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行きはよいよい、帰りはこわい
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「どうした?今日は何か難しい顔してるな。」
「女房かよ。よくわかるな。」
「わかりたくもないけどな。ことと次第によっちゃあ聞かなくもない。」
「へいへい。少々お待ちください。」
帰り路にスーパーで買った半額の刺身盛から切り身をいくつか小皿に取り分ける。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「うむ。苦しゅうない。」
黒猫はいうが早いか、小皿にがっつく。
「さて、何からどう話したもんかなぁ。」
頭の中を少し整理する。
「昨日の夜シフトだったバイト達が、今朝仕込み中の俺んとこにおっとり刀でやってきたんだよ。まぁすごい剣幕でさ。『大変だぁ!!』ってなもんさ。で、とりあえずセッティングが終わったばっかりのドリンクバーを飲ませて落ち着かせようとしたのよ。」
「ほう。」
「ところが必死でさ、『昨晩のシフトで一緒に居たアルバイトが一人消えた』と、で、警察を呼んでくれと。」
「ほほう。大変じゃないか。呼んだのか?」
「いやいや、まあまて。で、言ってる意味が分からなかったから、とりあえず落ち着かせて話を聞いたのよ。」
「えらく冷めてるな。」
「そりゃまあな。取り敢えず話を聞きだしたら、
昨晩の閉店作業の時に、一足早くレジを閉め終えたフロアの高島が暇になったらしくて、キッチンスタッフに『このあたりに心霊スポットはあるのか?』って聞いてきたらしいんだ。」
黒猫は刺身を食べ終えると、名残惜しそうに口の周りをなめながら聞いてくる。
「高島?」
「ああ、深夜バイトの女子大生だな。県立大の3年生だったかなぁ。社会学部だか……なんだかって言ってたが、『どんなこと勉強してんの?』って聞いたら、『さあ?』って、まあ良くも悪くも今どきの女子大生だよ。」
「ふぅん」
「で、その時のキッチンスタッフが、村上と丸山だな。村上は、地元商社に勤めてるダブルワーカーだ。前までは本業には内緒でやってたが、マイナンバー導入されて、観念したらしく申告したら、意外にも許してくれたらしい。商社の営業だから地元の情報には強いな。で、丸山は有名国立大に7年通ってる地元通だし。大学では主(ぬし)と呼ばれてるらしい。」
「二人とも心霊スポットの一つや二つは知ってそうだな。」
「そこそこ詳しいんじゃないかな。で、近くにあるダムの話になったと。まあ、心霊スポットの定番って感じだな。」
「そこはどんな心霊スポットなんだ?」
「なんでも、ダムに向かう途中のトンネルで出るの出ないの……てな感じの話だったと思う。」
「なんだよ。ずいぶん雑な知識だな。」
「興味ねぇもの。心霊スポットなんて、若い男女がワッキャするために行くところだろ?」
「まあ、モテない中年には必要ないな。」
「うるせぇ。で、閉店してからみんなでそこ行こうって話になったみたいでさ。金曜の晩だし、翌日仕事の奴は誰も居なかったから。」
「なるほどな。男女でワッキャするために行ったんだな。」
「そ、そういうこと。で、高島の車にフロアとキッチンのスタッフ全員乗ってダムに向かったんだと。そりゃ行き道は楽しかったらしいよ。パリピそのものだよな。みんなで楽しくはしゃぎながらダムのトンネルに向かったらしい。」
「ほうほう。で、」
「トンネルの少し手前に駐車場があってな。そこに車を止めて、そこからは歩いて目的の場所へ行ったみたいなんだよ。」
「なんかでたのか?」
「まあ、結論からすると出ない。消えたらしい。」
「アルバイトがか?」
「え?いや、トンネルについて、皆で怖いのを隠しながら強がって中に入ってったらしいんだ。」
「ほほえましいな。」
「ああ、若いっていいよな。高島は一人怖がってたみたいなんだが、男性陣は『出るわけねぇよ』ってな感じで、背中に冷や汗書きながらトンネルの中をずんずん進んで行ったらしい。」
「ほうほう。で、何が消えた?」
「照明。」
「トンネルのか?それは怖いだろ。」
「まあ、たぶん俺でもちびったと思うよ。急に消えたら。」
「そうだろうな、いつもちびってるもんな。」
「ちびってねぇよ。なんでだよ。」
「くしゃみしたり、力入れたらちびってるだろ?切れも悪いんじゃねぇのか?」
「な!なぜそれを!!
