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第十一話 冒険者登録
しおりを挟む海翔は今イースアの王都イルーソにある王城で、王座に座っていた。……やはり落ち着かない海翔である。
海翔の目の前にはこの作戦で指揮を執った隊長格とアルファにベルガが居る。
そしてその全員が今海翔に跪いている。海翔としてはさっさと終わらせて欲しいと思っているが、それでも務めとして今後について色々と話合われた内容を伝えている。それも全国民に向けてである。
先ず処刑は明後日行われる事。場所を伝え、処刑を見たい平民は見れるという事。また仕方なく従っていた人物だと此方が判断した者は、強制労働になる。勿論貴族の当主はその有無など関係なく帝国派に組していた者は処刑されてしまうが、その子共に関しては強制終身労働か処刑か調べて判断することになる。
空いた貴族の席に関して、海翔の分身の中で貴族として配置する配下の名前と配置される領地の名前が読み上げられた。また王都に関してはベルガに一任されている。
基本的に男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順に偉くなるが、更に公爵の次に大公としてベルガにこの地を任す事となった。
因みに細かい爵位などは面倒なので海翔は取りやめた。伯爵の上の辺境伯や、男爵の下の準男爵などは、元々この国にも無かったようなのでそのままである。もしあったらどこかに統合となっていた。
これらを伝え終えた海翔は、国宝のスイッチを切りアイテムボックスへと片付けた。
「ふぅ、これで後は処刑と帝国との戦争だけか、皆そろそろ普通にね」
海翔の言葉に一同立ち上がる。そしてアルファとベータはすかさず海翔の斜め後ろへと転移をした。
「では、今後の予定も会議で決めた通りでよろしいでしょうか?」
「……本当に、死傷者は出ないよね?」
アルファの問いに、海翔がゆっくりと返す。
「勿論でございます」
今後の作戦とは……待つことである。
今回は奇襲として王都を奪還したが、今後考えられる帝国との全面戦争は、そのまま正面から受けるという作戦であった。それは、完膚なきまでに敗北と言う物を覚え込ませた方がいいと言う海翔以外の全員の意見の一致であったからだ。本来であればSランクの人物は奇襲をかけて斃すはずであったが、それも戦場にて堂々と相手の士気を下げるために戦う事としたのだ。
海翔としては、安全に安全にとにかく安全に行きたかったが、表に出るためには必要な事だと言われて渋々頷く事になった。
なので、これから帝国の情報が集まり、あちら側から此方に宣戦布告をしてくるまでは待機となっている。あまりにも遅ければ此方から攻撃となるが、それは三か月音沙汰がなかった場合である。
……逆に三か月と言うのは短いように感じるが、そこまで相手に準備をさせる必要もないと此処は海翔が押し切った。それでもある程度の猶予には変わりない。
「じゃあ予定通り俺はダンジョンかな、その前にギルドか」
「はい、我々は一応ギルドに登録済みでございますので、後はマスターがご登録なさればそのまま共に行けます」
「パーティーは、アルファ、タウ、ゼータ、ミューで変わりない?」
「ございません」
この会話はベルガに聞こえなかったが、そもそも彼は未だに夢でも見ているのかという気持ちでいた。つい昨日までは絶望の中の一筋の光に手を伸ばし、なんとか生き残ろうと必死であった。
しかしどうであろうか、今自分は慣れ親しんだ謁見の間でこうして此処に居る。
ベルガは乾いた笑みを浮かべながら、漸くやってきた自分の選択の正しさを噛み締めてゆっくりと息を吸った。正念場はまだ続いている、まだ気を許すな。そう自分に言い聞かせながら。
海翔は取り合えず登録だけは今日のうちにしてしまおうとアルファに頼み、ダンジョンがある街の近くまで転移した。
その街は、遠目から見ても賑わっている事が分かる。なにせ、このスリオにある唯一のダンジョンなのだ。基本荒くれ者や冒険者、そしてそれを相手に商売をする人々は此処に来ている。国の一大事等自分達には関係ないと毎日の生活に精を出していた。
街の近くまで来ると、その熱気が海翔たちまで伝わってきた。
中は、やはり武装したそれでいて騎士では無い人間が多数おり、これぞファンタジーだと海翔は感動していた。
