愚痴と黒猫

ミクリヤミナミ

文字の大きさ
上 下
13 / 17

ブラックホール

しおりを挟む
「どうした?今日も難しい顔して。」

「ああ、ちょっと舐めてたかもしれん。」

「何を?」

「ブラックホール。」

「なんだって?」

「いや。まあ、聞くか?」

「ほう。何か頂けるのかな?」

「けっ。やっぱりかよ。」

 スーパーで半額だった刺身を小皿に取り分けて黒猫の前に置く。
 チキショウ。うまそうに食いやがる。

「で、ブラックホールがどうしたって?」
 顔中をなめまわしながら聞いてくる。

「田中だよ。」

「田中……。朱莉か?」

「そ。」

「じゃあ、シャリア・ブルの話か!」

「シャ……ややこしいな。まあそうだ。木星帰りの男だな。」

「で、ブラックホールをぶつけてみたか?どうだった。」

「俺の言い訳が神がかり的だとするなら……」

「何の話だよ」

「田中の男を操る力量は、神そのものだったよ。」

「神?」

「すさまじいぞ。
 いやな。今までも、アイドル然としてうまく立ち回るなぁとは思ってたんだけどさ。」

「なんだよ。認識が間違えてたってか?」

「間違いではないんだけど、低く見積もりすぎてたよ。」

「そんなにか。」

「そんなにだ。
 ペア初日で下僕と化したよ。木星帰りの男は。」

「二人だけで組ませたのか?」

「いや、マンツーはいろいろ危険だと思ってな。朱莉と寧々のツーマンセルだ。」

「最強コンビだな。どちらに惹かれるか……オッズは?」

「いや、俺の中の下馬評ではトントンくらいだったんだけど、全然レベルが違ったわ。」

「初見でか?」

「いや、最初はいい感じでトントンだったと思うよ。俺の読みが当たったと思ってホルホルしてたんだけどさ。
 一応職場では朱莉たちが先輩じゃん?だから、フロアの主導権は朱莉と寧々が持ってんのよ。で、仕事の割り振り二人が決めるんだけどさ。」

「おう、まあ、そこに年齢は関係ないもんな。で?」

「朱莉が、あれこれと木星に頼むんだけどさ、そのたびに木星の動きが活性化するんだよ。」

「活性化?」

「なんていうのかな。完全に恋する男なんだよね。どんどん惚れていくのが見えるんだよ。途中から寧々の事目に入ってないみたいだったよ。」

「木製の木偶出来上がりってか。」

「誰がうまいこと言えと。まあ、木偶は木製だから、腹痛が痛いみたいな感じだが……」
「それはいいよ。で?」

「ああ、でな。初日で下僕。二日目には教祖と信者。で、すでに今では神と信者だよ。朱莉に対して絶対服従だ。」

「朱莉ってドS?」

「いや、わからん。そうかもしれんし、違うかもしれん。」

「そんなに命令できるもん?」

「命令じゃないんだよな。厄介なのが、「お願い」なのよ。」

「頼むのか、木偶に。」

「そう。「次これお願いできますか?」ってくるわけさ。木偶は「わかりました」ってクールに答えてるつもりなんだろうけど、尻にはぶんぶん回る尻尾が見えるようだよ。顔には「喜んで!!」って書いてあるもん。笑顔がすごい。」

「まあ、でもいいんじゃないか。仕事も覚えるし、魔の手にも引っかかってないんだろ?」

「確かにな。そのあと森本女史と会っても、全く反応を示さなかったよ。指示を受けても淡々とこなすだけ。森本女史のことを石像くらいにしか思ってないんじゃないかな。」

「なら、一件落着じゃないか。じゃあ、大友女史への思いも吹っ切れたのか?」

「それはどうだろうな。まだ怖くてぶつけてないんだよ。」

「もう少し落ち着いてからがいいかもな。」

「もう少しすると、完全に朱莉に落ちそうだけどな。」

「今度は朱莉にストーキングか?」

「まあ、朱莉は大丈夫そうだよ。」

「高校生だろ?一番危険じゃないか。ちゃんと対策打たないと。」

「いや、たぶんもう必要ないと思うよ。さっきも言ったろ?信者だって。ストーキングすら恐れ多くてできないよ。あれじゃ。」

「そんなにか?」

「だって、ここ数日朱莉仕事してないもん。「あれお願い。」「これお願い」って言うだけですべて終わるんだぜ。簡単な仕事もあったもんだよ。
 最近は、寧々まで乗っかって、朱莉越しに全部の仕事を木偶にやらせてるよ。」

「ってことはワンオペ?」

「そう。いやぁ、ある意味恋の力ってすごいよね。あの時間帯、大友女史でもワンオペきついと思うぜ。それなのに、木偶が華麗にこなしてるよ。」

「じゃあ結果オーライってやつか。」

「そうだな。ま、問題と言えば……」

「何かあんのか?」

「木偶は、朱莉が居ないと魔法が切れたように動きが悪くなる。」

「使えねぇな。結局ワンオペできねぇじゃねぇか。」

「そうだな。朱莉とワンセットだから、結局朱莉の時給も払ってるからな。」

「まあ、世の中そんなおいしい話ばっかりじゃないってことだな。まあ、頑張れよ。」

 黒猫はつまらなそうに顔をひとなめして窓から出ていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語 ~その後~

菱沼あゆ
ライト文芸
「不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語」その後のお話です。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...