じゃねぇよ。それは良いんだよ。経年劣化だ。仕方ねえだろう。」
「まあ、話を続けてくれたまえ。」
「お前が、止めたんじゃねぇか。
でだ、まあ、奴らは飛び上がるほど驚いたらしい。で、一目散に入り口に向かって駆けだしたらしいんだな。逃げ足は高島が一番だったらしいが……。で、トンネルの入り口にたどり着いて、一息つくと、気が付いた。4人しかいない。一人足らんと」
「ひでえ奴らだな。置いてきぼりにしたのか。」
「まあ、真っ暗なトンネルの中で、ビビりまくった状態だったら、入り口の光めがけて走ることしか頭にないだろうな。仕方ないと思うよ。で、そこで4人は困ったらしいんだな。」
「お前は楽しそうだな。」
「まあ、他人事だしな。」
「お前んとこのバイトだろ?」
「まあ、聞けよ。真っ暗なトンネルの中にもう一度入る勇気はない。でも、探さないと。待ってるわけにもいかない。さてどうするか?」
「で、どうした?」
「明かりが無いとどうしようもないってことで、車でトンネルの中に入ろうってことになったらしい。2人がトンネル前に残って、残り2人が車を取りに行く。まあいい判断だな。」
「ほう。で、」
「興味津々だな。車は高島のだから、高島と丸山が車に戻ったんだが、終始高島はビビりっぱなしで役に立たなかったみたいだ。高島が丸山の背中にしがみ付いて、歩きにくいながらも丸山は急いで車のところに戻って、まともに運転できなそうな高島に代わってトンネルまで車を持ってきたんだと。」
「そしたら、トンネル前の2人も居なかった?」
「そこまで行くと、さすがに俺もビビるけどな。ま、ビビる以上にいい話題だな。テレビ局に持って行ってもいいかもな。」
「クズだな。相変わらず。」
「まあ、いい。二人はトンネル前でちゃんと待ってて、トンネルから誰も出てきてないことを確認してたらしい。で、四人で車に乗ってトンネルの中をゆっくり進む。
進んでみると、意外にトンネルは短かったらしくて、すぐに反対側まで出てしまう。反対側はダム湖だ。その先へも車を進めるが、人影はない。そこから10分ほど車で走ってみたが、やはり人影は見つけられない。この短い時間で、これ以上先に行けるとも思えないので、そこでUターンして、もう一度人影を確認する。
やっぱりいない。
ってなことを、何往復も繰り返したらしい。すると、じきに空も白み始めてきた。」
「ずいぶん探したんだな。」
「ああ、で、今まで口を開かなかった神崎が『ダム湖に落ちたんじゃ?』なんて言い出したらしい。」
「神崎?」
「ああ、フロアのバイトで高島と同じ大学の1年生だな、大学で会ったことは無かったらしいけどな。まあ、存在の薄い男だよ。これといった特徴は無いな。」
「にしても、物騒なこと言うなぁ。」
「でも、そこまで見つからなきゃそうなるよな。で、ダム湖を見てみるが、浮いている人影もない。まあ、沈んでたらわからないしな。」
「ヤなこと言うな。それこそ警察呼んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだよな。そう思うよな。」
「他人事だな。お前んとこに来たんだろう?呼んでやれよ。」
「いやいや、呼ぶんなら、ダムで呼べよ。どこに来てんだよって話だよ。」
「まあ、そうだけど、それだけお前を頼ってる事じゃねぇか。ちゃんと対応してやったのか?」
「いんや。呼んでない。」
「クズが」
「いやいや、最後まで聞けよ。で、奴らはパニックになって、慌てて店まで帰ってきたらしいんだよ。まあ、確かに高島以外は、チャリやらバイクを店に置きっパだしな。帰ってくる必要はあったんだが、そこに、いつもより早めに開店準備してた俺が居たわけだ。」
「グッドタイミングじゃねぇか。頼りになる店長だと見せるために警察を呼んだか?」
「呼ばない。」
「かたくなだな。なんでだよ。」
「いやいや、だれが居ないんだよって話なのよ。」
「へ?」
「いや、俺がそう思ったよ。最初に奴らが来た時に、『昨晩のシフトで一緒に居たアルバイトが一人消えた』と言ってんだけどさ。俺がシフト組んでんのよ。」