その後、海翔だけ身分証が無かったので通行税を払い中へと入った。他の街では身分証が無いと犯罪歴などをチェックされるが、この街ではそういった事はしていない。此処では力が物を言うのだ。無論この街で罪を犯せば裁かれることに変わりはないが。
「マスター、ギルドは此方でございます」
人ごみの中で、海翔たち一行は割と目立っていた。洋服は平民の物へと変えてきた海翔だったが、それ以上にメイド服のアルファは目立つ。周囲では、何処かの貴族のお忍びかとひそひそと噂が流れ始める。だが彼らはそんな事は気にせずに冒険者ギルドまで突っ切った。
この街は冒険者の区画だけを行き来するのであればそこまで広くはない。居住地や店を探すとなると少々歩く。馬車はたまに商人の馬車が走っているだけだ。あとは基本徒歩である。
海翔は街並みを堪能しながらも、見上げるその建物一つ一つが自分が異世界に居るという事を実感させてくれるもので、割とワクワクとしていた。確かにクウェドも素晴らしい街だが、此処はまさにと言った雰囲気があるのだ。やっぱり雰囲気は大事だなと思いながら歩いていた海翔、そのせいもあり体感時間的に直ぐにその建物に辿り着くことが出来た。
紋章は、盾の前で剣と杖が交差している物。これが冒険者ギルドの印である。
開け放たれている扉を潜った海翔は、ぐるりとギルドの建物を見渡す。
ギルド内はどちらかというと正方形のような形をしており、右にはカウンター左には併設されている酒場というか軽食が食べられる場所があり、その丁度真ん中には立てられている板に依頼が張ってある。そして受付の奥には階段が存在していた。
このなんというかまさにというギルドに、海翔は目を輝かせた。アニメで見たその世界に自分が入り込んでいる。今までもそう言った感覚はあったが、やはりこのようなテンプレな場所はまた別格なようだ。
中にいた冒険者たちも海翔たちを一瞥しながら観察する。
だが此方のテンプレは発動しなかったようだ。所謂絡みというやつである。
理由としては、メイドがいるからだ。わざわざ貴族の反感を買うような者はこの場には居なかった。それ以上に熟練の者ほど出来るだけ顔を合わせないようにしていた。それは、全員手練れであることが分かるからだ。特にタウとゼータは分かりやすい、足運びが玄人のそれなのだ。
そのことを見抜いたベテランが辺りにこっそりと忠告を入れる。あの一行に手を出すとやばいと。
そんな事になっているとは全く知らない海翔は、流石に現実ではテンプレも受付の可愛い女性もいないかと少し落胆していた。受付に居るのは、基本ゴツイおっさんである。かろうじて依頼を持ち込む側の受付には見目のいい青年が座っている程度。やはり男稼業、仕方ないと海翔は登録のカウンターへと座る。
「此処は登録カウンターだ、間違っていないか?」
言葉遣いは分かってはいたと言えピクリと眉が上がるアルファ。しかし此処で問題を起こすほど彼女も馬鹿では無いのでそのまま静観する。
「登録をお願いします」
「ふむ、後ろのはどうすんだ? 全員か?」
「いや、彼らは全員冒険者なんですよ、なので俺だけでいいです」
「そうか、ではこの紙に名前と種族後は……まぁ自分の得意な得物なんてものはパーティーを探す時にこっちが助かるんだが、パーティーはいるようだしな。飛ばして最後の魔力片だけもらえればいいか。一応説明はいるかい? 冒険者は自己責任だとか」
「いや、それは彼らに聞いていたから大丈夫ですよ」
そう言いながらも、海翔は名前を考えていた。
流石にカイトと書く訳にもいなかない。あれだけ大々的に宣言したのに加えて、この世界では珍しい名前だ。書いたら偽名か、最悪本人だとばれた時が面倒くさい。そう思いながら、ショウと書き込んだ。海は気にしないようにしたらしい。
後は魔力片だが、これはぷちっと血を垂らして完成である。
因みに、冒険者の規約というか約束事と言うのは、受付の男性も言っていたが先ず自己責任である事。犯罪を起こした場合一生冒険者にはなれない事。またギルドでの迷惑行為には罰則あることなどが上げられる。
紙を持って行った男性が帰ってくるまで、そんな話を海翔はアルファに聞いていた。その間ゼータは周囲を警戒、タウはいい依頼が無いかと探しに出ていた。
少しして戻ってきた受付の男性は、一つのカードを持っていた。
「じゃあこれがギルドカードだ。最初はFランクからだな。まぁ頑張れや。特に依頼を受けてなくても失効することはないが、失くしたら結構手続きが面倒だからな、金もかかるし、気を付けろよ」
