色々出せたでしょ?」
「そうだな。あとやっぱりお前は気安すぎないか?」
「そうでもないよ。記憶失ったら皆こんなもんだよ」
「……そうか?」
話しながら歩いていると、目の前に街が見えてきた。
オズワルドが冷酷王だと呼ばれているという事はもう知っているが、実際どれほど評判が悪いのかと思っていたら――。
「……ねぇ、行き交う人が皆、縦に割れていくんだけど」
「言っただろ? 俺は冷酷王って呼ばれてるんだよ」
街に入った途端、行き交う人達が皆、私達に道を譲ってくれる。それほどにオズワルドは恐れられているようだ。
何だか人々のこんな反応が新鮮で私がキョロキョロしていると、気がつけばオズワルドは遥か前方を歩いていた。
「こっちだ。はぐれるなよ」
オズワルドの声に私は駆け出したが、人に阻まれてなかなか前に進めない。そうこうしている間にすっかりオズワルドとはぐれてしまった。
「あ、あれ?」
どこかの店に入ってしまったのか、目立つあの銀髪を探すがオズワルドはどこにも居ない。
その時だ。突然誰かに腕を掴まれた。
オズワルドかと思って振り向くと、そこには見知らぬ屈強な男が三人、こちらを見下ろしていやらしい笑みを浮かべている。ヤバいと思って男の腕から逃れようと抵抗してみたが、そのままズルズルと路地裏に連れ込まれてしまった。
「よぉ、姉ちゃん。見かけない顔だなぁ? どっから来たんだ?」
「えっと、人を探してるので」
三人の隙間を縫って逃げようとすると、今度は違う男が私の前に回り込んで通せんぼをしてくる。
「人探しか。手伝ってやるよ、楽しんだ後でな」
「そういうのも悪くないけど、今は流石にそういう気分じゃないのよ。本当に人を探してるの」
「分かってるって。ちゃんと探してやるよ。おい」
「ああ」
そう言って男は私のスカートの中に無遠慮に手を突っ込んでくる。
「ちょっと! 何すんのよ!?」
このままではヤバい。私が声を荒らげると、一人の男がその大きな手で私の口を塞いだ。
「叫ばれるのも悪くないが、それは連れ込み宿に行ってからにしてくれ」
「んーーーっ!!」
セックスは大好きだけれど、こういうのは好みじゃない。私は足と腕をバタつかせてどうにか男たちの腕から逃れようとしたけれど、三人の男の力に敵うわけがない。
「へへ! 久しぶりの上玉だな。歩いてる時から目をつけてたんだ」
「良い身体してんな、お前」
言いながら男はドレスの上から胸を思い切り揉んできた。気持ちよさよりも痛さが勝るぐらいの力で。
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