「おう、だから何?」
「昨日のシフト4人なんですけど。」
「は?」
「だから、昨日のシフトは、フロアが高島・神崎。キッチンが、村上・丸山の4人なのよ。」
「あと一人は?」
「居ねぇよ。メンバーとしてはあと一人大泉が居るけど、昨日は休みだ。だから、「一人いない」って言われても困るんだよね。いないの誰だよ?って話でさ。慌てて警察呼ばなくてよかったね。ってのが正直な感想だな。」
「その時に休みだった大泉が居たってことは無いのか?」
「ないだろうね。大泉はコミュ障だから、休みまで会いに来るような奴じゃないし。なにより髙橋の車、『軽自動車』だ。」
「軽を差別するのか?」
「いや、4人乗りだ。5人乗ってりゃかなり窮屈だ。それを言ったら、本人たちもきょとんとしてたよ。『あれ、居ないの誰だっけ?』ってさ。」
「わかんねぇじゃねぇか。その大泉とかが何かの間違いでやってきて、ぎゅうぎゅうの軽自動車でみんなでワッキャ言いながら言ったかもしれんだろ?」
「いや、その辺ことを聞いてみたら、行きの車は4人しか乗ってなかったってよ。運転高島、助手席丸山、後部座席が、運転席側村上、助手席側神崎、で、村上と神崎の間は誰も居ないってさ。ぎゅうぎゅうにもなってなかったらしい。
で、一応大泉にも聞いてみたよ。朝から電話したから不機嫌だったけど、ちゃんと家にいた。」
「ふ~ん。ある意味、本人たちには一番の恐怖体験だったんだな。」
「まあ、そんなところだな。開店前から疲れたよ。」
「お前は、その話聞いて何とも思わなかったのか?」
「?なにが。まあ、不思議なこともあるもんだなぁと、これが集団ヒステリーってやつかと思ったよ。」
「そうか。もしかしたら本当にいなくなった奴が居るのかもな。」
「いやなこと言うなよ。ま、俺はそういう心霊的なものは一切信じないけどな。」
「俺とぶつくさ話してるお前が言うかね。まあいい。じゃあな。」
黒猫はフイっと窓から出て行った。
「女房かよ。よくわかるな。」
「わかりたくもないけどな。ことと次第によっちゃあ聞かなくもない。」
「へいへい。少々お待ちください。」
帰り路にスーパーで買った半額の刺身盛から切り身をいくつか小皿に取り分ける。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「うむ。苦しゅうない。」
黒猫はいうが早いか、小皿にがっつく。
「さて、何からどう話したもんかなぁ。」
頭の中を少し整理する。
「昨日の夜シフトだったバイト達が、今朝仕込み中の俺んとこにおっとり刀でやってきたんだよ。まぁすごい剣幕でさ。『大変だぁ!!』ってなもんさ。で、とりあえずセッティングが終わったばっかりのドリンクバーを飲ませて落ち着かせようとしたのよ。」
「ほう。」
「ところが必死でさ、『昨晩のシフトで一緒に居たアルバイトが一人消えた』と、で、警察を呼んでくれと。」
「ほほう。大変じゃないか。呼んだのか?」
「いやいや、まあまて。で、言ってる意味が分からなかったから、とりあえず落ち着かせて話を聞いたのよ。」
「えらく冷めてるな。」
「そりゃまあな。取り敢えず話を聞きだしたら、
昨晩の閉店作業の時に、一足早くレジを閉め終えたフロアの高島が暇になったらしくて、キッチンスタッフに『このあたりに心霊スポットはあるのか?』って聞いてきたらしいんだ。」
黒猫は刺身を食べ終えると、名残惜しそうに口の周りをなめながら聞いてくる。
「高島?」
「ああ、深夜バイトの女子大生だな。県立大の3年生だったかなぁ。社会学部だか……なんだかって言ってたが、『どんなこと勉強してんの?』って聞いたら、『さあ?』って、まあ良くも悪くも今どきの女子大生だよ。」
「ふぅん」
「で、その時のキッチンスタッフが、村上と丸山だな。村上は、地元商社に勤めてるダブルワーカーだ。前までは本業には内緒でやってたが、マイナンバー導入されて、観念したらしく申告したら、意外にも許してくれたらしい。商社の営業だから地元の情報には強いな。で、丸山は有名国立大に7年通ってる地元通だし。大学では主(ぬし)と呼ばれてるらしい。」
