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6 みじめなきょうふ
しおりを挟む心臓が止まるほどの恐怖。
それは前世では一度体験している。
迫りくるバスの死の恐怖だ。
実際、それで本当に心臓が止まってオレは死んでるわけだ(笑)
…笑ってる場合じゃねえ…
今回の恐怖はまたひと味ちがう。
小動物がこれから始まる絶対的な力からの蹂躙が約束された、絶望による真の恐怖だ。
「…逃げなきゃ」
本能が逃げようと反応するが、体はすくんで強ばってなかなか動かない。
【グオオオオ!!!】
さらに雄叫びが響いた。
さっきよりも近づいているのがわかる。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ」
しかしどっちへ?どこへ?
【ガサガサ、ガサガサ!】
茂みの奥から気配がする。
何かがこっちに近づいて来ているのが分かる。
音のする方と反対へ逃げるしかない。
腰が抜けて立ってられないので、
ズルズルと地面を這いずりながら
必死で逃げようとする。
腕や腹のあたりが茂みでこすれているが、
もはや痛みも感じない。
__逃げろ!にげろにげろにげろ__
そんな惨めな本能だけに突き動かされ、
目的も目標もなく這いずった。
【ガサガサガサガサ!!!】
激しく周りの茂みが動いた。
頭の上に生臭い気配がする。
声も出ないのに、
なぜだか
オレは自動的に頭を上げ、
暗闇の中、
その生臭い方に頭を向けた。
そこには暗闇の中ボンヤリと鈍く光る2つの目があった。
鳥肌が全身から泡のように立つのを感じた。
そして、目と目が会った瞬間
【グオオオオオオオオ!】
まさに文字通り地面が激しく揺れる。
そんな地響きの中、
迫りくる壁のようなバスの車体と
地響きのようなエンジン音が目の前に迫った、
前世の最後の記憶を思い出していた。
ああ、死んだな…
これ、絶対に死ぬやつだな…
オレの意識は闇の中へみじめなきょうふと共に
焼却炉に投げ込まれる生ゴミのように消えていった……
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