「分かりました、それでは」
一応礼を言って立ち上がる海翔だが、直ぐにカードに目を走らせる。割と厚い金属のプレートに自分の名前とランクが彫られている。色からして銅だろうか。よくこの短時間で作成できるものだと感心した海翔は、やはりギルドにしか存在しない遺産やら神の遺物なんてものがあるんだろうなとそれをアイテムボックスへと仕舞い込んだ。
「タウ」
カイトが呼ぶと、ふらふらっと直ぐにやって来るタウ。
「終わったんすね」
「終わった。思ったよりも早かったし、夜まで少し潜ろうと思うんだけど、皆どう?」
その提案に否を唱える者はおらず、海翔は割と上機嫌でギルドを後にした。
海翔たちが去ったギルドで、海翔の受付をしていた男性がよっこらせと腰を上げて、代わりの受付に変わる。男性は二階へと歩を進めて、一番大きな扉をノックする。
「入っていいですよ」
中からは少し澄ましたような男性の声が聞こえてきた。
受付の男性が中に入ると、きっちりと書類が並べられている机に神経質そうな眼鏡をかけた男性が向き合っていた。
部屋の中はびっしりと本が詰め込まれており、受付の男性は圧迫されそうであまりこの場所が好きではなかったが、好き嫌いを言っている場合でもないので先ほどあったことを報告する。
「ギルマスの言っていた一段が、一人登録していきましたぜ」
「……見間違いですかね」
彼はその横に長い尖った耳を少しピクリと動かしながら、一枚の書類を取り出す。
「それは?」
「約80年前に登録した方の書類なのですがね、似ているんですよね彼女。その当時は私も受付に居たのですが、なんというか愉快な女性で覚えていたのですよ。当時はピリピリとした雰囲気を纏っていましてね、口説きにまたは挑発や下卑た誘いをする輩を一掃して女性冒険者に人気があったんですよ。一応人族と登録されていましたから、もう亡くなっているもしくはよぼよぼのお婆ちゃんだと思うんですけどね」
エルフの男性はふぅとため息を吐く。先ほど偶然にもギルドに入って来る一団を目にした時の疑惑。
そしてふと最近起こったこの国を揺るがす事件が頭をよぎる。
「その登録しに来た男性は、黒髪だったのですよね」
「えぇまぁ、いないという程でもないですが、珍しい色ですよね」
「本人? いやしかし……」
エルフの男性は黙り込む。
もしその黒髪が例のカイト・アルトリヴンだとして、一体どのような用件で冒険者になんぞ登録するのか、彼には分からなかったのである。だがその可能性も捨てきれない。そして、あの女性が同一人物若しくは娘だとしてもだ、彼らは謎に包まれていた。
例の女性も、ふらりといなくなってしまいこのギルドをがっかりさせたものだと、エルフの男性は記憶を引っ張り出して懐古する。
「その人物たちの反感は余り買わない方がいいでしょうね、取り合えずそれをギルド全体に厳命してください」
「分かりました」
受付の男性は頭を下げてギルドマスター室から出て一息つく。
一階へと降りると、裏口の扉が開き、遅めの休憩に言っていた同僚と鉢合わせた。
「おう、二階って事は呼び出されたのか、へまでもしたか?」
「いんや、なんでもちょっと面倒なご一行が来てな。黒髪の男にメイド服と金髪のねーちゃんにちょっとちゃらんぽらんそうな茶髪のにーちゃん、それから気の強そうな赤髪のねーちゃん、そいつらのパーティは丁寧に、反感を買わないようにってよ」
「へぇ、ギルマスがそこまで言うなんて珍しいな、何かあったのか」
「なんでもすげぇ昔に会ったメイドに似てるらしいのと、ほらほら、なんかカイトなんたらとかの影響もあるんじゃねーの」
「あぁ成る程、覚えとくぜ」
「おう」
そういって受付の男性は他の人の方へと伝えに行った。それを見ていた今伝えられた男性は握りこぶしを作る。怒るのではなく、悔しがっていた。自分が対応できなかった事を。折角マスターと話せるチャンスを棒に振ったことを。
しかし冷静になり伝えるべきことを優先する。
『アルファ様』
『どうしました』
『ギルドでアルファ様が昔訪れた者の同一人物ではないかと疑われております。それから、疑惑程度でしょうかマスターの身を疑っているようです』
『わかりました』
念話を切って仕事へと戻った。
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