「二人とも心霊スポットの一つや二つは知ってそうだな。」
「そこそこ詳しいんじゃないかな。で、近くにあるダムの話になったと。まあ、心霊スポットの定番って感じだな。」
「そこはどんな心霊スポットなんだ?」
「なんでも、ダムに向かう途中のトンネルで出るの出ないの……てな感じの話だったと思う。」
「なんだよ。ずいぶん雑な知識だな。」
「興味ねぇもの。心霊スポットなんて、若い男女がワッキャするために行くところだろ?」
「まあ、モテない中年には必要ないな。」
「うるせぇ。で、閉店してからみんなでそこ行こうって話になったみたいでさ。金曜の晩だし、翌日仕事の奴は誰も居なかったから。」
「なるほどな。男女でワッキャするために行ったんだな。」
「そ、そういうこと。で、高島の車にフロアとキッチンのスタッフ全員乗ってダムに向かったんだと。そりゃ行き道は楽しかったらしいよ。パリピそのものだよな。みんなで楽しくはしゃぎながらダムのトンネルに向かったらしい。」
「ほうほう。で、」
「トンネルの少し手前に駐車場があってな。そこに車を止めて、そこからは歩いて目的の場所へ行ったみたいなんだよ。」
「なんかでたのか?」
「まあ、結論からすると出ない。消えたらしい。」
「アルバイトがか?」
「え?いや、トンネルについて、皆で怖いのを隠しながら強がって中に入ってったらしいんだ。」
「ほほえましいな。」
「ああ、若いっていいよな。高島は一人怖がってたみたいなんだが、男性陣は『出るわけねぇよ』ってな感じで、背中に冷や汗書きながらトンネルの中をずんずん進んで行ったらしい。」
「ほうほう。で、何が消えた?」
「照明。」
「トンネルのか?それは怖いだろ。」
「まあ、たぶん俺でもちびったと思うよ。急に消えたら。」
「そうだろうな、いつもちびってるもんな。」
「ちびってねぇよ。なんでだよ。」
「くしゃみしたり、力入れたらちびってるだろ?切れも悪いんじゃねぇのか?」
「な!なぜそれを!!
じゃねぇよ。それは良いんだよ。経年劣化だ。仕方ねえだろう。」
「まあ、話を続けてくれたまえ。」
「お前が、止めたんじゃねぇか。
でだ、まあ、奴らは飛び上がるほど驚いたらしい。で、一目散に入り口に向かって駆けだしたらしいんだな。逃げ足は高島が一番だったらしいが……。で、トンネルの入り口にたどり着いて、一息つくと、気が付いた。4人しかいない。一人足らんと」
「ひでえ奴らだな。置いてきぼりにしたのか。」
「まあ、真っ暗なトンネルの中で、ビビりまくった状態だったら、入り口の光めがけて走ることしか頭にないだろうな。仕方ないと思うよ。で、そこで4人は困ったらしいんだな。」
「お前は楽しそうだな。」
「まあ、他人事だしな。」
「お前んとこのバイトだろ?」
「まあ、聞けよ。真っ暗なトンネルの中にもう一度入る勇気はない。でも、探さないと。待ってるわけにもいかない。さてどうするか?」
「で、どうした?」
「明かりが無いとどうしようもないってことで、車でトンネルの中に入ろうってことになったらしい。2人がトンネル前に残って、残り2人が車を取りに行く。まあいい判断だな。」
「ほう。で、」
「興味津々だな。車は高島のだから、高島と丸山が車に戻ったんだが、終始高島はビビりっぱなしで役に立たなかったみたいだ。高島が丸山の背中にしがみ付いて、歩きにくいながらも丸山は急いで車のところに戻って、まともに運転できなそうな高島に代わってトンネルまで車を持ってきたんだと。」
「そしたら、トンネル前の2人も居なかった?」
「そこまで行くと、さすがに俺もビビるけどな。ま、ビビる以上にいい話題だな。テレビ局に持って行ってもいいかもな。」
「クズだな。相変わらず。」
「まあ、いい。二人はトンネル前でちゃんと待ってて、トンネルから誰も出てきてないことを確認してたらしい。で、四人で車に乗ってトンネルの中をゆっくり進む。
進んでみると、意外にトンネルは短かったらしくて、すぐに反対側まで出てしまう。反対側はダム湖だ。その先へも車を進めるが、人影はない。そこから10分ほど車で走ってみたが、やはり人影は見つけられない。この短い時間で、これ以上先に行けるとも思えないので、そこでUターンして、もう一度人影を確認する。
やっぱりいない。
ってなことを、何往復も繰り返したらしい。すると、じきに空も白み始めてきた。」
「ずいぶん探したんだな。」
「ああ、で、今まで口を開かなかった神崎が『ダム湖に落ちたんじゃ?』なんて言い出したらしい。」
「神崎?」
「ああ、フロアのバイトで高島と同じ大学の1年生だな、大学で会ったことは無かったらしいけどな。まあ、存在の薄い男だよ。これといった特徴は無いな。」
「にしても、物騒なこと言うなぁ。」
「でも、そこまで見つからなきゃそうなるよな。で、ダム湖を見てみるが、浮いている人影もない。まあ、沈んでたらわからないしな。」
「ヤなこと言うな。それこそ警察呼んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだよな。そう思うよな。」
「他人事だな。お前んとこに来たんだろう?呼んでやれよ。」
「いやいや、呼ぶんなら、ダムで呼べよ。どこに来てんだよって話だよ。」
「まあ、そうだけど、それだけお前を頼ってる事じゃねぇか。ちゃんと対応してやったのか?」
「いんや。呼んでない。」
「クズが」
「いやいや、最後まで聞けよ。で、奴らはパニックになって、慌てて店まで帰ってきたらしいんだよ。まあ、確かに高島以外は、チャリやらバイクを店に置きっパだしな。帰ってくる必要はあったんだが、そこに、いつもより早めに開店準備してた俺が居たわけだ。」
「グッドタイミングじゃねぇか。頼りになる店長だと見せるために警察を呼んだか?」
「呼ばない。」
「かたくなだな。なんでだよ。」
「いやいや、だれが居ないんだよって話なのよ。」
「へ?」
「いや、俺がそう思ったよ。最初に奴らが来た時に、『昨晩のシフトで一緒に居たアルバイトが一人消えた』と言ってんだけどさ。俺がシフト組んでんのよ。」
「おう、だから何?」
「昨日のシフト4人なんですけど。」
「は?」
「だから、昨日のシフトは、フロアが高島・神崎。キッチンが、村上・丸山の4人なのよ。」
「あと一人は?」
「居ねぇよ。メンバーとしてはあと一人大泉が居るけど、昨日は休みだ。だから、「一人いない」って言われても困るんだよね。いないの誰だよ?って話でさ。慌てて警察呼ばなくてよかったね。ってのが正直な感想だな。」
「その時に休みだった大泉が居たってことは無いのか?」
「ないだろうね。大泉はコミュ障だから、休みまで会いに来るような奴じゃないし。なにより髙橋の車、『軽自動車』だ。」
「軽を差別するのか?」
「いや、4人乗りだ。5人乗ってりゃかなり窮屈だ。それを言ったら、本人たちもきょとんとしてたよ。『あれ、居ないの誰だっけ?』ってさ。」
「わかんねぇじゃねぇか。その大泉とかが何かの間違いでやってきて、ぎゅうぎゅうの軽自動車でみんなでワッキャ言いながら言ったかもしれんだろ?」
「いや、その辺ことを聞いてみたら、行きの車は4人しか乗ってなかったってよ。運転高島、助手席丸山、後部座席が、運転席側村上、助手席側神崎、で、村上と神崎の間は誰も居ないってさ。ぎゅうぎゅうにもなってなかったらしい。
で、一応大泉にも聞いてみたよ。朝から電話したから不機嫌だったけど、ちゃんと家にいた。」
「ふ~ん。ある意味、本人たちには一番の恐怖体験だったんだな。」
「まあ、そんなところだな。開店前から疲れたよ。」
「お前は、その話聞いて何とも思わなかったのか?」
「?なにが。まあ、不思議なこともあるもんだなぁと、これが集団ヒステリーってやつかと思ったよ。」
「そうか。もしかしたら本当にいなくなった奴が居るのかもな。」
「いやなこと言うなよ。ま、俺はそういう心霊的なものは一切信じないけどな。」
「俺とぶつくさ話してるお前が言うかね。まあいい。じゃあな。」
黒猫はフイっと窓から出て行った。
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